【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Interlude 鏡に映る、さかしまの国

あした天気になぁれ

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【Epilogue Hush-a-by lady】
 After that.

「——どうしよう、アリスちゃんが誰か呪ってる」

 食堂に駆け込んできたティアの言葉に、テーブルに立体投影マップを展開させて話し合っていた遠征組が振り返った。
 顔ぶれはサクラ、セト、イシャン、ロキ、ハオロン、アリア。メルウィンは調理室にいると思われる。
 遠征組と称したが、本来ティアとメルウィン以外はしばしばハウスから出る。彼女を見つけたときにティアが外に出ていたのがまれなのであって、メンバーはまちまちだが、基本的にはサクラ・セト・イシャン、ロキ・ハオロン・アリアで別れがちだった。イシャンとハオロンは反対に加わることも。

 以前より問題になっている外の破壊を目的として、今回は強化メンバーで行こうと話し合っていたのだが……

「——は? 呪い? 何言ってんだ?」

 真っ先に反応したのはいつもどおりのセトで、眉間を狭めた怪訝けげんな目をティアへと投げた。偶発的になんとなく集結して話していたのもあって、ロキ以外は着席していない。
 そんな輪の中に入ったティアは神妙な顔で、

「たった今、アリスちゃんとお茶してたんだよ。アリスちゃんの部屋で。そうしたらさ……」

 言いかけたところを、セトが「お前またウサギの部屋入ったのか」横から突っこんできたがティアは完全に無視。真面目な顔つきのまま声を落として発言した。

「窓のところに首り人形が掛けられてたんだ」

 しん、と薄っぺらな沈黙が降りる。
 ロキだけが「こわ。急になんの目的で?」
 並んでいたハオロンはアリアと顔を見合わせ、目をティアに戻し、

「ティア、ありすになんかしたんか?」
「いやいや僕じゃないでしょ! なんで部屋に入るって分かってる僕にそんなもの見せるのっ?」
「はっきり言えんからぁ……二度とくるなって首吊り人形で示したんやないの?」
「違うよ! 僕のことはニコニコで迎えてくれたからね!」
「ほんとかぁ?」

 疑うハオロンにティアが弁明していると、自分の行動を顧みていたセトが「……俺か? 」すこし衝撃的な顔でつぶやいた。
 隣にいたイシャンが尋ねる。

「何かしたのだろうか……?」
「……したと言えばした気ぃする。いや、けど……挨拶ってことで解決したはず……」

 腕を組んで考えこむセトに、ティアがぽそりと「セト君こそ何やってるかな。ぜったい僕の部屋訪問よりたち悪いでしょ」冷たい横目を送った。
 ロキはイスに座って赤いジュースをすすりながら、「……オレじゃねェよ?」誰もいていないのに無罪を主張した。あやしい。ティアがちろりと目を落とす。

「ほんとに? 昨日の夜、アリスちゃんの部屋に押しかけたりしてない?」
「してねェし。それ言うならサクラだろ」
「私は会っていないよ」
「ほんとかねェ~?」

 巻き込まれたサクラがさらりと否定したが、ロキは疑いの目で見上げている。それを受けたサクラは微笑んだ。ティアからすれば疑念はどっちもどっち。

「正直に言おうよ、誰かアリスちゃんを怒らせるようなことしたんじゃないの? 首吊り人形まで下げて……よっぽどだよ?」

 ティアの言い分に、全員が記憶をたどるように黙った。
 しかし、誰も思いつかないようす。
 アリアが控えめに口を開く。

「そう言われると……昨日、お姫様とお話をしたのですが、ハウスの敷地から外へ行くにはどうしたらいいのか……と訊かれまして」

 全員の目がアリアに向いた。

「外は危険ですよ、と……案に否定するかたちになってしまったのです。ひょっとして、お気にさわったのかも……」

 困った顔で述べた内容に、セトが眉を強く寄せて口を挟んだ。

「それ、ここから出て行きたいってことじゃねぇのか?」 

 セトの問いには、誰も答えられなかった。

 ひどく重い沈黙が広がる食堂に、何も知らないメルウィンがひょこんと顔を出した。

「ぁ……えっと、みんなまだ話し合ってる?  アリスさんと、遠征用のメニューをそっちで相談しようかと思うんだけど……まだ時間かかりそう? アリスさん、いま来るって言ってて……」

 普段であれば、「そんなんメッセージでいいじゃん」と文句めいたことを言うロキも、そんなことは言わずに「ウサちゃん来るらし~よ……」下から全員を見回した。
 合わせる顔も掛ける言葉も見つけられていない彼らをよそに、食堂のドアはあっさりと開いた。

「あっ、アリスさん!」

 メルウィンの呼び声に、ふわりと笑う顔。長いテーブルの横を少しだけ早足でやってくると、集まっていた彼らにも目を向けた。

「なにか、ありましたか?」

 不思議そうな顔を向けられたサクラは、

へ行く話をしていたんだよ」
「〈えんせい〉ですね。 ちょうどよかった……もしよければ、わたしも、いってもいいですか?」

 問われて、サクラは返事をすることなく兄弟たちの顔に目を流した。沈痛な空気がただよう彼らのなか、ロキがきっぱりと「ダメ」却下した。

「だめ?」
「ウサちゃんはオレとハウス。遠征は無し」
「……どうして?」
「危ねェし。感染者に襲われて困るのはウサギちゃんだろ」
「……〈もーたーほーむ〉のなかに、なるべくいるから。〈ちゅうしゃ〉もしてく。〈りんしょうしけん〉をするので……さくらさん、だめですか?」
「なんでサクラに訊いてンの? オレがダメって言ってンじゃん」

 不可能そうなロキではなく、サクラにターゲットを絞るあたりがしたたかだ。ティアはひそかに思った。
 しかし、それを邪魔するようにハオロンも、

「ありす、外なんて楽しいことなんもないよ?」

 その嘘はすこし無理がある。日頃ハオロンは外は楽しいと口にしている。
 案の定、彼女も(なぜいきなりそんな嘘を……?)疑問いっぱいの目を返した。
 考えていたイシャンは「ハウスが安全だろうと思う……」静かな声でハオロンを支持してから、

「今までのことを、もう一度……謝罪したい。正式なドケザを教えてもらえないだろうか……」
「(土下座……?)」

 (彼女からしたら)脈絡のない唐突な謝罪の申し入れに、彼女はきょとんとしてイシャンを見た。その手前にいたセトもいきなり、

「悪かった。もうなんもしねぇから……考え直してくれ」
「? ……なにを、かんがえなおすの?」
「ハウスから出ること」
「……せとも、わたしがでるの、はんたい?」
「あたりまえだろ。……いや、反対っつぅか。出たい意思を邪魔する資格なんてねぇけど……」
「? ……そとは、そんなにあぶない? まえに、みんな、きをつけていれば〈だいじょうぶ〉と、いいました。でも、やっぱり、あぶない? ……わたしは、だめ?」
「駄目じゃねぇけど、俺は嫌だ」
「……だめじゃないけど、いや? せとは、いや? ……どうして?」
「どうしてって……」

 素朴な疑問の顔に、セトは困惑して目を泳がせる。話の流れをさっぱり分かっていないメルウィンも彼女と似たような顔をしている。
 みんなの沈んだ空気と、自分に集まる目の理由が分からない彼女に、サクラが口を開いた。

「私室の窓に首吊り人形を掛けているというのは本当か?」
「? ……くびつりにんぎょう?」
「身に覚えがないか?」
「もしかして……『てるてる坊主』のことですか?」
「ああ、それだね。——となると勘違いが生じているようだが、もうひとつ訊こうか。遠征に加わりたい理由は? 逃げ出したいわけではないね?」
「……にげだす?」

 このあたりで、ほとんどの目がティアに流れていた。『てるてる坊主』が何かは知らないが、どうも呪いの首吊り人形ではないらしいぞ、と。一部はじっとりと恨みがましい目で。受け取るティアはすでに何かを察していて、肩をすくめ(ごめんってば)心のこもらない謝罪を胸中で返している。

 サクラの質問には、彼女が、

「〈りゆう〉は、とくにないです。みんなが、そとのはなしをするので……わたしも、きになりました。〈ゆき〉が、このさきずっとふらなかったら……〈もーたーほーむ〉をつかえるから、わたしも〈いっしょ〉に……いけるだろう、と……まえに、みんな、はなしていたので……」

 ——ああ、そんなこと言ったな。
 全員が以前の食堂での会話を思い出し、同じことを思った。
 それをタイミングよく捉えたティアは、にこっと笑って、

「うん、僕だけが悪いわけじゃないね? アリスちゃんが怒ってるとして、心当たりがいっぱいあったみんなも悪いよね?」
「ふざけんな! お前の勘違いが悪いに決まってんだろ!」
「や、セト君は僕を責める資格なし。君、真剣に謝ってたよね? 身に覚えありまくりだったってことだよね?」
「うるせぇ! ひとの揚げ足取ってごまかしてんじゃねぇ!」

 わぁわぁと騒ぐティアとセトに、下からロキも参戦する。

「アンタもうサイキックの称号返上しろよ」
「サイキックなんて名乗ってないよ!」
「お前は常に話をややこしくしてんだ! 自覚して黙っとけ!」
「だってほんとに呪いの人形だったんだよ! 僕じゃなくても同じこと言ってたからね!」

 うるさい三人は気にせず、ハオロンはアリアとのんびり笑っていた。

「そんなことやと思ったわ。ありすは呪いの人形を可愛いと思って飾ってたんやろ? うちとホラーゲームしてるし、怖がってるうちに好きになってきたんやの」
「おや? 結局テルテルボウズは呪いの人形なのですか? 何かのキャラクターでしょうか」
「きっとありすのオリジナルキャラやわ。あとで見せてもらおっさ」

 イシャンはというと、ティアに詰め寄るセトの横にいたが、ティアを責める気持ちが一致していたため制止しなかった。ただ、呪い人形の正体だけ気になったようで、知っているらしいサクラに、

「テルテルボウズとは……なんなのだろう?」
「晴天を祈って飾る人形のことだね」
「ああ……雪が降らないように……か」

 納得するイシャンを見ていた彼女は、サクラに目をずらして、そろりと尋ねる。

「ずっと〈はれ〉だったら……わたしも、そとにいってもいいですか?」
「セトも言っていただろう? お前を止める資格や権利など、誰にもないよ。自由にしたらいい」

 と、言うことは。
 メルウィンを振り返った彼女は、嬉しそうに笑った。

「〈えんせい〉に、わたしもいけそう」
「よかったですね! 行ってみたいって言ってましたもんね。アリスさんの好きな料理、いっぱい用意しますっ」
「ありがとう。わたしも、いっしょに、よういします」

 当初の目的であった遠征ご飯の相談会が、ほんわかと始まる。
 モーターホームに詰めていく料理の数々を挙げながら、彼女は胸のなかで願った。

 穏やかな晴天の日が、ずっと続きますように——。
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