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ハウス・トーナメント
Ready, Fight! 4
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3試合目。対戦エリアは燃えていた。
「おいミヅキ! エネルギーの無駄使いだろっ!」
吼えるセトの周りには揺らめく炎が立ち上がっていて、よく見れば立体投影なのだが……
「あっつぅ……」
炎に囲まれるハオロンが、熱気にへたりと肩を下げる。どうやら炎の映像は熱を帯びているらしい。発火するほどの温度ではないと思われるが、セトとハオロンの双方、汗をかいているような様子が天上から見て取れる。
熱気を感じない天上組は、(ティアが真っ先に)観戦用のイスを出していて、のんびりと見下ろしていた。ちなみにメルウィン・サクラのペアは吹雪らしい。凍えるメルウィンは寒そうだが、サクラは風に目を細めるだけで平然としている。小狡いことに、サクラのインナーは温度調節可能なスマートマテリアル。端から皆も察していたが、対戦結果は見えたも同然だった。
観戦のため透過した床越しに、寒暖差の激しい東西を見渡したティアが、
「こんなことで節電モード入ったらやだなぁ~?」
「大丈夫だよ、ティアくん。これくらいなら節電にならないよ。歓迎会のときは、ツリーの運搬で過剰にエネルギーを消費しちゃっただけだと思う……」
「そうだったんだ? たしかに? 運ぶための通路を確保するためにも伐採がいる……うん? 空から運んだのかな?」
(いま思うと、こっそり運ぶのって相当な労力が必要だった?)
軽い気持ちでクリスマスツリーを挙げたティア。2ヶ月遅れで、自分はなかなかにハードな試練をセトに与えていたのだと知った。
ティアは、自分の横に並んでいた彼女の耳に口を寄せて、
「——歓迎会のクリスマスツリーって、セト君が用意してくれたんだけど……知ってる?」
「はい」
「あ、知ってた?」
「ハオロンから、ききました」
「ロン君から?」
意外な情報源に、ティアは下界の三つ編みを眺める。始まりの合図に動いた小柄な身体は、セトの攻撃を華麗によけ、拡大された映像のなか笑っている。
(ロン君は、セト君の気持ち、知ってるのかな……?)
疑問を胸に、ティアはそろりと彼女の横顔をうかがった。
彼女の瞳の動きはセトを追っているような。セトを応援しているのか、ティアが話題に出したからなのか……。
「……ね、アリスちゃん」
こちらに流れる彼女の瞳を、ティアは注意深く見つめて、
「ハウスから離れてるあいだに、セト君と何かあった?」
「?」
きょとりとする目に、とぼけている様子はない。
彼女は考えるように首をひねってから、
「なにか?」
「……や、セト君、出てるあいだに丸くなった(?)気がするから……海上都市にいたときは、どんな感じだったのかな……なんて思って」
「セトは、〈しごと〉を〈いっぱい〉してました」
「しごと?」
「〈こんぴゅーた〉で、いろいろ」
「アリスちゃんは一緒にいなかったの?」
「いえ……いっしょに、くらしてた」
「えっ?」
「?」
「アリスちゃんとセト君、一緒に暮らしてたの? それってどういう意味で? まさか同じ部屋ってこと?」
「はい」
「それは……(なんて危険な)」
彼女の耳許でぽそぽそと話していたので、大きな声ではない。炎やら吹雪やら、格闘の音が拾われているため、観客席にも臨場感あふれる音が届いていて、彼女の声も紛れている。
ティアの意見は、ハオロンの「あぁもうっ! ぜんぜん当たらん!」に消されてしまった。
しかし、ティアに答えて、初めて思い出したかのような顔をした彼女。
「そういえば……〈べっど〉は、どうして、ひとつ……?」
「え? なんて?」
何か疑問に思うことが浮かんだようだったが、
《——サクラ兄さんの勝ち!》
吹雪のエリアで先に決着した試合が、二人の意識を引いていた。
あちらの試合は、最初のうち逃げてみようかと距離を取っていたメルウィンだったが、(寒い……)時間の無駄を悟って素直にサクラへと攻撃を仕掛け、さらりと腕を取られて地面に倒されたらしい。
吹雪が止まり、暖を取ろうとしたメルウィンが炎エリアに寄っていく。観戦のためか、サクラもメルウィンに並んだ。
セトとハオロンの試合は、いまだ続いていた。
「ちょこまか逃げんな!」
「セトこそ! よけんといて!」
気づけばハオロンは武器を使用している。
「おや? あれは何を投げているのでしょう? ダーツにしては……ひょっとして十字架でしょうか?」
拡大映像に目を向けるアリアから、不謹慎な情報が。
(ばち当たり……)
などとティアは思ったが、彼女の奥、かつアリアの横にいたロキが否定した。
「あれは手裏剣」
「シュリケン……?」
「投擲武器の一種。欲しいとか喚いてたから、自分でそれっぽいの作ったんじゃねェ?」
攻めてくるセトを炎で撒きつつ、手裏剣とやらを打ち込むハオロン。
不思議な形状だがナイフのように先が尖っていて……ティアが見るに、
(危なくない?)
アリアの奥にいたイシャンも、同じことを思っていたようで、
「あれは危険だと思うのだが……止めなくてよいのだろうか?」
「当たンね~から危なくねェよ」
ロキの返答にイシャンは(それは結果論では……?)困惑したが、たしかにセトはどれも躱している。投擲の際に手首を曲げる動作があるせいで、投げ筋を読まれるのだろう。顔は狙っていないので、ハオロンも危険性は考慮しているらしい。
ただ、ちょろちょろと動きながら謎の武器を仕掛けてくるハオロンに、セトが段々と苛立ちを募らせたのか、
ガッ、と。
盾に使われていた炎へ、勢いに任せて突っ込んだセトは、ハオロンの襟首を掴んだ。
「あっ!」
ハオロンの慌てた顔を、熱さに顔をしかめたセトの目が捉える。
襟首を押さえたまま、ハオロンの足を薙ぐようにセトの足が入った。バランスを失ったハオロンの身体を、セトが押し倒すように地面に落として——
《セトの勝ち!》
「あぁ~~~っ!!」
ハオロンの盛大な嘆声が、トレーニングルームいっぱいに広がった。
「うるせぇよ」
セトによって塞がれた手の下で、ハオロンからモゴモゴと何か訴えが出ているが、それよりも。
(眼が痛ぇ)
炎の演出から、セトは思いのほかダメージを受けていた。一瞬であったが非常に熱く、炎(蒸気を含む熱気)に触れた肌はヒリヒリしている。
(やりすぎだろ……)
胸中でミヅキを恨みかけたが、よくよく考えてみればエリアのデザインは……おそらく、手の下のこのゲーマー。
「(痛い痛い痛い! なんで力入れるんやっ? 試合もう終わってるんやけど!?)」
塞いでいた口ごと、顎を絞めるように力を入れて黙らせておいた。
「おいミヅキ! エネルギーの無駄使いだろっ!」
吼えるセトの周りには揺らめく炎が立ち上がっていて、よく見れば立体投影なのだが……
「あっつぅ……」
炎に囲まれるハオロンが、熱気にへたりと肩を下げる。どうやら炎の映像は熱を帯びているらしい。発火するほどの温度ではないと思われるが、セトとハオロンの双方、汗をかいているような様子が天上から見て取れる。
熱気を感じない天上組は、(ティアが真っ先に)観戦用のイスを出していて、のんびりと見下ろしていた。ちなみにメルウィン・サクラのペアは吹雪らしい。凍えるメルウィンは寒そうだが、サクラは風に目を細めるだけで平然としている。小狡いことに、サクラのインナーは温度調節可能なスマートマテリアル。端から皆も察していたが、対戦結果は見えたも同然だった。
観戦のため透過した床越しに、寒暖差の激しい東西を見渡したティアが、
「こんなことで節電モード入ったらやだなぁ~?」
「大丈夫だよ、ティアくん。これくらいなら節電にならないよ。歓迎会のときは、ツリーの運搬で過剰にエネルギーを消費しちゃっただけだと思う……」
「そうだったんだ? たしかに? 運ぶための通路を確保するためにも伐採がいる……うん? 空から運んだのかな?」
(いま思うと、こっそり運ぶのって相当な労力が必要だった?)
軽い気持ちでクリスマスツリーを挙げたティア。2ヶ月遅れで、自分はなかなかにハードな試練をセトに与えていたのだと知った。
ティアは、自分の横に並んでいた彼女の耳に口を寄せて、
「——歓迎会のクリスマスツリーって、セト君が用意してくれたんだけど……知ってる?」
「はい」
「あ、知ってた?」
「ハオロンから、ききました」
「ロン君から?」
意外な情報源に、ティアは下界の三つ編みを眺める。始まりの合図に動いた小柄な身体は、セトの攻撃を華麗によけ、拡大された映像のなか笑っている。
(ロン君は、セト君の気持ち、知ってるのかな……?)
疑問を胸に、ティアはそろりと彼女の横顔をうかがった。
彼女の瞳の動きはセトを追っているような。セトを応援しているのか、ティアが話題に出したからなのか……。
「……ね、アリスちゃん」
こちらに流れる彼女の瞳を、ティアは注意深く見つめて、
「ハウスから離れてるあいだに、セト君と何かあった?」
「?」
きょとりとする目に、とぼけている様子はない。
彼女は考えるように首をひねってから、
「なにか?」
「……や、セト君、出てるあいだに丸くなった(?)気がするから……海上都市にいたときは、どんな感じだったのかな……なんて思って」
「セトは、〈しごと〉を〈いっぱい〉してました」
「しごと?」
「〈こんぴゅーた〉で、いろいろ」
「アリスちゃんは一緒にいなかったの?」
「いえ……いっしょに、くらしてた」
「えっ?」
「?」
「アリスちゃんとセト君、一緒に暮らしてたの? それってどういう意味で? まさか同じ部屋ってこと?」
「はい」
「それは……(なんて危険な)」
彼女の耳許でぽそぽそと話していたので、大きな声ではない。炎やら吹雪やら、格闘の音が拾われているため、観客席にも臨場感あふれる音が届いていて、彼女の声も紛れている。
ティアの意見は、ハオロンの「あぁもうっ! ぜんぜん当たらん!」に消されてしまった。
しかし、ティアに答えて、初めて思い出したかのような顔をした彼女。
「そういえば……〈べっど〉は、どうして、ひとつ……?」
「え? なんて?」
何か疑問に思うことが浮かんだようだったが、
《——サクラ兄さんの勝ち!》
吹雪のエリアで先に決着した試合が、二人の意識を引いていた。
あちらの試合は、最初のうち逃げてみようかと距離を取っていたメルウィンだったが、(寒い……)時間の無駄を悟って素直にサクラへと攻撃を仕掛け、さらりと腕を取られて地面に倒されたらしい。
吹雪が止まり、暖を取ろうとしたメルウィンが炎エリアに寄っていく。観戦のためか、サクラもメルウィンに並んだ。
セトとハオロンの試合は、いまだ続いていた。
「ちょこまか逃げんな!」
「セトこそ! よけんといて!」
気づけばハオロンは武器を使用している。
「おや? あれは何を投げているのでしょう? ダーツにしては……ひょっとして十字架でしょうか?」
拡大映像に目を向けるアリアから、不謹慎な情報が。
(ばち当たり……)
などとティアは思ったが、彼女の奥、かつアリアの横にいたロキが否定した。
「あれは手裏剣」
「シュリケン……?」
「投擲武器の一種。欲しいとか喚いてたから、自分でそれっぽいの作ったんじゃねェ?」
攻めてくるセトを炎で撒きつつ、手裏剣とやらを打ち込むハオロン。
不思議な形状だがナイフのように先が尖っていて……ティアが見るに、
(危なくない?)
アリアの奥にいたイシャンも、同じことを思っていたようで、
「あれは危険だと思うのだが……止めなくてよいのだろうか?」
「当たンね~から危なくねェよ」
ロキの返答にイシャンは(それは結果論では……?)困惑したが、たしかにセトはどれも躱している。投擲の際に手首を曲げる動作があるせいで、投げ筋を読まれるのだろう。顔は狙っていないので、ハオロンも危険性は考慮しているらしい。
ただ、ちょろちょろと動きながら謎の武器を仕掛けてくるハオロンに、セトが段々と苛立ちを募らせたのか、
ガッ、と。
盾に使われていた炎へ、勢いに任せて突っ込んだセトは、ハオロンの襟首を掴んだ。
「あっ!」
ハオロンの慌てた顔を、熱さに顔をしかめたセトの目が捉える。
襟首を押さえたまま、ハオロンの足を薙ぐようにセトの足が入った。バランスを失ったハオロンの身体を、セトが押し倒すように地面に落として——
《セトの勝ち!》
「あぁ~~~っ!!」
ハオロンの盛大な嘆声が、トレーニングルームいっぱいに広がった。
「うるせぇよ」
セトによって塞がれた手の下で、ハオロンからモゴモゴと何か訴えが出ているが、それよりも。
(眼が痛ぇ)
炎の演出から、セトは思いのほかダメージを受けていた。一瞬であったが非常に熱く、炎(蒸気を含む熱気)に触れた肌はヒリヒリしている。
(やりすぎだろ……)
胸中でミヅキを恨みかけたが、よくよく考えてみればエリアのデザインは……おそらく、手の下のこのゲーマー。
「(痛い痛い痛い! なんで力入れるんやっ? 試合もう終わってるんやけど!?)」
塞いでいた口ごと、顎を絞めるように力を入れて黙らせておいた。
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