【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Chap.15 A Mad T-Party

Chap.15 Sec.9

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 銃の発砲音が耳に残っている。
 底の見えない穴のような銃口。セトの身体越しに感じた、銃弾の衝撃。鼓膜をたたいた爆音と、複数の叫び声。最後まで揺らがなかった、冷淡な青い眼。
 ——なにが、起こったのか。
 ——何が起こっているのか。

 牢獄ろうごくのように閉じめられた小部屋のなか、身体に残る惨事さんじを思い出して身を震わせていた。牢獄と呼んだが、鉄格子などはない。各個人の部屋と構造は等しい。ひとつの部屋のなかに設置された、室内を仕切る透明な壁。ショーウィンドウめいたおり。風穴と小さな戸はあるが、人が抜けられるほどの扉がない。

 私はどうやって入れられたのか。目隠しと手錠のような機械をつけられ、ロボットとイシャンに連れられるままに歩き、外されたときにはここにいた。拘束を外したロボットのアームが小さな戸を抜けていくのを最後に、透明な仕切りは完全に閉じられた。

「まって、いしゃん! せとは……」

 ——どうなったのか。

 部屋本来のドアから出て行こうとしたイシャンが、半身だけ振り返った。温度のない瞳は無感動に私を捉えたが、何も言わずに出ていってしまった。

 セトが、撃たれた。私を庇って撃たれた。どうして。なぜ。サクラが私を撃とうとした理由も理解していない。状況が分からない、説明が欲しい。会話が速すぎて全貌ぜんぼうがつかめていない。

——飲むな。

 セトの強い制止から始まり、〈ティア〉、〈毒〉、それから私の呼び名が何度も。毒とは、どういうことなのか。ティアは発作じゃない? 毒を飲んだ? 傷んでいると言ったあの茶葉が原因だった? ——それなら、私が依頼された再現は?

——よくある発作だから、案じることはない。

 サクラの言葉は、嘘? だったらティアは? 無事ではない? 


 震える右手を反対で包み、記憶を反芻はんすうして状況を把握しようとするけれども、捉えきれない。知らずしらず翻訳機に頼りきっていたから、失った状態だと、単語はところどころ聞き取れても文脈があやふやだった。
 白い部屋で立ち尽くしたまま、透明な壁を見つめるしかできない。
 もしかしたら、今、この瞬間、ティアかセトが死に直面しているかも知れないのに、何も分からず、何もできないなんて——。


 頭に、クリスマスを祝いたいと言ったティアの笑顔が浮かぶ。

——よかったら、一緒にお祝いしよう?

(あんなに、楽しそうに笑っていたのに?)


 涙を止められなかった夜に、セトに掛けられた言葉も。

——サクラさんに何か言われたのか? 酷いことされたのか? ちゃんと言ってくれ。俺がどうにかしてやれるかも知んねぇだろ?

(私を助けようとしてくれたのに……)


 私は、何もできない?
 結局また、無力な自分をなげいて終わるだけ?

(そんなことは、もう——)

 胸のなかに、小さな火が灯った。
 赤々と燃えるほとではないけれど、やわらかで暖かさに満ちた、金色の光。

——私が知らないだけで、もっと沢山あるはずです。貴方が、誰かを護ろうとしたときが……きっと。

 記憶に新しいアリアの優しい微笑みと言葉を頼りに、存在意義を思い出す。
 逃げることばかりを考えるのではなく、誰かを護りたいと思える私がいるなら——
 ——そんな自分を、大切にしたい。 


 心を落ち着かせて、思考をぎすまして、冷静に。震えている場合じゃない。閉じ籠められた私に残る、唯一の武器は、この頭だけ。

(私にできることは、何がある?)

 考えなければいけない。
 彼らが無事であることを祈るよりも、私ができることを、どんなに些細ささいなことであっても——見つけなくては。
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