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育てるなら、まつげ?
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「あー……教養不足で悪いんだけど、マツゲって何? 目の周りに生えてるやつしか知らないんだよね」
「うん、それで合ってるよ」
(合ってる、だと?)
衝撃的な顔で固まっていると、あははっとティアが明るく笑い声をあげた。
「後輩のコの話をしたときに、まつげが長くて可愛いって言ってたでしょ?」
「……言った、かな」
「羨ましそうだったから……レイちゃんもまつげを育てたらいいと思ったんだよ。ぜったい枯れないし」
「……私の認識違いかな? まつげって植物みたいに育つものだっけ?」
「うん、育つ育つ。髪も育毛って言うでしょ?」
ちょっと待っててね、と。
立ち上がったティアが、洗面所の方に消えたかと思うと……
戻って来た。手にはマスカラのようなアイテム。
「参考に、どうぞ」
「……なにこれ?」
「まつげ美容液」
「……そんな物があるんだ……この世界には私の知らない物がまだまだあるみたいだね……」
「え? そんな重いリアクションするほど驚くことかな?」
「これから先、私はどんな美容液が出てきても驚いたりしない」
「うん……?」
「……で、これはどう使うの?」
「まつげの根元に塗るだけだよ」
「ふーん……」
「朝と夜。毎日ね」
「ラッシュアディクトか……聞いたことないけど、いくらなの?」
「あっ、ごめん……」
「……なんで謝るの?」
「それってたしか1万こえた気がする……」
雑に持っていた手を、ぎゅっと丁重に握り直した。
「ティアくん学習能力ないかな!? こんなの買えるわけないよねっ?」
「や、まってまって! まだあるから! 落ち着いて!」
どんな美容液が出てきても驚かない。
そう言った矢先に、同じ美容液で新たに驚かされ怒っていると、あわてた彼がスマホを取り出した。
指先で何かを調べると、
「——こっち! コスノリの……ロングアクティブアイラッシュセラム! こっちにしよ! 僕も試したことあるから!」
見せてきた画面には、白いマスカラふうのコスメ。
「……それは、おいくら?」
「んーとね……あ、今なら2本で2千円のキャンペーンやってるよ! これなら許される値段じゃない?」
「………………」
「え……この値段でもダメ……?」
「いえ、検討しましょう」
仕事モードでキリッと返し、高級なほうの『まつげ美容液』を、そっと彼に手渡す。
受け取ったそれをテーブルに置くと、彼はほっと息をついてグラスを取った。
グラスに唇を合わせる隙間で、ぽそりと、
「……生き物を飼ったら、もっとお金かかると思うのにな……」
何か文句を言った気がしたが、聞こえないことにする。
「うん、それで合ってるよ」
(合ってる、だと?)
衝撃的な顔で固まっていると、あははっとティアが明るく笑い声をあげた。
「後輩のコの話をしたときに、まつげが長くて可愛いって言ってたでしょ?」
「……言った、かな」
「羨ましそうだったから……レイちゃんもまつげを育てたらいいと思ったんだよ。ぜったい枯れないし」
「……私の認識違いかな? まつげって植物みたいに育つものだっけ?」
「うん、育つ育つ。髪も育毛って言うでしょ?」
ちょっと待っててね、と。
立ち上がったティアが、洗面所の方に消えたかと思うと……
戻って来た。手にはマスカラのようなアイテム。
「参考に、どうぞ」
「……なにこれ?」
「まつげ美容液」
「……そんな物があるんだ……この世界には私の知らない物がまだまだあるみたいだね……」
「え? そんな重いリアクションするほど驚くことかな?」
「これから先、私はどんな美容液が出てきても驚いたりしない」
「うん……?」
「……で、これはどう使うの?」
「まつげの根元に塗るだけだよ」
「ふーん……」
「朝と夜。毎日ね」
「ラッシュアディクトか……聞いたことないけど、いくらなの?」
「あっ、ごめん……」
「……なんで謝るの?」
「それってたしか1万こえた気がする……」
雑に持っていた手を、ぎゅっと丁重に握り直した。
「ティアくん学習能力ないかな!? こんなの買えるわけないよねっ?」
「や、まってまって! まだあるから! 落ち着いて!」
どんな美容液が出てきても驚かない。
そう言った矢先に、同じ美容液で新たに驚かされ怒っていると、あわてた彼がスマホを取り出した。
指先で何かを調べると、
「——こっち! コスノリの……ロングアクティブアイラッシュセラム! こっちにしよ! 僕も試したことあるから!」
見せてきた画面には、白いマスカラふうのコスメ。
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「んーとね……あ、今なら2本で2千円のキャンペーンやってるよ! これなら許される値段じゃない?」
「………………」
「え……この値段でもダメ……?」
「いえ、検討しましょう」
仕事モードでキリッと返し、高級なほうの『まつげ美容液』を、そっと彼に手渡す。
受け取ったそれをテーブルに置くと、彼はほっと息をついてグラスを取った。
グラスに唇を合わせる隙間で、ぽそりと、
「……生き物を飼ったら、もっとお金かかると思うのにな……」
何か文句を言った気がしたが、聞こえないことにする。
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