63 / 77
スクールパレヱド
06_Track1.wav
しおりを挟む
全国の鴨居 雛ファンの皆さん、こんにちは。おれです。
いきなりどうした? って感じでしょうが……おれ実は、軽くバズりました。全国放送のミュージック甲子園の効果で。やりました。さてさて、憧れのモテライフが幕を開け……
「ヒナ先輩、可愛いー!」
1年女子の声が聞こえる。きゃいきゃいと高めの声で、それはもう可愛い声がおれの名前を口にする。
始まった学校祭の2日目。校内祭のクラス企画となる執事喫茶は開始早々に盛況だった。
8月半ばに放送されたミュージック甲子園。結果は散々だったのだけれども、かえって同情票を集めたのか、SNSでは好評価。動画も拡散され、学園内でも一躍有名人となった2B企画の執事喫茶には、念願の女子がいっぱい。
だが、しかし。
「——ちがう! おれが欲しかったやつじゃないっ!」
「うるせぇよ」
休憩のため厨房端で水分を摂りつつ悲嘆に暮れていたところ、ハヤトから苦情が飛んできた。
てきぱきと動くハヤトは、厨房の手前と表のカフェテリアを行ったり来たりしていて、たいへん多忙なようす。今はテーブルを片付けてきたのか、手には食後のプレートを器用に載せていた。
次々とプレートを食洗機に仕舞う彼は執事服を着ている。執事服といっても、レンタル衣装から選んだそれっぽいデザインなだけなので、正式な物と同じかどうかは知らない。(表に出る以上ハヤトも着せとくか)くらいの適当さで着用が決定した。
手にしていた水筒をテーブルに置き、執事なハヤトの背中に向けて、
「だってさ! 来る女子みんな『可愛い』しか言ってくんないんだ! ……おれ、『可愛い』って言われるのイヤなのにっ…… こんだけ女子が声掛けてくれるのに、『かっこいい』が一度もないなんて……くそぅっ……」
『泣き顔が可愛い高校生』
認知の要因はアカペラではない。知らないところで泣き顔を撮られていたらしく、不本意なバスり方をしていた。
「ごちゃごちゃ言ってんなよ。水分を摂ったなら早く戻れ。想定よりも客が来てんだ、しっかり働け」
「……うぃっす」
もう少し愚痴を聞いてほしかったが、奥にいる麦を見て素直に応じた。
ゆいいつ執事服を着ていない麦はエプロンで、オーダーと照らし合わせた菓子をドリンクとセットでロボに載せ送り出している。菓子もドリンクも提供された包装物をそのまま出すだけなのだが、とにかく客が多すぎて追いつかない。とても忙しそうだが、麦の顔は嬉しそうだった。
「ヒナくん、がんばって」
目を投げていたヒナに、麦は笑顔をくれた。
(そうそう、こういう応援の仕方をしてくれるとやる気でるんだよ。……ハヤトも見習ってくれ)
「……おい、なんで俺を見てんだ? なんだよ、その目」
「べつにぃ」
「なんか腹立つな?」
訝るハヤトの目から逃げて、表に出た。
こちらのスタッフは琉夏と竜星。軽音組は午後のライブで準備をするため、全員が午前枠で働いている。壱正・ルイ・ウタは現在校内を回っているはず。
ただ、想定よりもかなり人が多いので、菓子やドリンクが欠品するのも早いと思われる。午後は早めに終わってしまいそうな予感。
「お帰りなさいませぇ~」
受付を担当する竜星の声が響く。始まりから思っているが、どうも……違う。イントネーションのせいか執事感が微塵もない。
琉夏は琉夏で自由。
「オーダー何にすンの? 二人とも同じでいい?」
(いや、駄目だし)
ヒナの心の突っこみを意に介さず、琉夏は厨房に適当なオーダーを通して客と喋っている。
「お嬢様たち、他校だよな? あとでオレらのライブ来てくンない? 桜統生はみんな忙しくて来られないからさァ~」
とってつけたような『お嬢様』に、ペラペラと嘘を。
校内祭でライブを認められた軽音組だが、実のところ集客が怪しい。アカペラで評価を得たものの、ハヤトは未だに2・3年生からは距離を取られがちだった。おそらくライブにも来ないだろうとみている。
他校生を確保すべく宣伝する琉夏を後目に、ヒナも竜星から引き継いだ新規の客についてオーダーを取る。
「——お帰りをお待ちしておりました。お茶のお時間にいたしましょうか」
全力の紳士ぶりで挑むが、
「私たち『ミュー甲』見て来ました!『泣き顔が可愛い高校生』の……」
「………………」
「あのっ、泣くまねとかしてもらえたら……。よかったら写真も……」
頬を染めた可愛らしい提案は、にっこりと却下する。
「致しませんっ。お写真もいけませんよ、お嬢様」
朝から何回も繰り返しているセリフ。
内心で(なんで誰ひとり『かっこいい』って言ってくんないんだ。琉夏なんて執事として雑なくせに言われてた。ずるい。おれも言われたい)ぐちぐちと不満を吐露していると、ひとつ奥のテーブルで片付けをしていたハヤトの横目が、こちらをちらり。心持ち笑っている気が。
「(人気があってよかったな)」
「(うるさいな! さっさと片付けしろよ!)」
唇の形だけで互いに憎まれ口を叩き合う。
期待はずれのモテライフとともに、慌ただしい一日が幕を開けていた。
いきなりどうした? って感じでしょうが……おれ実は、軽くバズりました。全国放送のミュージック甲子園の効果で。やりました。さてさて、憧れのモテライフが幕を開け……
「ヒナ先輩、可愛いー!」
1年女子の声が聞こえる。きゃいきゃいと高めの声で、それはもう可愛い声がおれの名前を口にする。
始まった学校祭の2日目。校内祭のクラス企画となる執事喫茶は開始早々に盛況だった。
8月半ばに放送されたミュージック甲子園。結果は散々だったのだけれども、かえって同情票を集めたのか、SNSでは好評価。動画も拡散され、学園内でも一躍有名人となった2B企画の執事喫茶には、念願の女子がいっぱい。
だが、しかし。
「——ちがう! おれが欲しかったやつじゃないっ!」
「うるせぇよ」
休憩のため厨房端で水分を摂りつつ悲嘆に暮れていたところ、ハヤトから苦情が飛んできた。
てきぱきと動くハヤトは、厨房の手前と表のカフェテリアを行ったり来たりしていて、たいへん多忙なようす。今はテーブルを片付けてきたのか、手には食後のプレートを器用に載せていた。
次々とプレートを食洗機に仕舞う彼は執事服を着ている。執事服といっても、レンタル衣装から選んだそれっぽいデザインなだけなので、正式な物と同じかどうかは知らない。(表に出る以上ハヤトも着せとくか)くらいの適当さで着用が決定した。
手にしていた水筒をテーブルに置き、執事なハヤトの背中に向けて、
「だってさ! 来る女子みんな『可愛い』しか言ってくんないんだ! ……おれ、『可愛い』って言われるのイヤなのにっ…… こんだけ女子が声掛けてくれるのに、『かっこいい』が一度もないなんて……くそぅっ……」
『泣き顔が可愛い高校生』
認知の要因はアカペラではない。知らないところで泣き顔を撮られていたらしく、不本意なバスり方をしていた。
「ごちゃごちゃ言ってんなよ。水分を摂ったなら早く戻れ。想定よりも客が来てんだ、しっかり働け」
「……うぃっす」
もう少し愚痴を聞いてほしかったが、奥にいる麦を見て素直に応じた。
ゆいいつ執事服を着ていない麦はエプロンで、オーダーと照らし合わせた菓子をドリンクとセットでロボに載せ送り出している。菓子もドリンクも提供された包装物をそのまま出すだけなのだが、とにかく客が多すぎて追いつかない。とても忙しそうだが、麦の顔は嬉しそうだった。
「ヒナくん、がんばって」
目を投げていたヒナに、麦は笑顔をくれた。
(そうそう、こういう応援の仕方をしてくれるとやる気でるんだよ。……ハヤトも見習ってくれ)
「……おい、なんで俺を見てんだ? なんだよ、その目」
「べつにぃ」
「なんか腹立つな?」
訝るハヤトの目から逃げて、表に出た。
こちらのスタッフは琉夏と竜星。軽音組は午後のライブで準備をするため、全員が午前枠で働いている。壱正・ルイ・ウタは現在校内を回っているはず。
ただ、想定よりもかなり人が多いので、菓子やドリンクが欠品するのも早いと思われる。午後は早めに終わってしまいそうな予感。
「お帰りなさいませぇ~」
受付を担当する竜星の声が響く。始まりから思っているが、どうも……違う。イントネーションのせいか執事感が微塵もない。
琉夏は琉夏で自由。
「オーダー何にすンの? 二人とも同じでいい?」
(いや、駄目だし)
ヒナの心の突っこみを意に介さず、琉夏は厨房に適当なオーダーを通して客と喋っている。
「お嬢様たち、他校だよな? あとでオレらのライブ来てくンない? 桜統生はみんな忙しくて来られないからさァ~」
とってつけたような『お嬢様』に、ペラペラと嘘を。
校内祭でライブを認められた軽音組だが、実のところ集客が怪しい。アカペラで評価を得たものの、ハヤトは未だに2・3年生からは距離を取られがちだった。おそらくライブにも来ないだろうとみている。
他校生を確保すべく宣伝する琉夏を後目に、ヒナも竜星から引き継いだ新規の客についてオーダーを取る。
「——お帰りをお待ちしておりました。お茶のお時間にいたしましょうか」
全力の紳士ぶりで挑むが、
「私たち『ミュー甲』見て来ました!『泣き顔が可愛い高校生』の……」
「………………」
「あのっ、泣くまねとかしてもらえたら……。よかったら写真も……」
頬を染めた可愛らしい提案は、にっこりと却下する。
「致しませんっ。お写真もいけませんよ、お嬢様」
朝から何回も繰り返しているセリフ。
内心で(なんで誰ひとり『かっこいい』って言ってくんないんだ。琉夏なんて執事として雑なくせに言われてた。ずるい。おれも言われたい)ぐちぐちと不満を吐露していると、ひとつ奥のテーブルで片付けをしていたハヤトの横目が、こちらをちらり。心持ち笑っている気が。
「(人気があってよかったな)」
「(うるさいな! さっさと片付けしろよ!)」
唇の形だけで互いに憎まれ口を叩き合う。
期待はずれのモテライフとともに、慌ただしい一日が幕を開けていた。
100
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
アオハルメロディー
有箱
青春
様々な理由で大好きな歌を捨てた白井夏香は、ただ退屈で窮屈な毎日を送っていた。
けれど、突然見知らぬ男子、黒川春馬がやってきて、軽音部で歌わないかと誘われる。
夏香は、ひたすら断り続けるが……。
エスパーを隠して生きていたパシリなオレはネクラな転校生を彼女にされました
家紋武範
青春
人の心が読める少年、照場椎太。しかし読めるのは突発なその時の思いだけ。奥深くに隠れた秘密までは分からない。そんな特殊能力を隠して生きていたが、大人しく目立たないので、ヤンキー集団のパシリにされる毎日。
だがヤンキーのリーダー久保田は男気溢れる男だった。斜め上の方に。
彼女がいないことを知ると、走り出して連れて来たのが暗そうなダサイ音倉淳。
ほぼ強制的に付き合うことになった二人だが、互いに惹かれ合い愛し合って行く。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
女王様が恋をしたら
紅玉
青春
身長145cm、キュートな顔立ちとは対照的な
毒舌&意地っ張り。だけど、幼なじみの 立花 凛
(たちばな りん)には懐いているというクセのある性格。
そんな彼女こそが日野学園高等部の「女王様」である
九条結菜。
結菜と凛は家が隣で幼稚園からの幼なじみ。
何をする時も二人一緒だった。
だから、お互いのことなら何でも知っている…
はずだったのに!
ある日、凛に彼氏が出来てしまう。
凛の彼氏はバスケ部の高校1年、佐川幸生(さがわこうき)。学年でも有名な男子だ。
今までも優しく、面倒見のいい凛は男子からモテていた。けれど、凛が男子と付き合うと結菜といる時間が少なくなってしまうから結菜が告白を阻止してきたのだ。
今回だって!
そう意気込む結菜の前に、
優しく微笑むイケメンが!
彼は街の大きな病院の院長の息子、岸田 悠(きしだはるか)。小さい頃から結菜が好きだったという悠に対して結菜は…。
凛を返して欲しい、結菜。
友達も彼氏も大事にしたい凛。
凛の彼氏だと認めてもらいたい佐川。
小さい時から影で結菜を見てきた悠。
結末が気になる、青春ラブストーリーです。
個性的なキャラが集う、
「女王様が恋をしたら」どうぞ最後まで
よろしくお願いします。
感想もドシドシよろしくお願いします。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ネットの友達に会いに行ったら、間違ってべつの美少女と仲良くなった俺のラブコメ
扇 多門丸
青春
謳歌高校に通う高校2年生の天宮時雨は、高校1年生の3学期、学校をサボり続けたせいで留年しかけた生徒だった。
そんな彼の唯一無二の友人が、ネットの友達のブルームーン。ある日、いつも一緒にゲームをするけれど、顔の知らない友達だったブルームーンから「ちかくの喫茶店にいる」とチャットが来る。会いたいなら、喫茶店にいる人の中から自分を当てたら会ってやる。その提案に乗り、喫茶店へと走り、きれいな黒髪ストレートの美少女か?と聞いた。しかし、ブルームーンからは「違う」と否定され、すれ違ってしまった。
ブルームーンが黒髪の美少女だという推測を捨てきれずに過ごしていたとき、学校の使われていない音楽室でピアノを弾いている、そいつの姿を見つけた。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
かずのこ牧場→三人娘
パピコ吉田
青春
三人娘のドタバタ青春ストーリー。
・内容
経営不振が続く谷藤牧場を建て直す為に奮闘中の美留來。
ある日、作業中の美留來の元に幼馴染の一人のびす子がやって来る。
びす子が言うには都会で頑張ってるはずのもう一人の幼馴染の花音が帰って来ると連絡が来たとの事だった。
いつも学生時代から三人で集まっていた蔵前カフェで花音と会う為に仕事を終わらせびす子と向かうと・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる