23 / 228
Chap.2 ちいさなアリス
Chap.2 Sec.9
しおりを挟む
カプセル型のベッドは動くらしい。上下で動くのか、それとも浮遊して自由に動くのか知らないが、ティアに案内された彼のカプセルベッドは、昨日のセトと同じ位置にあった。
同じ位置にあったことで最初セトのかと思ったが、内部が違った。セトのベッドには寝具しかなかったのに対して、こちらは側面にあった溝にこまごまとした小物がならんでいる。見たことのない形状の物ばかりだけれど、ひょっとすると化粧品だろうか。ティアの爪はパールの入った水色がつややかに光っている。他の3人は私と同じ普通の爪だったから、マニキュアのような物を使っているのだと思う。
「なに見てるの? なにか面白いもの見つけた?」
するするとした感触のマットは同じ。ベッドのサイズが変化しても、マットは液状なのかスライムのように薄く広がって整う。
その上に座る私の背後で、上半身裸のティアが結んだばかりのワンピースの紐をほどいている。シャワーのあとに綺麗に編んでもらったけれど、こんなに早くほどかれるなら意味がなかったなと、漠然とした頭で思った。
緩んでいく服のすきまから、ティアの指が入り込んで素肌をなぞるように脱がされた。肩のあたりに彼の髪が掛かる。
「……こわい? 大丈夫?」
問いかけに首だけで振り返ると、肩越しに雪像のような顔と、そこにおさまった紫の宝石。おごそかで、非現実的な美しさ。
彼は言葉をかえているだけで、何度も同じことを訊いている気がする。
「……はい」
ここで首を振ったところで、やめてくれるのかどうか。知らない。昨夜のセトから学ぶなら、否定や拒絶は状況の悪化にしかつながらない。ただ、拒絶した私を見限ったように感じたセトでも、暴力はなかった。最後まで気遣われていた気もした。私はまだ、尊重されているほうなのかも知れない。
肯定した私に、ティアはほっとしたように頬をゆるめ、その唇を私の肩口に押し当てた。
「やわらかい肌だね?」
くすぐるようなティアの唇が、なにかを唱えた。吐息が当たる。すこし、熱い。
抱きしめるように回されたティアの腕が、全身をつつむ。重なった指先から体温が低いと感じていたが、こうやって触れ合うとちゃんと温かい。心臓が動いているのもわかる。生きている。あたりまえだけれど。
「震えてはいないね?」
私をそっとつつんだティアに、なにかを確かめられているような気がした。その体勢のまま、私の手を取り、指を絡める。ゆっくりと動くティアの指先を見つめていると、首筋や肩にひとつずつ、かすかなリップ音を鳴らして丁寧なキスが落とされた。
まるで恋人を慈しむかのような優しさに戸惑う。あいまに開く唇からは、配慮するような印象の声。この行為が一方的な消費ではなく、互いの好意のもとで成り立っていると感じてしまいそうで——こわい。いっそセトのように、無言のまま使ってくれたほうが、言い訳が成り立つ。
——私は、こんなこと、望んでいないのに。
「緊張してきた? ……大丈夫、痛いことはしないよ……?」
なめらかなバイオリンのような声音。囁いているだけなのに、脳をゆらして判断力を奪っていく。
細く長い指が私の手から離れたかと思うと、無防備にさらされていた胸にやわらかく重なった。先端に触れるか触れないかのところで、肌の上をそっとなでられる。指先が皮膚をかすめるようになぞるたび、ぞくぞくと未知の感覚が全身にひろがる。アルコールに侵されたときと同じ。脳がしびれていく。
——もどかしい。
心のどこかで、そう思ってしまう。
「ね、アリスちゃん。顔を見たいから、こっちにおいで」
マットの上に横になると、ティアも私の隣に横向きで寝た。向かい合う私たちを照らしていた灯りが少し暗くなり、薄い桃色に変わる。彼の肌が紅潮しているみたいに映る。
「……キスしたいな」
甘やかなティアの声。綺麗な顔が近づいたかと思うと、唇がそっと合わさった。触れるだけのキスが、熱い吐息だけ残して離れる。ビロードのようになめらかなその唇は、重なるだけでも心地よくて、離れがたいと思わせる。もう一度、戻ってきてほしい、と。そんな焦燥感にも似た欲に駆られてしまう。
「……可愛いね」
ふふっと笑みをこぼしたティアが、離れた距離を戻るように、再度キスをした。唇がこすれ合うだけのくちづけから、軽く食むようなくちづけも。浅いキスにまぎれて、私の身体をその指先でまたなぞっていく。
まるで、すこしでも力を入れたら崩れてしまうかのような触れ方。それなのに——いや、だからこそ、身体が熱くうずくのを感じる。
『んっ……』
つう、と。
背筋をつたう感触に、思わず声が出た。指先は、止まることなく、ゆっくりと太ももまで下りていく。
そうして、前に回ってきたかと思うと、そのまま、脚の付け根にそっと入り込んだ。
ぬるりと表面をすべる指に、そこが濡れていると知らされる。
『んっ……ふ、ぁ……んん』
もれる吐息を飲み込むように、くちづけが深くなった。熱い舌が絡まる。
指先が繊細な動きで、濡れたそこを何度も往復する。それが敏感な芽に当たるたび、身体がひくっと、震えた。
溶けるように絡みついていた薄い舌が離れる。ティアの息が荒い。もしかすると、私の呼吸のほうが乱れているのかもしれない。
間近にせまった紫の宝石が、とろりと潤んでいる。
「ね、……僕のも触って」
吐息まじりに、ティアは切なそうな声をこぼした。空いているほうの手で、私の手を彼自身の下半身に引き寄せる。熱いものが、掌に当たる。なにを求められているのか、分からないわけではない。
ためらうよりも前に、ティアが、私を翻弄しているほうの手を止めて、
「……触ってくれないと、やめちゃうよ?」
うるわしい顔が形づくる、魅惑的な微笑み。
魔性とは——こういうことをいうのか。
理性が、あっさりと崩れ落ちていく。
「ん……いいこだね」
掌でつつんだ熱を、どうすればいいのか。本当の正解はわからない。
ただ、自分がされたことと同じように、重ねたままゆるゆると上下に動かした。私と違って潤滑を促すものがないせいか、動きがひどくぎこちない。
誘導するように、上から重なったティアの手に力が入る。
「こうやって……んっ、そう……上手」
日中よくかけられた褒め言葉が、まるで別の言葉のように艶かしい。息も、声も、唇も。すべてが熱を帯びて誘惑する。
このひとは、こんなにも蠱惑的なことを、自覚しているのだろうか。
「……また何か、余計なこと考えてる……? ダメだよ。ほら、僕の指に集中して」
ぬる、と。ティアの指が私のなかに沈んだ。ほんの、わずか。関節ひとつ分ほどの指が、うごめく。
それだけで、思考が奪われる。
「手は、そう……そのまま、止めないでね……」
また、唇が重なった。とろける頭では、舌と指のどちらがどう動いているのか、もう分からない。くちゅ、くちゅ、と。卑猥な音がしつこく鳴っている。掌の中でいっそう大きくなるティアもまた、先端が濡れていた。
キスのあいまに奏でられる嬌声は、どちらのものか。
「はぁ……まずいな。……ね、でちゃいそうなんだけど……だしてもいい?」
離れた唇が、濡れた宝石の下で何かを懇願している。
「……いいよね? ……あとで、君も気持ちよくしてあげるから……」
なだめるように、何かをつぶやいた。
私の掌ごと自身のそれを握ると、力を加えて上下に動かし、ぞくりとするほど美しく切ない顔が——艶やかな欲望に染まる。
その一瞬は、すべてを忘れて見惚れるほどだった。
同じ位置にあったことで最初セトのかと思ったが、内部が違った。セトのベッドには寝具しかなかったのに対して、こちらは側面にあった溝にこまごまとした小物がならんでいる。見たことのない形状の物ばかりだけれど、ひょっとすると化粧品だろうか。ティアの爪はパールの入った水色がつややかに光っている。他の3人は私と同じ普通の爪だったから、マニキュアのような物を使っているのだと思う。
「なに見てるの? なにか面白いもの見つけた?」
するするとした感触のマットは同じ。ベッドのサイズが変化しても、マットは液状なのかスライムのように薄く広がって整う。
その上に座る私の背後で、上半身裸のティアが結んだばかりのワンピースの紐をほどいている。シャワーのあとに綺麗に編んでもらったけれど、こんなに早くほどかれるなら意味がなかったなと、漠然とした頭で思った。
緩んでいく服のすきまから、ティアの指が入り込んで素肌をなぞるように脱がされた。肩のあたりに彼の髪が掛かる。
「……こわい? 大丈夫?」
問いかけに首だけで振り返ると、肩越しに雪像のような顔と、そこにおさまった紫の宝石。おごそかで、非現実的な美しさ。
彼は言葉をかえているだけで、何度も同じことを訊いている気がする。
「……はい」
ここで首を振ったところで、やめてくれるのかどうか。知らない。昨夜のセトから学ぶなら、否定や拒絶は状況の悪化にしかつながらない。ただ、拒絶した私を見限ったように感じたセトでも、暴力はなかった。最後まで気遣われていた気もした。私はまだ、尊重されているほうなのかも知れない。
肯定した私に、ティアはほっとしたように頬をゆるめ、その唇を私の肩口に押し当てた。
「やわらかい肌だね?」
くすぐるようなティアの唇が、なにかを唱えた。吐息が当たる。すこし、熱い。
抱きしめるように回されたティアの腕が、全身をつつむ。重なった指先から体温が低いと感じていたが、こうやって触れ合うとちゃんと温かい。心臓が動いているのもわかる。生きている。あたりまえだけれど。
「震えてはいないね?」
私をそっとつつんだティアに、なにかを確かめられているような気がした。その体勢のまま、私の手を取り、指を絡める。ゆっくりと動くティアの指先を見つめていると、首筋や肩にひとつずつ、かすかなリップ音を鳴らして丁寧なキスが落とされた。
まるで恋人を慈しむかのような優しさに戸惑う。あいまに開く唇からは、配慮するような印象の声。この行為が一方的な消費ではなく、互いの好意のもとで成り立っていると感じてしまいそうで——こわい。いっそセトのように、無言のまま使ってくれたほうが、言い訳が成り立つ。
——私は、こんなこと、望んでいないのに。
「緊張してきた? ……大丈夫、痛いことはしないよ……?」
なめらかなバイオリンのような声音。囁いているだけなのに、脳をゆらして判断力を奪っていく。
細く長い指が私の手から離れたかと思うと、無防備にさらされていた胸にやわらかく重なった。先端に触れるか触れないかのところで、肌の上をそっとなでられる。指先が皮膚をかすめるようになぞるたび、ぞくぞくと未知の感覚が全身にひろがる。アルコールに侵されたときと同じ。脳がしびれていく。
——もどかしい。
心のどこかで、そう思ってしまう。
「ね、アリスちゃん。顔を見たいから、こっちにおいで」
マットの上に横になると、ティアも私の隣に横向きで寝た。向かい合う私たちを照らしていた灯りが少し暗くなり、薄い桃色に変わる。彼の肌が紅潮しているみたいに映る。
「……キスしたいな」
甘やかなティアの声。綺麗な顔が近づいたかと思うと、唇がそっと合わさった。触れるだけのキスが、熱い吐息だけ残して離れる。ビロードのようになめらかなその唇は、重なるだけでも心地よくて、離れがたいと思わせる。もう一度、戻ってきてほしい、と。そんな焦燥感にも似た欲に駆られてしまう。
「……可愛いね」
ふふっと笑みをこぼしたティアが、離れた距離を戻るように、再度キスをした。唇がこすれ合うだけのくちづけから、軽く食むようなくちづけも。浅いキスにまぎれて、私の身体をその指先でまたなぞっていく。
まるで、すこしでも力を入れたら崩れてしまうかのような触れ方。それなのに——いや、だからこそ、身体が熱くうずくのを感じる。
『んっ……』
つう、と。
背筋をつたう感触に、思わず声が出た。指先は、止まることなく、ゆっくりと太ももまで下りていく。
そうして、前に回ってきたかと思うと、そのまま、脚の付け根にそっと入り込んだ。
ぬるりと表面をすべる指に、そこが濡れていると知らされる。
『んっ……ふ、ぁ……んん』
もれる吐息を飲み込むように、くちづけが深くなった。熱い舌が絡まる。
指先が繊細な動きで、濡れたそこを何度も往復する。それが敏感な芽に当たるたび、身体がひくっと、震えた。
溶けるように絡みついていた薄い舌が離れる。ティアの息が荒い。もしかすると、私の呼吸のほうが乱れているのかもしれない。
間近にせまった紫の宝石が、とろりと潤んでいる。
「ね、……僕のも触って」
吐息まじりに、ティアは切なそうな声をこぼした。空いているほうの手で、私の手を彼自身の下半身に引き寄せる。熱いものが、掌に当たる。なにを求められているのか、分からないわけではない。
ためらうよりも前に、ティアが、私を翻弄しているほうの手を止めて、
「……触ってくれないと、やめちゃうよ?」
うるわしい顔が形づくる、魅惑的な微笑み。
魔性とは——こういうことをいうのか。
理性が、あっさりと崩れ落ちていく。
「ん……いいこだね」
掌でつつんだ熱を、どうすればいいのか。本当の正解はわからない。
ただ、自分がされたことと同じように、重ねたままゆるゆると上下に動かした。私と違って潤滑を促すものがないせいか、動きがひどくぎこちない。
誘導するように、上から重なったティアの手に力が入る。
「こうやって……んっ、そう……上手」
日中よくかけられた褒め言葉が、まるで別の言葉のように艶かしい。息も、声も、唇も。すべてが熱を帯びて誘惑する。
このひとは、こんなにも蠱惑的なことを、自覚しているのだろうか。
「……また何か、余計なこと考えてる……? ダメだよ。ほら、僕の指に集中して」
ぬる、と。ティアの指が私のなかに沈んだ。ほんの、わずか。関節ひとつ分ほどの指が、うごめく。
それだけで、思考が奪われる。
「手は、そう……そのまま、止めないでね……」
また、唇が重なった。とろける頭では、舌と指のどちらがどう動いているのか、もう分からない。くちゅ、くちゅ、と。卑猥な音がしつこく鳴っている。掌の中でいっそう大きくなるティアもまた、先端が濡れていた。
キスのあいまに奏でられる嬌声は、どちらのものか。
「はぁ……まずいな。……ね、でちゃいそうなんだけど……だしてもいい?」
離れた唇が、濡れた宝石の下で何かを懇願している。
「……いいよね? ……あとで、君も気持ちよくしてあげるから……」
なだめるように、何かをつぶやいた。
私の掌ごと自身のそれを握ると、力を加えて上下に動かし、ぞくりとするほど美しく切ない顔が——艶やかな欲望に染まる。
その一瞬は、すべてを忘れて見惚れるほどだった。
20
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる