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ハウス・トーナメント
Ready, Fight! 2
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「ロキ! 卑怯だぞ!」
「武器ナシなんて誰も言ってねェし」
「お前はユーグか!」
「なんでユーグ?」
「あいつもタイマンでナイフ使ってきやがった」
「正しいよな? てめェ相手に素手でやるなんて、むしろ馬鹿じゃん?」
「なんでだよ! 素手で来いよ!」
「ヤだね。オレは人間だし、文明の利器は活用する」
「俺も人間だ!」
天上からの銃撃に、防戦一方のセト。
中央の安全空間は宙に上がっていて、上からそれぞれを観戦中のハオロンが声をあげている。
「いけ! ロキ! いつも当たり前に勝てると思ってるセトに、積年の恨みを霽らして!」
——トレーニング不足で弱っているセトを狙いうちしよう!
プライベートな目的で盛り上がるハオロンの横、アリアとイシャンはセトに同情の視線。
「セトさんは、このままだと厳しいですね」
「弾が切れるのを待つとしても……スプリングシューズを見るに、ロキは他にも用意があるように思う」
「ロキさんは、昔から事前準備が万全ですからね」
「(悪事に関してだけだと思うが……)」
降りそそぐ銃弾は柱もあってなかなか当たらず、本物でないため、かする程度ではダメージにもならない。
柱を盾にロキと距離を取るセトを眺めていたハオロンは、展開が滞っているのもあり、「メルウィンらは……」反対側に目を送った。サクラと彼女はそちらを見ていた。
「わっ、メル君、ごめん!」
「ううん、大丈夫」
「……ティアとメルウィンは、なんてゆうか……微笑ましい?」
護身術のスローお手本のような。
ティアが伸ばした腕をメルウィンが防御したり、服を掴んだのを払ったり。フィールドはまったく活かされておらず、護身術の初級レベルを実践でゆるりと試しているだけに見える。
一応メルウィンはティアの攻撃をきちんと対処している。
対人経験のないティアのもたついた様子にしばらく付き合っていたようだったが、少し勢いのついたティアの腕を取ると、メルウィンはティアの腰に反対の手を回して抱き締めるようにくるりと——柔道でいうならば浮き腰に近い技で——極めた。
比較的に優しく床に倒されたティアが、目を丸くしている。
「え! 普通に倒された?」
「ぁ……ごめんね、上手くいきそうだったから……つい」
「つい!?」
二人の応酬に、ハオロンがサクラを横に見上げ、
「……ねぇ、サクラさん。ティアって護身術ほんとにやってるんかぁ?」
「ログを見る限りはやっているらしいな」
「あれで……?」
ハオロンの疑いの目が、地上に落ちる。
サクラの横で、同じく見ていた彼女が難しい顔をして、「いまのは……ここをつかんで、こう?」護身術の練習なのか、メルウィンの動きをまねしていた。
横目に見たサクラが、おもむろに彼女の腕を取る。
「こうだね」
実践してみせるが、床に倒す前に彼女の体を支え、とどめたせいか……お姫様だっこ。とまでは言わないが、上半身だけ抱き抱えるみたいなかたちで、サクラと彼女の目が上下に合う。
びっくりしている彼女とサクラの距離が近すぎて、ハオロンもびっくり。
「——そんなことより、ありす! セトに声援送ってあげてや!」
なんとなく間を裂くようにして、彼女の気をひいていた。
「……?」
「このままやと平行線やし、つまらんやろ? セトに発破かけてくれんかぁ? がんばれーって、セトに」
この数秒で〈セトに〉を3回も口にした。
サクラから意識を流した彼女が、(……私が?)考えつつも身を起こし、地上のセトに向け、
「がんばって!」
名前を出さなかったのは、彼女が正しい。セトだけ応援したならば、ロキから不平等の反発が出る。
ハオロンが見守る先では、マシンを通して拡声された彼女の応援に、セトが反応を見せた。攻撃に転じるスイッチが入ったらしい。
セトは傾いた低めの柱に狙いを定め、走り込み——勢いで駆け上がる。それでもロキのいる地点よりは、かなり低い。
そこからどうするのか。ハオロンが予想できずに見ていると、並んでいる柱で間隔の狭い箇所を、左右の柱を交互に蹴っていき、
(えぇ~? 嘘やろっ? アイテムなしで……)
登ってしまった。
ゆっくりならまだしも、あんな速度で柱のわずかなデコボコを足掛かりに上がっていくとは。やはりセトは人間ではない。ロキも呆気にとられている。
高い天井に柱は全く到達しておらず、上部は平べったい。
ひとつひとつの柱の間隔はまちまちで、距離がある箇所もあるのだが、セトの異常脚力で跳び越えられる。あっというまにロキとの距離が縮められた。
「ロキ、撃ち忘れてるよ!」
ハオロンが声を掛けると、セトの超人パフォーマンスに見入っていたロキが、思い出したようにハンドガンを構えた。
しかし、その手は躊躇を含む。
この距離で当たれば、かなり痛い。飛距離からダメージを計算してしまったロキが、狙いどころを絞るうちに、セトがロキの捕まる柱まで。
「あぁ~!」
ハオロンの嘆きも虚しく。
勢いに任せたセトがロキを目掛け、柱から飛び降りるようにして、空中で攻撃を仕掛けた。
「ちょっ、落ちるって!」
「落としに来たんだよ!」
セトに胸倉を捕らえられたロキの手が、柱から離れる。二人して地上に——けっこうな高さを落ちていった。
ハオロンは知っている。
トレーニングルームの床は、こういうときに備えて、きちんと形状変化する。柔らかく受け止められるようになっている。当然、他の兄弟たちも認知している。
しかし、彼女は何も知らなかったのか。
悲鳴のような声で叫んだ彼女に、落下する二人から目を外してハオロンはフォローしていた。
「ありす、大丈夫やって! ここ落ちても死なんよっ?」
ハオロンだけでなく、彼女の反応にイシャンやアリアも驚いたようで。
さらには地上で隣の対戦を見ていたメルウィンやティア、すでに地に落ちきったセトとロキも、響いた悲鳴にびっくり。
しん、と消える悲鳴の余韻。
蒼白な顔をした彼女が、落ちた二人の無事な姿に安堵するよりも、
《——ロキが先に床に落ちたから、セトの勝ち!》
ミヅキの鈴を転がすような可愛い声が、暢気に勝敗を告げていた。
「武器ナシなんて誰も言ってねェし」
「お前はユーグか!」
「なんでユーグ?」
「あいつもタイマンでナイフ使ってきやがった」
「正しいよな? てめェ相手に素手でやるなんて、むしろ馬鹿じゃん?」
「なんでだよ! 素手で来いよ!」
「ヤだね。オレは人間だし、文明の利器は活用する」
「俺も人間だ!」
天上からの銃撃に、防戦一方のセト。
中央の安全空間は宙に上がっていて、上からそれぞれを観戦中のハオロンが声をあげている。
「いけ! ロキ! いつも当たり前に勝てると思ってるセトに、積年の恨みを霽らして!」
——トレーニング不足で弱っているセトを狙いうちしよう!
プライベートな目的で盛り上がるハオロンの横、アリアとイシャンはセトに同情の視線。
「セトさんは、このままだと厳しいですね」
「弾が切れるのを待つとしても……スプリングシューズを見るに、ロキは他にも用意があるように思う」
「ロキさんは、昔から事前準備が万全ですからね」
「(悪事に関してだけだと思うが……)」
降りそそぐ銃弾は柱もあってなかなか当たらず、本物でないため、かする程度ではダメージにもならない。
柱を盾にロキと距離を取るセトを眺めていたハオロンは、展開が滞っているのもあり、「メルウィンらは……」反対側に目を送った。サクラと彼女はそちらを見ていた。
「わっ、メル君、ごめん!」
「ううん、大丈夫」
「……ティアとメルウィンは、なんてゆうか……微笑ましい?」
護身術のスローお手本のような。
ティアが伸ばした腕をメルウィンが防御したり、服を掴んだのを払ったり。フィールドはまったく活かされておらず、護身術の初級レベルを実践でゆるりと試しているだけに見える。
一応メルウィンはティアの攻撃をきちんと対処している。
対人経験のないティアのもたついた様子にしばらく付き合っていたようだったが、少し勢いのついたティアの腕を取ると、メルウィンはティアの腰に反対の手を回して抱き締めるようにくるりと——柔道でいうならば浮き腰に近い技で——極めた。
比較的に優しく床に倒されたティアが、目を丸くしている。
「え! 普通に倒された?」
「ぁ……ごめんね、上手くいきそうだったから……つい」
「つい!?」
二人の応酬に、ハオロンがサクラを横に見上げ、
「……ねぇ、サクラさん。ティアって護身術ほんとにやってるんかぁ?」
「ログを見る限りはやっているらしいな」
「あれで……?」
ハオロンの疑いの目が、地上に落ちる。
サクラの横で、同じく見ていた彼女が難しい顔をして、「いまのは……ここをつかんで、こう?」護身術の練習なのか、メルウィンの動きをまねしていた。
横目に見たサクラが、おもむろに彼女の腕を取る。
「こうだね」
実践してみせるが、床に倒す前に彼女の体を支え、とどめたせいか……お姫様だっこ。とまでは言わないが、上半身だけ抱き抱えるみたいなかたちで、サクラと彼女の目が上下に合う。
びっくりしている彼女とサクラの距離が近すぎて、ハオロンもびっくり。
「——そんなことより、ありす! セトに声援送ってあげてや!」
なんとなく間を裂くようにして、彼女の気をひいていた。
「……?」
「このままやと平行線やし、つまらんやろ? セトに発破かけてくれんかぁ? がんばれーって、セトに」
この数秒で〈セトに〉を3回も口にした。
サクラから意識を流した彼女が、(……私が?)考えつつも身を起こし、地上のセトに向け、
「がんばって!」
名前を出さなかったのは、彼女が正しい。セトだけ応援したならば、ロキから不平等の反発が出る。
ハオロンが見守る先では、マシンを通して拡声された彼女の応援に、セトが反応を見せた。攻撃に転じるスイッチが入ったらしい。
セトは傾いた低めの柱に狙いを定め、走り込み——勢いで駆け上がる。それでもロキのいる地点よりは、かなり低い。
そこからどうするのか。ハオロンが予想できずに見ていると、並んでいる柱で間隔の狭い箇所を、左右の柱を交互に蹴っていき、
(えぇ~? 嘘やろっ? アイテムなしで……)
登ってしまった。
ゆっくりならまだしも、あんな速度で柱のわずかなデコボコを足掛かりに上がっていくとは。やはりセトは人間ではない。ロキも呆気にとられている。
高い天井に柱は全く到達しておらず、上部は平べったい。
ひとつひとつの柱の間隔はまちまちで、距離がある箇所もあるのだが、セトの異常脚力で跳び越えられる。あっというまにロキとの距離が縮められた。
「ロキ、撃ち忘れてるよ!」
ハオロンが声を掛けると、セトの超人パフォーマンスに見入っていたロキが、思い出したようにハンドガンを構えた。
しかし、その手は躊躇を含む。
この距離で当たれば、かなり痛い。飛距離からダメージを計算してしまったロキが、狙いどころを絞るうちに、セトがロキの捕まる柱まで。
「あぁ~!」
ハオロンの嘆きも虚しく。
勢いに任せたセトがロキを目掛け、柱から飛び降りるようにして、空中で攻撃を仕掛けた。
「ちょっ、落ちるって!」
「落としに来たんだよ!」
セトに胸倉を捕らえられたロキの手が、柱から離れる。二人して地上に——けっこうな高さを落ちていった。
ハオロンは知っている。
トレーニングルームの床は、こういうときに備えて、きちんと形状変化する。柔らかく受け止められるようになっている。当然、他の兄弟たちも認知している。
しかし、彼女は何も知らなかったのか。
悲鳴のような声で叫んだ彼女に、落下する二人から目を外してハオロンはフォローしていた。
「ありす、大丈夫やって! ここ落ちても死なんよっ?」
ハオロンだけでなく、彼女の反応にイシャンやアリアも驚いたようで。
さらには地上で隣の対戦を見ていたメルウィンやティア、すでに地に落ちきったセトとロキも、響いた悲鳴にびっくり。
しん、と消える悲鳴の余韻。
蒼白な顔をした彼女が、落ちた二人の無事な姿に安堵するよりも、
《——ロキが先に床に落ちたから、セトの勝ち!》
ミヅキの鈴を転がすような可愛い声が、暢気に勝敗を告げていた。
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