34 / 79
ALL FOR ONE
03_Track06.wav
しおりを挟む
放課後、一向に帰らない琉夏を連れて、ヒナとハヤトは寮横カフェテリアで食事をとった。
「オレも寮に入ろっかなァ~?」
何度か聞いたことのある琉夏のセリフ。「そろそろ帰る」と宣言したヒナは、寮の廊下に入ろうとしていた足で振り返った。
「マンションのほうが快適だろ? ここだと使用人いないから、全部自分でやらないと」
「ヒナがオレのこともやってくンない?」
「やだよ。クラスメイトを利用すんな」
「お金は払うし」
「………………」
魅力的な提案だ。
止まったヒナに、ハヤトが「揺れてんなよ」横から突っこんだ。
「だって! どうせ自分のことはするし、まとめてやるだけで小遣いが貰えるなら……やりたい!」
「駄目だろ。琉夏も金で解決しようとすんな」
「えェ~?」
寮の階段を上がっていく。2階なのでエレベータを使うことは少ない。
同寮のハヤトはいいとして、どこまでもついてくる琉夏をヒナは見上げた。
「琉夏、帰らないのか?」
「帰っても暇だし」
「勉強しようよ」
「ヤだ」
「琉夏って勉強してないのに満点で……ちょっと、むかつく」
ヒナの部屋のドアまで辿りつく。
「オレが勉強みてあげよっか? それか、研究は? ヒナは『桜統学』の研究まだ決めてねェよな?」
「あぁ、研究なぁ……」
「今からテーマ決めよ~よ。……ってワケで、部屋に入~れて?」
帰る気が微塵もない琉夏に、
(あれだな……ずっと警戒されてた猫に懐かれた気分だな……)
ヒナは失礼な印象を重ねる。
(門限までならいっか。研究の相談も助かるし……)
帰りたくないらしい琉夏に、ヒナは妥協して入室を許可しようとしたが、
「——駄目だ」
明瞭な音で制止したのは、ハヤトだった。
「部屋に入るのは駄目だろ」
ヒナと琉夏の目がハヤトに向く。二人とも、きょとりとした目を返していた。
ヒナは首をかしげ、
「え? 入寮生徒しか入れないんだっけ?」
「いや、オレ、ハヤトの部屋に入ったことあるよ?」
疑問を浮かべる二人の顔に、ハヤトが眉間を狭める。眉頭に力を込め、ヒナの顔に何か言いたげな目を投げたが、語ることなく琉夏の肩を掴んだ。
「琉夏は俺と走りに行こうぜ」
「は? なんで?」
「暇なんだろ?」
「走るのヤだけど? ってかオレ、今日は球技大会と罰走で死ぬほど走ったし……」
「大丈夫だ。お前は元気そうだ。行くぞ」
「はっ? えっ?」
ハヤトの腕が、強制的に琉夏を引っぱっていく。
前回の反省を踏まえたヒナは、琉夏から素早く距離を取った。巻き込まれてたまるか。ヒナの脚は限界を迎えつつある。
「じゃあなー」
ごちゃごちゃと琉夏が騒いでいるが、ヒナは聞こえないことにして部屋のドアを開けた。
「ただいま、チェリー」
《——おかえり、ヒナ。球技大会はどうだった?》
「勝った! 2Bが優勝したっ」
《おめでとう》
着替えながら報告する。ヒナの声は弾んでいる。
「チェリーの作戦もよかったけど、体育のときにサクラ先生からアドバイス貰ったのも効いたな。相手の体力を奪っちゃえ大作戦。最後まで動けるハヤトが無敵だった」
決勝トーナメントは試合が次々と行われていく。試合の前半で相手チームを走らせ体力を奪う戦法はサクラの助言だった。
「サクラ先生は運動できなさそうなのになー」
《担任の先生は、『先生』だからね。生徒のことなら、よく分かるよ》
「そっか」
《運動も、できるかも知れないよ?》
「やだよ。サクラ先生は頭いいんだから、運動はできないでほしい」
《どうして?》
「……あ。ハヤトがいない間に、洗濯してこよう。行ってくるー」
ハヤトと琉夏のマラソンを思い出して、ヒナは洗濯カゴを掴んだ。
《いってらっしゃい》
鈴を鳴らすような声がヒナを送り出す。
(そうだ、琉夏が懐いた話をしよう)
ヒナの頭には、今日の楽しかった出来事だけが満ちている。
「オレも寮に入ろっかなァ~?」
何度か聞いたことのある琉夏のセリフ。「そろそろ帰る」と宣言したヒナは、寮の廊下に入ろうとしていた足で振り返った。
「マンションのほうが快適だろ? ここだと使用人いないから、全部自分でやらないと」
「ヒナがオレのこともやってくンない?」
「やだよ。クラスメイトを利用すんな」
「お金は払うし」
「………………」
魅力的な提案だ。
止まったヒナに、ハヤトが「揺れてんなよ」横から突っこんだ。
「だって! どうせ自分のことはするし、まとめてやるだけで小遣いが貰えるなら……やりたい!」
「駄目だろ。琉夏も金で解決しようとすんな」
「えェ~?」
寮の階段を上がっていく。2階なのでエレベータを使うことは少ない。
同寮のハヤトはいいとして、どこまでもついてくる琉夏をヒナは見上げた。
「琉夏、帰らないのか?」
「帰っても暇だし」
「勉強しようよ」
「ヤだ」
「琉夏って勉強してないのに満点で……ちょっと、むかつく」
ヒナの部屋のドアまで辿りつく。
「オレが勉強みてあげよっか? それか、研究は? ヒナは『桜統学』の研究まだ決めてねェよな?」
「あぁ、研究なぁ……」
「今からテーマ決めよ~よ。……ってワケで、部屋に入~れて?」
帰る気が微塵もない琉夏に、
(あれだな……ずっと警戒されてた猫に懐かれた気分だな……)
ヒナは失礼な印象を重ねる。
(門限までならいっか。研究の相談も助かるし……)
帰りたくないらしい琉夏に、ヒナは妥協して入室を許可しようとしたが、
「——駄目だ」
明瞭な音で制止したのは、ハヤトだった。
「部屋に入るのは駄目だろ」
ヒナと琉夏の目がハヤトに向く。二人とも、きょとりとした目を返していた。
ヒナは首をかしげ、
「え? 入寮生徒しか入れないんだっけ?」
「いや、オレ、ハヤトの部屋に入ったことあるよ?」
疑問を浮かべる二人の顔に、ハヤトが眉間を狭める。眉頭に力を込め、ヒナの顔に何か言いたげな目を投げたが、語ることなく琉夏の肩を掴んだ。
「琉夏は俺と走りに行こうぜ」
「は? なんで?」
「暇なんだろ?」
「走るのヤだけど? ってかオレ、今日は球技大会と罰走で死ぬほど走ったし……」
「大丈夫だ。お前は元気そうだ。行くぞ」
「はっ? えっ?」
ハヤトの腕が、強制的に琉夏を引っぱっていく。
前回の反省を踏まえたヒナは、琉夏から素早く距離を取った。巻き込まれてたまるか。ヒナの脚は限界を迎えつつある。
「じゃあなー」
ごちゃごちゃと琉夏が騒いでいるが、ヒナは聞こえないことにして部屋のドアを開けた。
「ただいま、チェリー」
《——おかえり、ヒナ。球技大会はどうだった?》
「勝った! 2Bが優勝したっ」
《おめでとう》
着替えながら報告する。ヒナの声は弾んでいる。
「チェリーの作戦もよかったけど、体育のときにサクラ先生からアドバイス貰ったのも効いたな。相手の体力を奪っちゃえ大作戦。最後まで動けるハヤトが無敵だった」
決勝トーナメントは試合が次々と行われていく。試合の前半で相手チームを走らせ体力を奪う戦法はサクラの助言だった。
「サクラ先生は運動できなさそうなのになー」
《担任の先生は、『先生』だからね。生徒のことなら、よく分かるよ》
「そっか」
《運動も、できるかも知れないよ?》
「やだよ。サクラ先生は頭いいんだから、運動はできないでほしい」
《どうして?》
「……あ。ハヤトがいない間に、洗濯してこよう。行ってくるー」
ハヤトと琉夏のマラソンを思い出して、ヒナは洗濯カゴを掴んだ。
《いってらっしゃい》
鈴を鳴らすような声がヒナを送り出す。
(そうだ、琉夏が懐いた話をしよう)
ヒナの頭には、今日の楽しかった出来事だけが満ちている。
120
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

あげは紅は ◯◯らしい
藤井ことなり
キャラ文芸
[紅あげは]は 私立聖真津洲留高校の2年生。
共働きの両親と年の離れた弟妹の面倒をみるために、家事に勤しむ毎日を送っていた。
平凡な毎日であったが最近学校ではちょっと変な事が流行っていた。
女の子同士がパンツを見せ合って勝負する
[パンチラファイト]
なぜか校内では女子達があちこちでスカートをめくりあっていた。
あげは はそれに全く興味が無く、参加してなかった為に、[はいてないのではないか]という噂が流れはじめる。
そのおかげで男子からスカートめくりのターゲットになってしまい、さらには思わぬアクシデントが起きたために、予想外の事件となってしまった。
面倒事に関わりたくないが、関わってしまったら、とっとと片付けたい性格のあげはは[パンチラファイト]を止めさせるために行動に出るのであった。
第4回キャラ文芸大賞参加作品

高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
致死量の愛と泡沫に+
藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。
泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。
※致死量シリーズ
【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。
表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。
王道学園と、平凡と見せかけた非凡
壱稀
BL
定番的なBL王道学園で、日々平凡に過ごしていた哀留(非凡)。
そんなある日、ついにアンチ王道くんが現れて学園が崩壊の危機に。
風紀委員達と一緒に、なんやかんやと奮闘する哀留のドタバタコメディ。
基本総愛され一部嫌われです。王道の斜め上を爆走しながら、どう立ち向かうか?!
◆pixivでも投稿してます。
◆8月15日完結を載せてますが、その後も少しだけ番外編など掲載します。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
致死量の愛を飲みほして+
藤香いつき
キャラ文芸
終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は、彼らに拾われ——
ひとつの物語を終えたあとの、穏やか(?)な日常のお話。
【致死量の愛を飲みほして】その後のエピソード。
単体でも読めるよう調整いたしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる