【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

文字の大きさ
上 下
49 / 79
青春をうたおう

05_Track10.wav

しおりを挟む
 録音も無事に終わり、投稿も完了して数日。
 ヒナたちの動画は大きな話題性を得て視聴数や得票数を稼いだ。テレビ会社から連絡が来て、近いうちに簡単な取材もしたいと——つまり、テレビ出演となる本選出場に決まったらしい。
 
 軽音部の活動後。ヒナは集中講座があるからと真っ先に消え、後輩たちも帰った部室で、楽器を手にしているのはハヤト、琉夏、竜星の3人。後輩へと教える時間が増えたため、自分たちの練習はこの時間になっている。(ヒナは教わる側になる)
 
 
「——ねぇ、ハヤトぉ。そういえば、うちが忘れてった漫画、いつ持って来てくれるんやぁ?」
「あんなもん捨てた」
「はあ?」
「…………嘘だ。とっといてある」
「え、なんで嘘ついたん……?」
 
 演奏しながら声を掛けた竜星に、ハヤトが応える。二人の会話を割って、
 
「——飽きたンだけど!」
 
 琉夏が抱えていたギターを離し、部室の中心で不満を叫んだ。
 バンドの音が止む。
 
「結局オレらのライブだけ認められてねェじゃん! 練習の意味ねェし、もうやめて遊び行こ~よ」
 
 訴える琉夏に、ハヤトが細い目を返した。
 
「実力のない先輩じゃ、後輩も言うこと聞かねぇだろ」
「オレは別にどうでもい~……学祭のライブ、今年はオレらが目立つはずだったのにさァ……」
「しゃあないやろぉ? 後輩のライブデビューを、先輩として講堂で見守ってあげよっさ」
「オレらが出られないのに興味ねェ~……文化祭の初日だけ休もっかなァ……」
「おい」「あかんやろ」
 
 即時、ハヤトと竜星に注意を受け、「ウソだって」琉夏は首をすくめて切り返した。ぷつぷつ口の中で文句らしき音を鳴らしていて、その延長で琉夏はアカペラの話題にも触れる。
 
「……歌の練習もやってるし……オレら夏休みなのに全然遊んでねェ……」
「あほ。桜統の夏休みは元から学祭と講座尽くしやわ。なんで遊べると思ってたん」
「去年は海に行ったりしたじゃん!」
「知らん。あほな桜統生がいたもんやな」
 
 すげなく切り捨てられ、琉夏は溜息をついた。
 
「あァ~あ。オレ、せっかく学校に来てンのになァ……みんな歌の練習でしか集まってくンないし」
「そんなことないやろ。ヒナはそこらじゅうにいるやろ」
「あァ、それな~」
 
 いつのまにか会話から離脱して楽譜を見ていたハヤトが、挙がった名前に目を戻した。
 
「は? ってなんだよ?」
 
 ヒナは妖怪ではない。複数いるわけでもない。
 奇怪な表現にハヤトが眉間を狭めていると、竜星が真夏の怪談を語るような無表情さでハヤトを見た。
 
「ミューこうの本選行きが来まったやろ? その日から、ヒナが『練習しよっ』言って、そこらじゅうで絡んでくるんやって」
「……は」
「講座と講座の隙間時間、急にどこからともなく現れて……『5分でいいから、おれとハモって』……歌うまでまとわりついてくるんや……うちらの講座スケジュールを把握してて、どこまでも追いかけてくる……壱正やウタに絡んでるのも見たわ……」

 語る竜星の目はうつろだった。
 絶句するハヤトに、琉夏が追い打ちをかける。
 
「アイツ、やばいよ。歌いながらトイレまでついてこようとすンの……ガチ怖……」
「——はっ? 琉夏、あいつと一緒に入ったのかっ?」
「ねぇ、ハヤト。突っこむとこ、そこじゃないやろ……?」
 
 竜星の静かな指摘を聞かずに、ハヤトが琉夏を問い詰める。
 バンド練習の止まった軽音部室。不在かつ話題の人物、ヒナはというと——
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。 二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。 しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。 生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。 それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。 これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

八奈結び商店街を歩いてみれば

世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい―― 平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編! ========= 大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。 両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。 二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。 5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...