【完結】おれたちはサクラ色の青春

Let it Rock!

02_Track06.wav

「——っていうわけで、部員は増えた」
　
　世界史の一問一答をこなしながら、ヒナは机上のスマホに向けて話しかけていた。
　
《部員が確保できてよかったね》
「うん。チェリーのアドバイスどおり、生徒会長の演奏が効いたっぽい。入部を即決した子たちは、生徒会長に憧れてる子が多かった」
《ヒナの役に立てたなら嬉しいよ》
「チェリーはいつだって役に立ってるよ」
《光栄だね》
「………………」
《………………》
「…………あ、今日は『洗濯の時間だよ』って言わないのか。成長だな」
《成長というよりは、学習だね。洗濯時間はそろそろかな？》
「ハヤトが先に使うって言ってた。終わったら連絡くれるって」
《ヒナはハヤトさんと仲がいいね》
「まぁ……クラス・部活・寮、ぜんぶ同じだし。ほぼ一緒にいると言っても過言じゃないし？ ……そういえば、琉夏が『オレも寮に入ろっかなー』って言ってた。琉夏とずっと一緒は疲れちゃうなぁ」
　
　あはは。軽い笑い声が部屋に響く。
　ほんの少し時間を置いてから、チェリーがヒナへと質問を投げた。
　
《ヒナは女子生徒と一緒の部活を希望していたのに、彼らと同じ部活でよかったのかな？》
「それな！ 即決で入った子は男子ばっかだし……おれ、あと半年もモテないのかぁ……」
《……ヒナは女子に好かれたいの？》
「うん。……いや、違う違う。女子とも交流したいだけ。おれチャラくないよ。やめて、こんな情報は学習しないで」
《………………》
「聞いてる？ チェリーは櫻屋敷グループの末端なんだから、おれについては、いい情報だけ学習して」
《……ボクからヒナに質問をしてもいいかな？》
「えっ、なに？」
《ヒナの恋愛対象は、女性なのかな？》
「そうだよ。おれ、男子なんだから」

　チェリーの返答が出る前に、充電されていたブレス端末が振動した。スマホの画面にもメッセージが映った。
　
『終わった』
　
　ハヤトからの連絡は端的だった。
　ヒナは立ち上がって、洗濯カゴを手に取る。
　
「じゃあ、行ってくるなーっ」
《——行ってらっしゃい、ヒナ》
　
　部屋のドアが閉じられる。
　残されたスマホの画面は、しばらくのあいだ光っていたが、思い出したようにふつりと消えた。