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青春をうたおう
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録音も無事に終わり、投稿も完了して数日。
ヒナたちの動画は大きな話題性を得て視聴数や得票数を稼いだ。テレビ会社から連絡が来て、近いうちに簡単な取材もしたいと——つまり、テレビ出演となる本選出場に決まったらしい。
軽音部の活動後。ヒナは集中講座があるからと真っ先に消え、後輩たちも帰った部室で、楽器を手にしているのはハヤト、琉夏、竜星の3人。後輩へと教える時間が増えたため、自分たちの練習はこの時間になっている。(ヒナは教わる側になる)
「——ねぇ、ハヤトぉ。そういえば、うちが忘れてった漫画、いつ持って来てくれるんやぁ?」
「あんなもん捨てた」
「はあ?」
「…………嘘だ。とっといてある」
「え、なんで嘘ついたん……?」
演奏しながら声を掛けた竜星に、ハヤトが応える。二人の会話を割って、
「——飽きたンだけど!」
琉夏が抱えていたギターを離し、部室の中心で不満を叫んだ。
バンドの音が止む。
「結局オレらのライブだけ認められてねェじゃん! 練習の意味ねェし、もうやめて遊び行こ~よ」
訴える琉夏に、ハヤトが細い目を返した。
「実力のない先輩じゃ、後輩も言うこと聞かねぇだろ」
「オレは別にどうでもい~……学祭のライブ、今年はオレらが目立つはずだったのにさァ……」
「しゃあないやろぉ? 後輩のライブデビューを、先輩として講堂で見守ってあげよっさ」
「オレらが出られないのに興味ねェ~……文化祭の初日だけ休もっかなァ……」
「おい」「あかんやろ」
即時、ハヤトと竜星に注意を受け、「ウソだって」琉夏は首をすくめて切り返した。ぷつぷつ口の中で文句らしき音を鳴らしていて、その延長で琉夏はアカペラの話題にも触れる。
「……歌の練習もやってるし……オレら夏休みなのに全然遊んでねェ……」
「あほ。桜統の夏休みは元から学祭と講座尽くしやわ。なんで遊べると思ってたん」
「去年は海に行ったりしたじゃん!」
「知らん。あほな桜統生がいたもんやな」
すげなく切り捨てられ、琉夏は溜息をついた。
「あァ~あ。オレ、せっかく学校に来てンのになァ……みんな歌の練習でしか集まってくンないし」
「そんなことないやろ。ヒナはそこらじゅうにいるやろ」
「あァ、それな~」
いつのまにか会話から離脱して楽譜を見ていたハヤトが、挙がった名前に目を戻した。
「は? そこらじゅうにいるってなんだよ?」
ヒナは妖怪ではない。複数いるわけでもない。
奇怪な表現にハヤトが眉間を狭めていると、竜星が真夏の怪談を語るような無表情さでハヤトを見た。
「ミュー甲の本選行きが来まったやろ? その日から、ヒナが『練習しよっ』言って、そこらじゅうで絡んでくるんやって」
「……は」
「講座と講座の隙間時間、急にどこからともなく現れて……『5分でいいから、おれとハモって』……歌うまで纏わりついてくるんや……うちらの講座スケジュールを把握してて、どこまでも追いかけてくる……壱正やウタに絡んでるのも見たわ……」
語る竜星の目は虚ろだった。
絶句するハヤトに、琉夏が追い打ちをかける。
「アイツ、やばいよ。歌いながらトイレまでついてこようとすンの……ガチ怖……」
「——はっ? 琉夏、あいつと一緒に入ったのかっ?」
「ねぇ、ハヤト。突っこむとこ、そこじゃないやろ……?」
竜星の静かな指摘を聞かずに、ハヤトが琉夏を問い詰める。
バンド練習の止まった軽音部室。不在かつ話題の人物、ヒナはというと——
ヒナたちの動画は大きな話題性を得て視聴数や得票数を稼いだ。テレビ会社から連絡が来て、近いうちに簡単な取材もしたいと——つまり、テレビ出演となる本選出場に決まったらしい。
軽音部の活動後。ヒナは集中講座があるからと真っ先に消え、後輩たちも帰った部室で、楽器を手にしているのはハヤト、琉夏、竜星の3人。後輩へと教える時間が増えたため、自分たちの練習はこの時間になっている。(ヒナは教わる側になる)
「——ねぇ、ハヤトぉ。そういえば、うちが忘れてった漫画、いつ持って来てくれるんやぁ?」
「あんなもん捨てた」
「はあ?」
「…………嘘だ。とっといてある」
「え、なんで嘘ついたん……?」
演奏しながら声を掛けた竜星に、ハヤトが応える。二人の会話を割って、
「——飽きたンだけど!」
琉夏が抱えていたギターを離し、部室の中心で不満を叫んだ。
バンドの音が止む。
「結局オレらのライブだけ認められてねェじゃん! 練習の意味ねェし、もうやめて遊び行こ~よ」
訴える琉夏に、ハヤトが細い目を返した。
「実力のない先輩じゃ、後輩も言うこと聞かねぇだろ」
「オレは別にどうでもい~……学祭のライブ、今年はオレらが目立つはずだったのにさァ……」
「しゃあないやろぉ? 後輩のライブデビューを、先輩として講堂で見守ってあげよっさ」
「オレらが出られないのに興味ねェ~……文化祭の初日だけ休もっかなァ……」
「おい」「あかんやろ」
即時、ハヤトと竜星に注意を受け、「ウソだって」琉夏は首をすくめて切り返した。ぷつぷつ口の中で文句らしき音を鳴らしていて、その延長で琉夏はアカペラの話題にも触れる。
「……歌の練習もやってるし……オレら夏休みなのに全然遊んでねェ……」
「あほ。桜統の夏休みは元から学祭と講座尽くしやわ。なんで遊べると思ってたん」
「去年は海に行ったりしたじゃん!」
「知らん。あほな桜統生がいたもんやな」
すげなく切り捨てられ、琉夏は溜息をついた。
「あァ~あ。オレ、せっかく学校に来てンのになァ……みんな歌の練習でしか集まってくンないし」
「そんなことないやろ。ヒナはそこらじゅうにいるやろ」
「あァ、それな~」
いつのまにか会話から離脱して楽譜を見ていたハヤトが、挙がった名前に目を戻した。
「は? そこらじゅうにいるってなんだよ?」
ヒナは妖怪ではない。複数いるわけでもない。
奇怪な表現にハヤトが眉間を狭めていると、竜星が真夏の怪談を語るような無表情さでハヤトを見た。
「ミュー甲の本選行きが来まったやろ? その日から、ヒナが『練習しよっ』言って、そこらじゅうで絡んでくるんやって」
「……は」
「講座と講座の隙間時間、急にどこからともなく現れて……『5分でいいから、おれとハモって』……歌うまで纏わりついてくるんや……うちらの講座スケジュールを把握してて、どこまでも追いかけてくる……壱正やウタに絡んでるのも見たわ……」
語る竜星の目は虚ろだった。
絶句するハヤトに、琉夏が追い打ちをかける。
「アイツ、やばいよ。歌いながらトイレまでついてこようとすンの……ガチ怖……」
「——はっ? 琉夏、あいつと一緒に入ったのかっ?」
「ねぇ、ハヤト。突っこむとこ、そこじゃないやろ……?」
竜星の静かな指摘を聞かずに、ハヤトが琉夏を問い詰める。
バンド練習の止まった軽音部室。不在かつ話題の人物、ヒナはというと——
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