78 / 79
(Bonus Track)
おれだけのサンタクロース
しおりを挟む
「なぁ、ハヤト。お前にだけ言うんだけど」
クラスメイトかつ寮生仲間のヒナが、神妙な顔でひっそりとハヤトに囁いてきた。
朝のカフェテリアは静かで人がいない。学園は数日前に冬休みに入っていて、寮生の大半は帰省している。冬季講座も昨日で終わり、残りはオンラインになる。カフェテリアも年末年始は閉まるらしく、ここでヒナとハヤトが共に食事をとるのも年内では残り数日。
おはようの代わりに「メリークリスマス!」と挨拶してきたヒナは、「いただきます」をするなり内緒話の声量で、
「サンタさんって、ほんとにいた」
「………………」
なに言ってんだ、お前。
素直にそう思ったし、素直にそう切り返そうと思ったが……目の前のヒナの顔が、本気だった。思わずパンで口が塞がったかのようにもぐもぐとして目だけを返した。
無言のハヤトに、ヒナは変わらない真面目なトーンで話し続ける。
「昔から、毎年クリスマスプレゼントがあったんだ。25日の朝、おれ宛のボックスに。おれ、てっきりずっと母さんだと思ってたんだけど……違うなってことに、昨日いきなり気づいてさ」
「(気づくの遅ぇな)」
「となると、あのプレゼントは施設からのプレゼントだったのかなって……思うだろ?」
パンを呑み込んで、「おお」
なんの話だろうと思いながらも肯定する。
「でも……今朝も、あったんだ。クリスマスプレゼント。さっき宅配ボックス確認したら、おれ宛に、あったんだ!」
「………………」
少しずつボリュームアップしていく声。あわせてヒナの目も輝きだした。
「信じられないよな? でも、ほんとにサンタさんなんだ。小さい頃からずーっと、おれの欲しいものをピタリと当ててきた。母さんじゃないなら、これはもうっ……本物のサンタさんしかないだろっ?」
いや、サクラ先生だろ、それ。
すぐさま脳裏で答えが出たが、口にできない。ヒナは拳を握って興奮ぎみに瞳をきらめかせている。
「おれ、自分で言うのもなんだけど良い子だし! 調べたらフィンランドにサンタクロース協会があるらしくって、おれって日本の良い子代表でプレゼント貰えてるんじゃないかなっ? すごいよな、おれの欲しい物を必ず届けてくれるんだ。10年以上ずーっとおれだけのサンタさんがいるんだ!」
妙に現実的な要素もありつつ。ヒナがたどり着いた答えにハヤトが返答を考えあぐねていると、カフェテリアのドアに人の気配が。
職員寮の方、開いたドアから入ってきたのは、
「あっ、サクラ先生!」
スーツではなく、黒のタートルネックにツイードのジャケット。幾分ラフな装いをした担任教員の姿があった。
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
休みの日にまで、なんで担任と顔を合わせないといけないのだろう。
疑問に思ったが、自分が帰省をやめたせいだと結論づいた。施設を出てしまったヒナは帰る場所がないらしく、年末年始も寮に残ると言うものだから……「俺も帰る予定ねぇよ」
気づいたら、そう告げていた。帰っても父親は多忙のため不在だろうし、とりたてて問題はない——が、そのときはそんなことまで頭が回っておらず。年末年始も独りじゃないと、喜んだヒナの顔だけが占めていた。
ふたりで、過ごすことになる。
ふたりきりで、年末年始の数日間を、一緒に。
(——なわけねぇよな。保護者を完全に忘れてた)
目の前で交わされる会話に細い目を送る。自然な流れでヒナの横に座ったサクラ。何故ここにいるのか。あんたはクリスマスを過ごす相手がいないのか。
胸中で不満をぶつけているハヤトのじっとりした視線を受け流して、サクラはヒナとクリスマスプレゼントの話をしていた。
「おれ、クリスマスプレゼントにコート貰ったんです! すっごい暖かいし、制服の上からも着られて普段着にもいける。欲しかった理想のコートで……」
熱く語るヒナに、サクラは軽い感じで「よかったね」
素知らぬふうを装っているが、こちらには分かる。あれは絶対やっている。なんならオーダーメイドの高級品を贈っている。絶対に。
(……つぅか、なんで毎年ヒナの欲しいもんを当てられるんだよ)
いくら賢いといっても、ヒナの頭の中まで覗けやしない。
奇跡ともいうべき確率でヒナの欲しい物をピタリと当てているのならば、まだまだ自分はサクラに敵わないことになる。
「おれのサンタさんは、本当におれのこと分かってくれてるな~」
サンタクロースの正体を前にして褒め称えるヒナに、ハヤトは眉を寄せて考えていた。
いつか、自分がヒナにプレゼントを贈れる日が来たとして、この笑顔と同じくらい喜ばせられるだろうか。
悩むハヤトは、ヒナが以前に話していた習慣を忘れている。
——おれ、欲しい物はいつもチェリーと相談して決めるんだ。無駄遣いしたくないから、真剣に会議する。
ハヤトは知らない。
ヒナの頭の中の情報は、わりと簡単にサクラのもとへ流れていることを……。
Happy holidays!
クラスメイトかつ寮生仲間のヒナが、神妙な顔でひっそりとハヤトに囁いてきた。
朝のカフェテリアは静かで人がいない。学園は数日前に冬休みに入っていて、寮生の大半は帰省している。冬季講座も昨日で終わり、残りはオンラインになる。カフェテリアも年末年始は閉まるらしく、ここでヒナとハヤトが共に食事をとるのも年内では残り数日。
おはようの代わりに「メリークリスマス!」と挨拶してきたヒナは、「いただきます」をするなり内緒話の声量で、
「サンタさんって、ほんとにいた」
「………………」
なに言ってんだ、お前。
素直にそう思ったし、素直にそう切り返そうと思ったが……目の前のヒナの顔が、本気だった。思わずパンで口が塞がったかのようにもぐもぐとして目だけを返した。
無言のハヤトに、ヒナは変わらない真面目なトーンで話し続ける。
「昔から、毎年クリスマスプレゼントがあったんだ。25日の朝、おれ宛のボックスに。おれ、てっきりずっと母さんだと思ってたんだけど……違うなってことに、昨日いきなり気づいてさ」
「(気づくの遅ぇな)」
「となると、あのプレゼントは施設からのプレゼントだったのかなって……思うだろ?」
パンを呑み込んで、「おお」
なんの話だろうと思いながらも肯定する。
「でも……今朝も、あったんだ。クリスマスプレゼント。さっき宅配ボックス確認したら、おれ宛に、あったんだ!」
「………………」
少しずつボリュームアップしていく声。あわせてヒナの目も輝きだした。
「信じられないよな? でも、ほんとにサンタさんなんだ。小さい頃からずーっと、おれの欲しいものをピタリと当ててきた。母さんじゃないなら、これはもうっ……本物のサンタさんしかないだろっ?」
いや、サクラ先生だろ、それ。
すぐさま脳裏で答えが出たが、口にできない。ヒナは拳を握って興奮ぎみに瞳をきらめかせている。
「おれ、自分で言うのもなんだけど良い子だし! 調べたらフィンランドにサンタクロース協会があるらしくって、おれって日本の良い子代表でプレゼント貰えてるんじゃないかなっ? すごいよな、おれの欲しい物を必ず届けてくれるんだ。10年以上ずーっとおれだけのサンタさんがいるんだ!」
妙に現実的な要素もありつつ。ヒナがたどり着いた答えにハヤトが返答を考えあぐねていると、カフェテリアのドアに人の気配が。
職員寮の方、開いたドアから入ってきたのは、
「あっ、サクラ先生!」
スーツではなく、黒のタートルネックにツイードのジャケット。幾分ラフな装いをした担任教員の姿があった。
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
休みの日にまで、なんで担任と顔を合わせないといけないのだろう。
疑問に思ったが、自分が帰省をやめたせいだと結論づいた。施設を出てしまったヒナは帰る場所がないらしく、年末年始も寮に残ると言うものだから……「俺も帰る予定ねぇよ」
気づいたら、そう告げていた。帰っても父親は多忙のため不在だろうし、とりたてて問題はない——が、そのときはそんなことまで頭が回っておらず。年末年始も独りじゃないと、喜んだヒナの顔だけが占めていた。
ふたりで、過ごすことになる。
ふたりきりで、年末年始の数日間を、一緒に。
(——なわけねぇよな。保護者を完全に忘れてた)
目の前で交わされる会話に細い目を送る。自然な流れでヒナの横に座ったサクラ。何故ここにいるのか。あんたはクリスマスを過ごす相手がいないのか。
胸中で不満をぶつけているハヤトのじっとりした視線を受け流して、サクラはヒナとクリスマスプレゼントの話をしていた。
「おれ、クリスマスプレゼントにコート貰ったんです! すっごい暖かいし、制服の上からも着られて普段着にもいける。欲しかった理想のコートで……」
熱く語るヒナに、サクラは軽い感じで「よかったね」
素知らぬふうを装っているが、こちらには分かる。あれは絶対やっている。なんならオーダーメイドの高級品を贈っている。絶対に。
(……つぅか、なんで毎年ヒナの欲しいもんを当てられるんだよ)
いくら賢いといっても、ヒナの頭の中まで覗けやしない。
奇跡ともいうべき確率でヒナの欲しい物をピタリと当てているのならば、まだまだ自分はサクラに敵わないことになる。
「おれのサンタさんは、本当におれのこと分かってくれてるな~」
サンタクロースの正体を前にして褒め称えるヒナに、ハヤトは眉を寄せて考えていた。
いつか、自分がヒナにプレゼントを贈れる日が来たとして、この笑顔と同じくらい喜ばせられるだろうか。
悩むハヤトは、ヒナが以前に話していた習慣を忘れている。
——おれ、欲しい物はいつもチェリーと相談して決めるんだ。無駄遣いしたくないから、真剣に会議する。
ハヤトは知らない。
ヒナの頭の中の情報は、わりと簡単にサクラのもとへ流れていることを……。
Happy holidays!
53
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる