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ハウス・トーナメント
Ready, Fight! 5
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「セトとサクラ、どっちが勝つか賭けねェ~?」
ノイズ混じりの発案が、天井の観戦席に響いた。
誰ともなく向けられた問いに、ハオロンが隣のロキへと顔を向ける。
「なに賭けるんやぁ~?」
「個人ロボ?」
「そんなん要らんよ?」
「じゃァ、相手の欲しいもんを、遠征行ったときに外から探してくンのは?」
「うちの手裏剣、探してくれるんかぁ?」
「手裏剣はねェって。そォゆう難問ナシ」
「えぇ~?」
彼女を挟んで聞いていたティアが、
「僕はサクラさんに賭ける。(そうすればサクラさんが勝っても気持ち的にプラマイゼロ)……で、僕の欲しい絵を探してきてほしいな」
ちゃっかり賭けに乗っかった。
ティアに意外そうな目を送った横のメルウィンは、「僕は、賭け事は遠慮するね……?」ひかえめに離脱。単にロキと関わりたくないようにも見える。
ハオロンの奥にいたアリアとイシャンは、互いに目を合わせて(どうします?)(私は参加しない)意思疎通してから、アリアだけが、
「ロキさんは、どちらが勝つと思われますか?」
「ただの格闘ならセト。武器使うならサクラ」
「仮定条件を設けてもいいのでしょうか……?」
アリアの疑問には、ティアが「なし」きっぱりと答えた。
始まった試合を見下ろし、ハオロンがセトとサクラを確認する。
「セトは素手でいくっぽいわ。サクラさんも……いちおう素手やの?」
向かい合う二人は動かない。
というのも、対戦エリアはスタートから電撃の閃光が所々に走っていて、下手に動けそうもない。
雷を演出しているらしき立体投影をカムフラージュに、細い電線が頭上からランダムに垂れ落ちてくる。あれに触れればどうなるか、天上人からしても答えは明白だった。確実に感電……
「——ハオロン! お前、あとで覚えとけよ」
地上から、怖い金の眼と脅しが。
いつになく目つきの悪いセトに、ハオロンが「うち~?」首をすくめる。誰もハオロンに同情はしなかった。
足下のセトから逃げるように、ハオロンはロキへと確認。
「で、どっちに賭けるんや?」
「……サクラ」
「ロキ、サクラさんなんか? 意外やの……まぁ、うちもサクラさんやけどの。ありすは?」
ひょこりとロキの胴体越しに、彼女へと顔を見せたハオロン。首を傾けて考える彼女は、
「……セト?」
むしろ、どうして皆サクラなのか。圧倒的にセトが強そうなのに。
不思議な顔でセトの名前を答えた彼女に、ハオロンはニコッと急な笑顔を返してから、アリアとイシャンを振り返った。
「二人は?」
「私は……遠慮いたしますね」
「私も、参加しない」
「ほやったら……んと、ロキとティアとうちと……ありすの4人だけか?」
確認された名前に、彼女が、
(セトが負けたら、私ひとりでみんなの欲しい物を探すことに……?)
重要問題に気づいたが、地上の試合はすでに展開を見せている。
セトが様子見するように距離を縮め、低い蹴りを仕掛けたが、外れる。
繰り出す拳は当たりそうで当たらない。スピードを上げてみるが、空間に走る電流によって妨げられる。
(うぜぇな……)
柱といい、炎といい、壁がある環境は、セトにとって大きく不利となる。セトの特性はスピードと力。相手を掴んでしまえれば早いのだが、サクラは雷の演出を利用し、絶妙に距離を取ってくる。
ランダムの電流がどこに走るか分からないセトと違って、すでにサクラは正確に予測がついているようだった。セトの場合は、雷が映し出される直前の空間の揺らぎを感覚で捉えているため、反応が半瞬遅れる。
距離を詰めきれない。
どうするか。
ただでさえ動きは読まれている。
——サクラさんがセト君に負けない理由……君の動きが読まれてるんじゃない?
試合の前にティアが寄越した助言は、意味を成していない。動きが読まれるならば、それを超える速度で攻撃すればいい——との結論だったのに、あちらに有利な壁によって少しもスピードを上げていけない。
ただ、あちらから攻撃がくることもない。
試合は完全に平行線をたどっている。
と、思いきや。
「……来ないのなら、私から行こうか?」
くすりと鳴らされた笑みの音が、セトの鼓膜を掻いた。
——突如、サクラの脚が鋭く跳ね上がる。長い脚の先、硬い靴の爪先がセトの膝を砕くように狙った。
当然のごとく回避で半歩さがったセトの半身に、ビリッと。
「っ……」
息を呑む音が、小さく響く。回避した身体は、よけた先で電撃を喰らった。
電線に触れた腕の痛みから、電流は10ミリアンペアに満たないと推測される。命に影響はないが、もちろん痛い。痛みに耐性のあるセトだから耐えきれるが、ティアあたりは動けなくなるだろう。
(あとでハオロンにも喰らわしてやる)
固く誓うセトに、サクラから追い打ちの攻撃が掛かった。
痺れで利き手が使えないと踏んだのか、距離を詰めたサクラの脚は容赦なく利き手側へと蹴り込み、セトの足許を崩しにいく。よけた身体は、またしても電撃を受け、
(雷に誘導されてんのか!)
気づいたが、遅すぎた。
セトの特性である俊敏な判断と動きを、サクラの思考は当然のごとく上回った。
——私に勝てると思っているのか?
以前の手合わせで、サクラが口にしたセリフが、セトの脳裏にひらめく。
イラッと。反射的に弾けた感情から、セトは高く脚を上げ、サクラの顔を目掛けて、
——これは、アリアの攻撃をまねたハイキック。
苛立ちから思考放棄したようでいて、セトの肉体は無意識ながらも冷静に攻撃を組み立てた。
アリアのハイキックに対して、サクラが腕を回し捕らえたのを知っていたからこそ、
受け止められるもんなら受け止めてみろよ——。
痛みや痺れを無視し、渾身の蹴りを打ちかました。
ここまでの試合において、最低限の配慮で抑えられていた力を——すべて。
スローモーションのような視界のなか、サクラの顔が、ふと笑ったように見えた。
セトの錯覚か、どうか。
判断する前に、上げた脚は受け止められることなく空を切る。
後退したサクラの上体へ、勢いのまま続けて回し蹴りを、
——繰り出すことは、叶わなかった。
響いた軽い音と、足に受けた衝撃。
自らのハイキックによって生まれた死角から、サクラが小型のハンドガンでセトの足を狙ったと理解したときには、崩された足のせいで床に手をついていた。
《サクラ兄さんの勝ちー!》
高らかな宣言によって、勝敗は決していた。
ノイズ混じりの発案が、天井の観戦席に響いた。
誰ともなく向けられた問いに、ハオロンが隣のロキへと顔を向ける。
「なに賭けるんやぁ~?」
「個人ロボ?」
「そんなん要らんよ?」
「じゃァ、相手の欲しいもんを、遠征行ったときに外から探してくンのは?」
「うちの手裏剣、探してくれるんかぁ?」
「手裏剣はねェって。そォゆう難問ナシ」
「えぇ~?」
彼女を挟んで聞いていたティアが、
「僕はサクラさんに賭ける。(そうすればサクラさんが勝っても気持ち的にプラマイゼロ)……で、僕の欲しい絵を探してきてほしいな」
ちゃっかり賭けに乗っかった。
ティアに意外そうな目を送った横のメルウィンは、「僕は、賭け事は遠慮するね……?」ひかえめに離脱。単にロキと関わりたくないようにも見える。
ハオロンの奥にいたアリアとイシャンは、互いに目を合わせて(どうします?)(私は参加しない)意思疎通してから、アリアだけが、
「ロキさんは、どちらが勝つと思われますか?」
「ただの格闘ならセト。武器使うならサクラ」
「仮定条件を設けてもいいのでしょうか……?」
アリアの疑問には、ティアが「なし」きっぱりと答えた。
始まった試合を見下ろし、ハオロンがセトとサクラを確認する。
「セトは素手でいくっぽいわ。サクラさんも……いちおう素手やの?」
向かい合う二人は動かない。
というのも、対戦エリアはスタートから電撃の閃光が所々に走っていて、下手に動けそうもない。
雷を演出しているらしき立体投影をカムフラージュに、細い電線が頭上からランダムに垂れ落ちてくる。あれに触れればどうなるか、天上人からしても答えは明白だった。確実に感電……
「——ハオロン! お前、あとで覚えとけよ」
地上から、怖い金の眼と脅しが。
いつになく目つきの悪いセトに、ハオロンが「うち~?」首をすくめる。誰もハオロンに同情はしなかった。
足下のセトから逃げるように、ハオロンはロキへと確認。
「で、どっちに賭けるんや?」
「……サクラ」
「ロキ、サクラさんなんか? 意外やの……まぁ、うちもサクラさんやけどの。ありすは?」
ひょこりとロキの胴体越しに、彼女へと顔を見せたハオロン。首を傾けて考える彼女は、
「……セト?」
むしろ、どうして皆サクラなのか。圧倒的にセトが強そうなのに。
不思議な顔でセトの名前を答えた彼女に、ハオロンはニコッと急な笑顔を返してから、アリアとイシャンを振り返った。
「二人は?」
「私は……遠慮いたしますね」
「私も、参加しない」
「ほやったら……んと、ロキとティアとうちと……ありすの4人だけか?」
確認された名前に、彼女が、
(セトが負けたら、私ひとりでみんなの欲しい物を探すことに……?)
重要問題に気づいたが、地上の試合はすでに展開を見せている。
セトが様子見するように距離を縮め、低い蹴りを仕掛けたが、外れる。
繰り出す拳は当たりそうで当たらない。スピードを上げてみるが、空間に走る電流によって妨げられる。
(うぜぇな……)
柱といい、炎といい、壁がある環境は、セトにとって大きく不利となる。セトの特性はスピードと力。相手を掴んでしまえれば早いのだが、サクラは雷の演出を利用し、絶妙に距離を取ってくる。
ランダムの電流がどこに走るか分からないセトと違って、すでにサクラは正確に予測がついているようだった。セトの場合は、雷が映し出される直前の空間の揺らぎを感覚で捉えているため、反応が半瞬遅れる。
距離を詰めきれない。
どうするか。
ただでさえ動きは読まれている。
——サクラさんがセト君に負けない理由……君の動きが読まれてるんじゃない?
試合の前にティアが寄越した助言は、意味を成していない。動きが読まれるならば、それを超える速度で攻撃すればいい——との結論だったのに、あちらに有利な壁によって少しもスピードを上げていけない。
ただ、あちらから攻撃がくることもない。
試合は完全に平行線をたどっている。
と、思いきや。
「……来ないのなら、私から行こうか?」
くすりと鳴らされた笑みの音が、セトの鼓膜を掻いた。
——突如、サクラの脚が鋭く跳ね上がる。長い脚の先、硬い靴の爪先がセトの膝を砕くように狙った。
当然のごとく回避で半歩さがったセトの半身に、ビリッと。
「っ……」
息を呑む音が、小さく響く。回避した身体は、よけた先で電撃を喰らった。
電線に触れた腕の痛みから、電流は10ミリアンペアに満たないと推測される。命に影響はないが、もちろん痛い。痛みに耐性のあるセトだから耐えきれるが、ティアあたりは動けなくなるだろう。
(あとでハオロンにも喰らわしてやる)
固く誓うセトに、サクラから追い打ちの攻撃が掛かった。
痺れで利き手が使えないと踏んだのか、距離を詰めたサクラの脚は容赦なく利き手側へと蹴り込み、セトの足許を崩しにいく。よけた身体は、またしても電撃を受け、
(雷に誘導されてんのか!)
気づいたが、遅すぎた。
セトの特性である俊敏な判断と動きを、サクラの思考は当然のごとく上回った。
——私に勝てると思っているのか?
以前の手合わせで、サクラが口にしたセリフが、セトの脳裏にひらめく。
イラッと。反射的に弾けた感情から、セトは高く脚を上げ、サクラの顔を目掛けて、
——これは、アリアの攻撃をまねたハイキック。
苛立ちから思考放棄したようでいて、セトの肉体は無意識ながらも冷静に攻撃を組み立てた。
アリアのハイキックに対して、サクラが腕を回し捕らえたのを知っていたからこそ、
受け止められるもんなら受け止めてみろよ——。
痛みや痺れを無視し、渾身の蹴りを打ちかました。
ここまでの試合において、最低限の配慮で抑えられていた力を——すべて。
スローモーションのような視界のなか、サクラの顔が、ふと笑ったように見えた。
セトの錯覚か、どうか。
判断する前に、上げた脚は受け止められることなく空を切る。
後退したサクラの上体へ、勢いのまま続けて回し蹴りを、
——繰り出すことは、叶わなかった。
響いた軽い音と、足に受けた衝撃。
自らのハイキックによって生まれた死角から、サクラが小型のハンドガンでセトの足を狙ったと理解したときには、崩された足のせいで床に手をついていた。
《サクラ兄さんの勝ちー!》
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