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Chap.10 DRINK ME, EAT ME
Chap.10 Sec.3
しおりを挟むなぜ……。
メルウィンの心の声は、おそらく顔に出ている。食堂にそろった顔ぶれに、戸惑いを隠せず(隠す気もそんなにないけれど……)微妙な表情をしていた。
「アリアはそれ、なに飲んでるんやぁ?」
「カプチーノですよ」
食堂には、メルウィンの予想を越えて、人がいる。4人。自分を含めて5人。もちろん、彼女とアリアのふたりはいい。メルウィンが声をかけた相手(ちなみにティアも。まだ眠ってるのかな……?)なので、当然。ハオロンも、いい。彼にしては早い起床だなとは思うけれど、メルウィンにとって困ることはない。彼は廊下側、アリアに並んで楽しく食事をとっている。……問題は、
「こんな甘いもん、朝からよく食えンなァ~?」
窓側の端っこに座るメルウィンは、左隣に意識を向けた。ひとつ席を空けて、やかましい気配が。
「……おいしい、から……ろきも、たべない……?」
「要らねェ……見てるだけで吐き気すンだけど」
(それなら、どうして来たの……?)言えないので、胸中だけで尋ねてみる。誰か代わりに訊いてくれると嬉しい。そして、「私室に戻ってもいいんだよ」と教えてあげてほしい。ロキのさらに左にいる彼女も、対応しかねていると思う。
「……ろきは、あまい、きらい?」
「辛いほうがいい」
「……からい?」
『からい』
『辛いものが好きなの?』
『あまいのよりは』
知らない言語をまぜながら話すふたりは、メルウィンからすると親密に見えた。なぜロキなのだろう。ティアやアリアなら同意できるけれど、彼だけは親しくしないほうがいいと、思ってしまう。……階段から落とされているのに。関わらないほうがいいのに。とはいえ、まとわりついてくるロキを彼女が振り払えるとも思えない。本当のところ彼女がどう思っているか、メルウィンには分からない。こぼれそうになるため息は、カフェラテを合わせて飲み込んだ。
「——ってかさ、なんでウサちゃんはアリアちゃんのとこに居たワケ?」
メルウィンが黙って食べていると、ひとり食事のないロキの率直な疑問が、アリアへと投げられた。食事はないが、ロキはオレンジジュースだけすすっている。
メルウィンの正面に座っているアリアは——ふだんから朝食は控えめなので——もう食べ終えていて、飲みきったカプチーノのカップをテーブルに置き、ロキへと顔を向けた。
「昨夜は目が冴えてしまって……展望広間から景色でも見ようとしたところ、お姫様を見つけたんですよ。私は眠くなかったので、ベッドを貸そうかと思いまして」
「……アリアちゃんは? 何してたの?」
「私は研究室にいました。目が覚めたお姫様を迎えに行ったところ、みなさんに会った——というわけです」
「へ~」
訊いておきながら無感動なロキの声。アリアはまったく気にしていないようで、いつもどおり微笑んでいる。その様子を見てロキは興味がなくなったのか、また彼女へと目線を戻した。
『おいだされたなら、おれのとこ、くればよかったのに』
『……私、ロキの部屋は知らないよ』
『おれのへやは…………あとでいくから、せつめいは、いいか』
『………………』
『なにかんがえてるか、あてようか?』
『……え?』
『おれと、したくないのになぁって、おもってる?』
『…………そんなこと、ないよ』
『あなたも、うそがへただな』
会話の内容は分からない。彼女は困り果てたみたいに押し黙った感じがあった。
『……ほんとに、思ってないよ。こうやって話せること、とても感謝してる。……することで、お礼になるなら……いくらでも……』
後半は、空間に溶けるような囁き声で。メルウィンは、泣いているのかもと不安げに様子をうかがった。
ロキの派手な頭越しに、彼女の姿が見える。レモンイエローのセーターが、すこし眩しい。長い黒髪に飾られた顔に涙はなく、ほっと胸をなでおろした。メルウィンが安堵したのと同じタイミングで、ロキが、
『……きょうは、しない。あなたは、おれのこのみじゃないし』
そっけない言い方は、淡々としていてひやりとする。言葉は分からないけれど、いい意味ではないような。——けれども、不思議なことに、彼女は眉尻を下げて表情をゆるめた。
『ありがとう』
『……そのかえし、おかしくない? おれのいってること、ほんとにつたわってる?』
『伝わってるよ』
うろんげなロキの声を受け止めて、彼女の唇に微笑が浮かんだ。誰も介入できない、ふたりだけの世界。メルウィンからロキの顔は見えず、おそらく笑ってなどいないのに、優しく苦笑しているような錯覚がした。
(アリスさん、僕は、ロキくんよりも……ティアくんのほうがいいと思いますよ……?)
カフェラテの、エスプレッソとミルクが生む、ほろ苦くまろやかなアロマのなか。
伝えられない本音は、そっと胸に秘められたまま。
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