26 / 228
Chap.3 鏡の国の
Chap.3 Sec.2
しおりを挟む
結論からいうと、カレーライス(みたいなもの)はあまり美味しくなかった。
把握できないほど添加されたスパイスはいい匂いだったが、食べてみると刺激的すぎて違和感が強く、舌がヒリリと痛くなった。単に辛すぎるというわけではなく、ルーの部分にコクもないし、黄色いライスのほうはパサパサとした食感でなんの味もない。前日の食事が美味しかったのもあって、機械食はお腹が空いていれば美味しいかも? 程度の味だった。
どういう仕組みで作られたのか分からないが、2・3分で出来あがるのだから、味にケチをつけず技術を評価するべきなのかも知れない。あるいはカレーがハズレだっただけなのかも。
斜め前で黙々と食べるセトは、味について気にしていないようだった。一度食事の途中で立ち上がり水を取りに行ったのだが、帰ってきたあと私を見て停止し、再びキッチンへの道のりを往復したかと思うと、私の目の前にもひとつ水の入ったコップを置いてくれた。私自身とくに何か促したわけではない、と思う。彼は始終無言のままだった。
「おはよ~」
やわらかな声が聞こえて顔をあげると、プラチナブロンドを緩くひとつにまとめた——ティアだった。目が合うと、にこりと微笑まれる。昨夜のことが頭によぎって、かっと顔に熱が集まった。
ティアはそんな私のことは気にせず、じとりとした目を向けているセトの横に座った。
「お前、遅ぇよ……今からじゃどこも行けねぇだろ」
「え~? ……だって眠くって。もうこの辺りはよくない? そろそろハウスに帰ろうよ」
「まあ、そうだな。人も感染者も全然いねぇし。めぼしいもんもねぇな」
「僕もちょっと散策したけどさ……遺体もないよね?」
「そういや見ねぇな」
「掃除ロボットか何か、オートで動いてるのかも」
「死体はゴミかよ」
「僕に言われても」
ふたりの流暢な応酬を聞きながら、セトがいつのまにか食べ終わっていたことにハッとして、残り少ないカレーを胃に流し込んだ。急いで飲み込んだせいか尖ったスパイスの風味に喉が痛み、コップを手に取って水を飲む。すると、セトの視線が私に流れた。
「……辛かったか?」
ぶっきらぼうに、何かを尋ねた。目線からすると私に訊いたのだとは思うが、推測できず私は問いかけるようにティアへと視線を向けた。
「それ辛いか? って。からい。う~ん……ちょっと寝起きで伝え方が浮かばないや。パス」
ぽんっとセトの肩をティアが叩いた。
「は?」
「僕はお茶でも淹れよっと。アリスちゃんも、飲む?」
ティアがティーカップを傾ける仕草をした。お茶どう? これに類似するフレーズはそろそろジェスチャーなしでも聞き取れそう。
「はい」
「うん。セト君は?」
「俺は珈琲」
「え、それは自分で淹れてね?」
「前から思ってたけどよ、お前なんで紅茶専門なんだよ」
キッチンに向かったティアに続いて、セトも食器を持ち、立ち上がった。食べ終わっていた私の食器にもおもむろに手を伸ばし、一緒に片付けようとしている。
『これは私が……』
遠慮して食器を押さえたが、強制的に取りあげられた。せめてコップだけでもと思ったのに、大きな手で自身のと2つを難なく持ち、
「ついでだ」
「……アリガトウ」
感謝を述べると、変なものでも見るみたいな顔をされる。そういえば以前も、ありがとうと伝えたときに微妙な顔をされた。なにか間違った言い方をしているのだろうか。
戸惑う私から目をそらして、セトもキッチンへと行ってしまった。くすんだ金髪を見つめながら、
(何もしないほうが居心地がわるい……)
ひどく勝手なことを思い、ふたりが戻るのを静かに待っていた。
把握できないほど添加されたスパイスはいい匂いだったが、食べてみると刺激的すぎて違和感が強く、舌がヒリリと痛くなった。単に辛すぎるというわけではなく、ルーの部分にコクもないし、黄色いライスのほうはパサパサとした食感でなんの味もない。前日の食事が美味しかったのもあって、機械食はお腹が空いていれば美味しいかも? 程度の味だった。
どういう仕組みで作られたのか分からないが、2・3分で出来あがるのだから、味にケチをつけず技術を評価するべきなのかも知れない。あるいはカレーがハズレだっただけなのかも。
斜め前で黙々と食べるセトは、味について気にしていないようだった。一度食事の途中で立ち上がり水を取りに行ったのだが、帰ってきたあと私を見て停止し、再びキッチンへの道のりを往復したかと思うと、私の目の前にもひとつ水の入ったコップを置いてくれた。私自身とくに何か促したわけではない、と思う。彼は始終無言のままだった。
「おはよ~」
やわらかな声が聞こえて顔をあげると、プラチナブロンドを緩くひとつにまとめた——ティアだった。目が合うと、にこりと微笑まれる。昨夜のことが頭によぎって、かっと顔に熱が集まった。
ティアはそんな私のことは気にせず、じとりとした目を向けているセトの横に座った。
「お前、遅ぇよ……今からじゃどこも行けねぇだろ」
「え~? ……だって眠くって。もうこの辺りはよくない? そろそろハウスに帰ろうよ」
「まあ、そうだな。人も感染者も全然いねぇし。めぼしいもんもねぇな」
「僕もちょっと散策したけどさ……遺体もないよね?」
「そういや見ねぇな」
「掃除ロボットか何か、オートで動いてるのかも」
「死体はゴミかよ」
「僕に言われても」
ふたりの流暢な応酬を聞きながら、セトがいつのまにか食べ終わっていたことにハッとして、残り少ないカレーを胃に流し込んだ。急いで飲み込んだせいか尖ったスパイスの風味に喉が痛み、コップを手に取って水を飲む。すると、セトの視線が私に流れた。
「……辛かったか?」
ぶっきらぼうに、何かを尋ねた。目線からすると私に訊いたのだとは思うが、推測できず私は問いかけるようにティアへと視線を向けた。
「それ辛いか? って。からい。う~ん……ちょっと寝起きで伝え方が浮かばないや。パス」
ぽんっとセトの肩をティアが叩いた。
「は?」
「僕はお茶でも淹れよっと。アリスちゃんも、飲む?」
ティアがティーカップを傾ける仕草をした。お茶どう? これに類似するフレーズはそろそろジェスチャーなしでも聞き取れそう。
「はい」
「うん。セト君は?」
「俺は珈琲」
「え、それは自分で淹れてね?」
「前から思ってたけどよ、お前なんで紅茶専門なんだよ」
キッチンに向かったティアに続いて、セトも食器を持ち、立ち上がった。食べ終わっていた私の食器にもおもむろに手を伸ばし、一緒に片付けようとしている。
『これは私が……』
遠慮して食器を押さえたが、強制的に取りあげられた。せめてコップだけでもと思ったのに、大きな手で自身のと2つを難なく持ち、
「ついでだ」
「……アリガトウ」
感謝を述べると、変なものでも見るみたいな顔をされる。そういえば以前も、ありがとうと伝えたときに微妙な顔をされた。なにか間違った言い方をしているのだろうか。
戸惑う私から目をそらして、セトもキッチンへと行ってしまった。くすんだ金髪を見つめながら、
(何もしないほうが居心地がわるい……)
ひどく勝手なことを思い、ふたりが戻るのを静かに待っていた。
20
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる