【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

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Let it Rock!

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 階段をおりた先で、ヒナはサクラと出くわした。
 
「あれっ、サクラ先生?」
 
 桜統学園に一般的な職員室はない。中等部・高等部に教科ごとの資料室はあるが、各教員は個室を得ている。桜統の教員は『先生』であると同時に『研究者』でもある。
 サクラは高等部に席がある。しかし、諸々の都合で、この中等部の別棟1階にも準備室のような個室が用意されている。
 テストの立ち合いに教員がいることはないので、本日ヒナは初めてサクラを目にした。
 
「クラスに用ですか? おれ帰ろうとしてたんですけど……」
「いや、鴨居かもいさんに用があってね。部活のことで話をしようかと」
「部活……」

 そうだ、連絡が来ていた。桜統の部活一覧表も添付されていた。
 新入生のための部活紹介は、入学式のあとに行われていて、すでに終わっている。ヒナは学園に通う前だったが、寮に入っていたので、部活紹介だけ見にいった。

「まだ決めてませんでした。(忘れてました)」
「テストも終わったことだから、早めに入部申請をするように。桜統は『文武不岐ふき』。原則として部活に入るよう指導しているからね」

 文武不岐。敷地内に飾られた大きな岩の前に書かれている。桜統の校訓。
 
(部活か……どうしようかな?)
 
 中学のときは帰宅部だった。選ぼうにも自分に何ができるのか分からない。

「……考えときます」
「ああ、よろしくね」
「サクラ先生、これを話すためだけに来てくれたんですか?」
 
 連絡だけで、よかっただろうに。(その学園からの連絡をスルーしたわけだが)

「いや、もうひとつ用があってね。こちらは直接、会う必要があったから……」
 
 見上げていたヒナの前に、サクラが握った拳を差し出した。
 きょとりと疑問を浮かべてみせる。
 サクラが「どうぞ、あげるよ」
 何かくれるらしい。とっさに両手を出して受け止めるポーズをする。

 シャラっと落ちてきたのは、金属っぽい……
 
「……キーホルダー?」
「学園の開校記念に配られた物でね。桜がお守りだと話していたから……余っていた物をあげよう」
 
 手の中には、桜の形をしたキーホルダーがあった。
 細い金でふち取られた、薄桃色のきれいな花。裏返すと、金の背面に文字と校章が刻まれていた。

「えっ! いいんですか?」
「構わないよ。仕舞われているよりも、生徒に使ってもらえたほうがいいだろう」
「使います!」
 
 スクールバッグを肩から下ろして、パチンッとバッグのリングにキーホルダーをつけた。指定のスクールバッグを背に、キラキラと桜が光る。前の物も悪くなかったが、こちらのほうが高級感。
 
「おれ、ちょうどキーホルダー壊れちゃったんで……うれしいです」
「ほう、どうして壊れたのかな?」
「ハヤトと喧嘩したとき、琉夏がー……」
「………………」
「……いやっ、スクバ落としたときに……そう、自然と割れました! 誰も悪くない感じです!」
「そうか。そちらは丈夫だから、落としたくらいでは壊れないだろう。安心だね?」
「そうですねー……」
 
 あはは。笑ってみせたが、誤魔化せたのだろうか。サクラもにっこりしていて分からない。
 タイミングよく、サクラの腕でスマートウォッチが振動した。

「ああ、私は部活に顔を出さなくてはいけないから、失礼するよ。また明日」
「さようならー……えっ、あれ? サクラ先生、部活顧問もしてるんですか?」
 
 せっかく別れる機会を得たのに、うっかり引き止めてしまった。
 互いに目的は昇降口だと思われる。この校舎に教員専用の出入り口はない。
 追いかけるように歩いていくと、サクラもゆるりと歩きながら言葉を返した。
 
「書類上は顧問をしているが、指導は外部委託だよ。生徒から希望があるので、たまに顔を出している」
「なんの顧問をしてるんですか?」
箏曲そうきょく部と茶道部。琴とお茶……と言えば伝わるかな?」
「あ、こと部は部活紹介で見ました。浴衣を着た女子が10人くらいで演奏して……」
 
 ——はっ! ひらめいた!
 
「部活! 女子がいる!」
「……それが、どうかしたか?」
「いや、クラスには男子しかいないから、女子と会えないっていう話をしていて……部活に入れば会えますね!」
「……そうだね?」
「琴部、いいですね! 茶道部も、おれやれそう! 女子は何人いるんですか?」
「現在はどちらも女子のみだよ。箏曲は16人、茶道は28人」
「女子のみっ? えっ、おれ入ったらダメなんですか?」
「そんなことはないよ。性別関係なく歓迎している。興味があるなら、今から見学に来るか? 箏曲は週3、茶道は週1の活動だから、掛け持ちしている生徒も多いよ」
「行く! 行きます! 行かせてください!」
 
(両方に入れば、週4で女子と会える!)
 
 わあい、と無邪気に喜びながら、サクラと共に高等部へ向かうヒナだった。
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