【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

文字の大きさ
上 下
19 / 79
ハロー・マイ・クラスメイツ

01_Track18.wav

しおりを挟む
 ヒナが教室についたときには、授業開始まで残り5分を切っていた。
 ホームルームはない。あるときもあるが、週に一度きり。通常は諸連絡がブレス端末に回ってくる。出席もブレス端末でカウントされている。
 
 冗談のつもりが、ほんとに遅刻になるとこだったなぁ……なんて気楽に話していたヒナは、
 
「おはよー……」
 
 開いたドア先の光景に硬直した。背後にいたカミヤハヤトも止まった。
 
「おはよう」
 
 クラスメイトが揃う教室に、なめらかな声が響く。ラスボスみたいな存在感で教卓にいたのは、
 
「さ、サクラ先生っ……おはようございます!」
 
 美しい顔で微笑む、ぼくらの担任。たるんでいた背筋が伸びた。
 
(早っ。いつも授業3分前きっかりに来るのに、いつからいたんだっ?)
 
 動揺して入り口でもたつくヒナから、サクラの目はするりと背後に流れた。
 
「狼谷さんも、おはよう」
「……おはよーございます」
「二人で寮から登校してきたのか? クラス仲がよくて何よりだね」
「いや、」
「——鬼ごっこをするほど仲がよい。だが、今後はもう少し気をつけなさい。昨日の鴨居さんの怪我について、注意喚起の連絡が回っているね? 職員会議で議題になったため、私からも口頭で話をしようと思ってね。二人とも、席に着きなさい」
「……はい」
 
 スクールバッグの持ち手を握りしめて、びくびくと自席についた。
 座る前に、奥の琉夏と目が合った。
(アンタなんでハヤトと来てンの?)
 心を読めたので、フッと不敵に笑っておいた。そこだけ強気に。
 
「……さて、全員が揃ったね。始めようか」
 
 着席して、電子黒板に映る文字を見る。敷地内で走り回る際の注意点。
 
(これブレス端末に連絡来てたやつ……同じこと聞かされるのか……)
 
 うんざりな感情をおくびにも出さず、ヒナはサクラを見る。
 真面目な生徒としてがんばる。おれは優等生。
 いい子スイッチを入れてキリリとしていると、目を合わせたサクラがにこやかな顔で、
 
「この社会で、暴力が認められていないことは知っているな?」

 ……うん?
 つい、自然と首をかしげていた。
 電子黒板に映る話と、サクラの口から出てくる話に、大いなる齟齬そごが。
 
「ここでいう暴力とは、他者に対する身体的、精神的な害を引き起こす行為を指し、法律や社会的規範に反するものを——」
 
 み合わずに展開していく講義に、だんだんと理解が及んでいく。冷や汗が、じわり。
 
 左後ろを横目に振り返ってみる。鬼ごっこ仲間の3人も、察した顔で押し黙っている。
 始まったは、保護者に向けて『トラブルに対応しましたよ』と言い張るための些末さまつな注意喚起ではなく、純然たる説教。
 しかも、喧嘩があった前提の。
 
「暴力というものが、法治社会においていかに稚拙な手段か教えよう。——とくに狼谷さん、鴨居さん。よそ見せず、しっかりと聞くように」
 
(おれの名前が入ってる!)
 
 微笑するサクラの目は笑っていない。
 優しい声でこんこんと湧き出る説教に、ヒナは耳が痛い思いで身を縮めていた。
 無関係のクラスメイトには、心のなかで謝罪を捧げるしかなかった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

致死量の愛と泡沫に+

藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。 泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。 ※致死量シリーズ 【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。 表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

処理中です...