上 下
16 / 31
旅は道連れ

15

しおりを挟む
 やはり黒川温泉か。
 写真から見ても、木が沢山あって陽射ひざしが少ない。全体が狭くて日光に当たる時間も減らせそう。あとランキング1位だし。
 どうせ行くなら、ティア独りでは絶対に行けない遠い所……と、雑誌を眺めるレイコがいるのは、またしてもティアの部屋。
 
「——や、おかしいよ! レイちゃん、当然のようにうちに帰って来すぎだよ!」

 キッチンでつまみを用意していたティアの、唐突な突っこみが響いた。
 リビングのソファに腰かけるレイコは、雑誌から目を上げる。大げさにきょとりとしてみせた。
 
「旅行の計画は、一緒に考える必要があるでしょ?」
「雑誌を読んでるだけだよね? 僕いま必要じゃないよね?」
「決めた、黒川温泉にしよう」
「えっ、僕の意思なく決めた?」
「日程は、宿の空き具合かつ金額と相談するね」
「僕とは相談しないのっ?」
「ティアくんはほぼ空いてるでしょ?」
「そうだけど……」
 
 納得のいっていないティアの顔から、ダイニングテーブルの上に置かれていた紙袋へと目を流した。

「私、テーブルの上、片付けようか?」
「え? ……あ、それはレイちゃんへのプレゼントだから、もらっていって」
「私に? なに?」
「日焼け止め」
「…………まさか、また高い物を……」
「や、高くないよ。普段使いの日焼け止めレビューを頼まれて……いろいろ試したなかで、よかったから。どうぞ」
 
 テーブルに寄って、紙袋をのぞき取り出してみる。内容物は、ふたつ。
 
「アクアシャボン……あ! スティックタイプ!」
「そ、塗りなおし用に。僕が試したのはもうひとつのポンプのほうで……そっちは玄関にでも置いておいて」
「ポンプか……今のがなくなったら、楽そうなスプレーでも買おうと思ってたんだけどな……」
「うん、きみは絶対に買わないから。あとスプレーは吸っちゃう心配もあるし……素直に塗って?」
「……はい、先生」
「いいこだね?」
 
 にこっと笑う顔が、つまみのプレートを持ってテーブルへ。
 その顔に、横目を投げる。
 
「早々に日焼け止め買ってくるなんて……なんだかんだティアくんも、旅行かなり楽しみにしてるよね?」

 ふっと笑みを鳴らす唇は、否定しない。
 代わりに、
 
「スティックタイプだと、旅行にも便利でしょ?」
「……ありがと」

 新しい日焼け止めを手に、旅行への期待を募らせる。
 そんなレイコに、ティアが普段の響きでアドバイスを加えた。
 
「日焼け止めは、来年まで保たないから、ちゃんと使いきってね」
「えっ……そうなの?」
「なるべくワンシーズンで。酸化した液体を塗ってるようなものだからね?」
「………………」
「……きみが使ってるの……いつの日焼け止め?」
「……記憶にない……」

 あきれかえったティアの目は、肩をすくめて受け流しておいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

サンドアートナイトメア

shiori
ライト文芸
(最初に)  今を生きる人々に勇気を与えるような作品を作りたい。  もっと視野を広げて社会を見つめ直してほしい。  そんなことを思いながら、自分に書けるものを書こうと思って書いたのが、今回のサンドアートナイトメアです。  物語を通して、何か心に響くものがあればと思っています。 (あらすじ)  産まれて間もない頃からの全盲で、色のない世界で生きてきた少女、前田郁恵は病院生活の中で、年齢の近い少女、三由真美と出合う。  ある日、郁恵の元に届けられた父からの手紙とプレゼント。  看護師の佐々倉奈美と三由真美、二人に見守られながら開いたプレゼントの中身は額縁に入れられた砂絵だった。  砂絵に初めて触れた郁恵はなぜ目の見えない自分に父は砂絵を送ったのか、その意図を考え始める。  砂絵に描かれているという海と太陽と砂浜、その光景に思いを馳せる郁恵に真美は二人で病院を抜け出し、砂浜を目指すことを提案する。  不可能に思えた願望に向かって突き進んでいく二人、そして訪れた運命の日、まだ日の昇らない明朝に二人は手をつなぎ病院を抜け出して、砂絵に描かれていたような砂浜を目指して旅に出る。    諦めていた外の世界へと歩みだす郁恵、その傍に寄り添い支える真美。  見えない視界の中を勇気を振り絞り、歩みだす道のりは、遥か先の未来へと続く一歩へと変わり始めていた。

処理中です...