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クラスメイトのバレー部くん

What I love 6

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——おい、いいかげん正直に認めろよ。
——本当は好きなんだろ?
——なんで隠すんだ、恥ずかしいのか?

 今度はイスに座ったまま、私の机にひじを乗せてそんなたぐいのセリフを口にする彼。
 ここだけ聞いていると、なんだか告白をうながす自意識過剰な男のセリフみたいだ。
 いやしかし、彼はまったくもって私の気持ちに気づいていないわけで。そう考えるとこのセリフもなんだか腹立たしい。

「朝日くん、悪いんだけど……うるさい」
「お前がバレー好きって認めないからだろー」
「いやだから、好きじゃないってば」

 このやりとりも何度目か分からない。休み時間のたびに問い詰められたせいで、取り調べされる容疑者の気持ちが分かりつつある。
 否定しているのに食い下がる彼をなんとかするのは、もう諦めた。放課後にさえなれば、部活という魔法が彼を体育館にいざなってくれるのだから。

「——部活、いってらっしゃい」

 すがすがしい笑顔で、見送るべく手を振る私。そんな私の期待を裏切って、彼は私の腕を掴み、

「東条も行くぞ! 証人に会わせてやるからな」
「はっ? いやまってまって!」

 ぐっと握られた腕の力は強く、今日は簡単に振り払えない。身長は私と大して変わらないのに。彼の腕の力に、日々どれほど努力をしているのかが分かった。
 と、そんな感動にひたる間もなく、無理やり第三体育館まで引きずられていく。

「ちょっと朝日くん! 放して!」
「いやだ!」

 いやだ、って! なにその主張!

「——俺は、バレーが好きなのに隠してる東条に納得がいかねぇ!」
「だーかーら! 好きじゃないって言ってるのに!」
「じゃあなんでいつもバレー部のこと見てるんだ!」
「別にそれはバレーを見てるんじゃなくて!」

 引っ張る彼と反対のベクトルに奮闘していたせいで、思わず彼みたいに大声で叫んでいた。
 第三体育館までの渡り廊下。もう扉は目の前だ。
 私の言葉に、彼が、ばっと振り返った。

「バレー以外に、何を見るんだ?」
「だから、それ、は……」

 答えなんて、言えるわけない。
 急に黙る君は、私に何を言わせたいの。

 渡り廊下の真ん中で。腕を掴んだまま、じっとこちらを見つめてくる彼に、私はなんと返せばいいか分からず目をそらそうとして、

「——あ、東条先輩!」

 ひょこ、と。
 ずらした視界いっぱいに、薄い髪色の男子が顔を出した。
(え、……だれ?)
 びっくりしてわずかに身を引く。いま確かに私の名前を呼んだとは思うが、まったく知らない顔。身に覚えのないその男子は、ニコッと愛想よく笑って、

「もしかして、マネージャーになってくれるんですか?」
「……マネージャー?」
「おお、佐々木! お前、ちょうどいいとこに来たな! ほら東条、観念しろよ。こいつが証人だからな!」
「証人って何が……」

 意味が分からず混乱する私の腕を放し、彼は満面の笑みでその淡い頭髪の男子——たぶん、一年生——を、ぐいっと私の前に突き出した。おそらくだが、佐々木と呼ばれた男子も、なんのことを言われているのか分かっていない気がする。
 ん? と疑問符いっぱいの顔をしていた佐々木くんは、何かを思い出したようにハッとして、

「あ、そういえば。おれ、分かりましたよ! 昨日のなぞなぞ! 東条先輩は、バレーじゃなくて、朝日先輩を見てたんだって!」
 
 ………………は?

 時間にして、数秒。自信満々な佐々木くんが、(褒めて褒めて!)みたいな顔で待っているのを凝視してしまってから……あわてて佐々木くんの後ろにいた彼の顔を確認する。

「……俺、を?」

 ぽかーんとした顔で呟いてから、ようやく分かったらしく、その顔が驚きの表情と——いきなり、かっと朱に染まって。

「東条、お前、」

 鈍感な君でも分かったらしい。
 見たことのないほど赤くなった彼の顔に、私のほうが見ていられなくなって、反射的に背を向け——逃げた。

「あ、おい待て! このタイミングで逃げんなよ!」
「いや! 追いかけてこないで!」

 廊下は走っちゃいけないとか、そんなの知らない。そういう規則に従っている場合じゃない。
 でも、帰宅部の私は、ものの数秒で捕まってしまった。体育を真剣に取り組んでこなかった罰なのだろうか。
 掴まれた腕に、ぎゅっと力が入っているのが分かる。

「なんで逃げるんだよ!」
「恥ずかしいからに決まってるよね!」
「何が恥ずかしいんだ!」
「はっ? 何それ、朝日くん分かってないのっ? どんだけバカなの!」

 もうなんか泣きたい。

「バカは関係ねぇだろ! 俺は、さっきの佐々木の話を確かめようと思って……」

 勢いのあった彼の声が、尻すぼみに弱まっていく。下がる目線。
 赤く染まった頬は、いきなり走ったせいなのか、先ほどのままなのか。

「東条、お前……俺を見てたって、ほんとなのか?」
「………………」

 否定なんて、できない。
 かといって、素直に肯定できるほど可愛い性格でもない。

「……ごめん」
「……なんで、ごめん?」
「だって……朝日くん、あのマネージャーさんが好きなんでしょ? ……私、昨日まで知らなくて……」
「ん? なんの話だ?」
「マネージャーの、先輩さんの話。朝日くん、あのひとのこと好きでしょ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「……『正直に認めろよ』」
「?」
「『本当は好きなんだろ。なんで隠すんだ、恥ずかしいのか』」
「……それ俺が言ったセリフじゃねぇか!」
「仕返し」

 むっつりとそう言いきると、彼は困惑したような顔で、掴んだままの私の手を引いた。
 距離が、一気に近くなる。

「お前の気持ちは、分かった」
「……ほんとに?」
「バレーの試合じゃなくて、俺を見ててくれたんだな」
「……うん」
「そうか……お前、そんなにリベロの良さが分かってたんだな」
「……うん?」
「そうだよな、やっぱリベロかっけぇよな!」
「……え、ちょっと待って。なに? りべろって誰?」
「ん? ああ、俺のポジションだ! レシーブ専門!」
「あー……うん、なるほど。いや、ていうかなんか話ずれてない?」
「何がだ?」
「……私が何を見ていたか、分かったんだよね?」

 確かめる意味で、上目遣いに首をかしげる。身長がほとんど一緒なので上目遣いも大して意味はないのだろうが、彼のほうは「おお、もちろんだ!」ニカっと笑ってうなずき、

「俺のリベロとしての名プレイを、見ていてくれたんだろ!」

(なんか……違う)

 思ったけれども、あまりにも嬉しそうに笑うので、私も空気を読んでしまい、

「うん……そうだね」

 この超級の鈍感。
 ここまでくると、ちょっとぶんなぐってやりたいと思うが……仮にも好きなひとなので、やめておこう。
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