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ep.2 プリンセス・シンドローム
Looking-Glass flamingo 4
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ライブ演奏って短い。今まで思ってなかったけど、2曲って少ない。短すぎる。もっと演奏してくれていいのに。全体の時間が足りないなら、ほかのバンドは削っても……それは、可哀想かな。だいぶ自分勝手な考えになってる。
ステージから少しだけ離れて、次のバンドをひとり惰性で聴いていた。ジゼルは「セトのとこ行ってくる」早々にいなくなったけど、消えるのはいつものことなので気にならない。どこかの空き部屋で遊んでる。
この時間になってくると、相手を見つけて外に出て行くひともいるから、フロアの人混みが緩和する。ただ、ソファやイスが空き始めるかというと、そうでもない。酔ってつぶれてるコも多い。ここの規制も、ゆるゆる。重い犯罪に繋がる場合はさすがにロボが反応すると思うけど……偽の身分証明が通ってしまう程度のセキュリティなので、微妙なところ。
音楽を片耳に、(あのコ大丈夫かな……?)ソファで半分意識を失ってるコがナンパっぽいひとに話しかけられてるのを見てると、いきなり私の後ろから長い手が伸びてきて、ぐっと——片手で抱きしめるみたいに身体を捕まえられた。油断してたのもあって、ビクッと身体を固くして振りあおいでから——「あっ」目に入った白い髪とその下の顔に、心臓が跳ねた。
「見っけ」
ニカっと笑う口が、嬉しそうに唱える。さっきまで歌ってた唇から、赤い舌先がちらりとのぞいた。
「カシちゃんさ、移動しすぎじゃん? フロア暗いし、オレ別に目ェよくないんだから……捜すオレのことも考えてよ」
「えっ……私のこと、捜してた……の?」
「捜してたよ、ずーっと。セトがいつも、オレ捜すの怠ィって言ってるけど、たしかに? これはめんどいかもね」
高い声でけらけら笑う顔はとても楽しそうで、ドラムくんに対して悪いなぁって感じは全然ない。
私のほうは緊張で頭がしっかり動いてない。会話が始まってるけど、うまく返せてる? ……いま、私を捜してたって……ほんとに言った?
「もしかして……ステージの上でも? 私のこと捜してくれた?」
「何言ってンの? オレずっとアンタのこと見てたじゃん」
「……あれってほんとに目が合ってたんだ……?」
「えェ? マジで言ってる? 目ェ合ったとき笑ってくれたのに?」
「…………?」
(笑った……? あ、言われると、ジゼルの眼力に笑ってたかも……?)
彼は信じられないものを見る目で、
「……すっげェ見てくれてると思ったのに? オレの勘違いなワケ?」
「え……っと、私も、見てはいたよ……?」
「オレが見てたの、気づいてないじゃん。そんなの全然見てないじゃん」
「……え? そんなこと……ないんだけど……」
「うーわ最悪。恥ずすぎて死ねる……」
これって会話かみ合ってる? 腕のなかにいるのも相まって、戸惑いでいっぱいになってると、彼は反対の手で自分の顔を覆った。隙間から見える頬が赤い気がする。こんなひとでも照れたりするんだ。
「あのっ……ほんとに私、見てたよ? ……でも、そっちも私のこと見てるなんて、思わないってゆうか……ありえないってゆうか……」
「なんで? オレ見つけるって言ったじゃん」
「あれは……だって……」
——本気にしたら、だめなやつでしょ?
思うだけで、言えなかった。
「まァいーよ、いちおう見てたってことで。壁のとこ捜しても全然いねェし、ムカついてたンだけど……前のほう、来てくれたんだ?」
「……いつも、前のほうで聴いてるから……」
「マジで? ならオレのファンじゃん」
「えっ?」
「……違うの?」
「……あーうん、そうかも?」
「や、違うよな? ……ほんとは誰のファン?」
「誰って言われると……うーん……ドラムくん見るために前に行ってたから、いちおうドラムくんのファンに……なるのかなぁ?」
「セトってこと? へェ~?」
目を合わせてるのが気持ち的に難しくて、視点をそこらじゅうに向ける。こっちを見てるコたちがいた。これって、周りからしたらどう見られてるんだろ。変な誤解を生みそう。
「あの……腕、離さない?」
「なんで?」
「……みんな、見てるし……」
「そ? じゃ、あっち行こーよ」
「……え?」
「……誰も見てなかったら、なんでもしていーってことじゃねェの?」
「えぇっ?」
普通に考えて、その発想はない。
「違うよっ……あのね、気を悪くしないでほしいんだけど……あんまり、からかわないでほしい、かな……。私、こういうの慣れてないから、うまく流せないし……周りにも、勘違いされるよ?」
「どう勘違いされンの?」
「……私のこと、気に入ってるみたいに見えちゃうかも……?」
「それは合ってるじゃん」
「……え?」
「周りに見られるのがヤなら、ふたりきりになれるとこ、行こーよ」
バンドの演奏が終わった。甘えるみたいな声が、とびきり印象的に響き、まともな判断力を崩してく。
まとも——なんてものは、はじめから無かったのかも。
裏切られる覚悟は、いつだってもってる。
傷つかないための予防線だって、いっぱい張ってるから……だから、いいよね? 平気だよね?
頭の奥のほうで、警報みたいにジゼルの目が見えた気がしたけど、知らないふりをした。
もし、罰ゲームだとしても。
この夢みたいな時間が続くなら——なんだっていいよ。
ステージから少しだけ離れて、次のバンドをひとり惰性で聴いていた。ジゼルは「セトのとこ行ってくる」早々にいなくなったけど、消えるのはいつものことなので気にならない。どこかの空き部屋で遊んでる。
この時間になってくると、相手を見つけて外に出て行くひともいるから、フロアの人混みが緩和する。ただ、ソファやイスが空き始めるかというと、そうでもない。酔ってつぶれてるコも多い。ここの規制も、ゆるゆる。重い犯罪に繋がる場合はさすがにロボが反応すると思うけど……偽の身分証明が通ってしまう程度のセキュリティなので、微妙なところ。
音楽を片耳に、(あのコ大丈夫かな……?)ソファで半分意識を失ってるコがナンパっぽいひとに話しかけられてるのを見てると、いきなり私の後ろから長い手が伸びてきて、ぐっと——片手で抱きしめるみたいに身体を捕まえられた。油断してたのもあって、ビクッと身体を固くして振りあおいでから——「あっ」目に入った白い髪とその下の顔に、心臓が跳ねた。
「見っけ」
ニカっと笑う口が、嬉しそうに唱える。さっきまで歌ってた唇から、赤い舌先がちらりとのぞいた。
「カシちゃんさ、移動しすぎじゃん? フロア暗いし、オレ別に目ェよくないんだから……捜すオレのことも考えてよ」
「えっ……私のこと、捜してた……の?」
「捜してたよ、ずーっと。セトがいつも、オレ捜すの怠ィって言ってるけど、たしかに? これはめんどいかもね」
高い声でけらけら笑う顔はとても楽しそうで、ドラムくんに対して悪いなぁって感じは全然ない。
私のほうは緊張で頭がしっかり動いてない。会話が始まってるけど、うまく返せてる? ……いま、私を捜してたって……ほんとに言った?
「もしかして……ステージの上でも? 私のこと捜してくれた?」
「何言ってンの? オレずっとアンタのこと見てたじゃん」
「……あれってほんとに目が合ってたんだ……?」
「えェ? マジで言ってる? 目ェ合ったとき笑ってくれたのに?」
「…………?」
(笑った……? あ、言われると、ジゼルの眼力に笑ってたかも……?)
彼は信じられないものを見る目で、
「……すっげェ見てくれてると思ったのに? オレの勘違いなワケ?」
「え……っと、私も、見てはいたよ……?」
「オレが見てたの、気づいてないじゃん。そんなの全然見てないじゃん」
「……え? そんなこと……ないんだけど……」
「うーわ最悪。恥ずすぎて死ねる……」
これって会話かみ合ってる? 腕のなかにいるのも相まって、戸惑いでいっぱいになってると、彼は反対の手で自分の顔を覆った。隙間から見える頬が赤い気がする。こんなひとでも照れたりするんだ。
「あのっ……ほんとに私、見てたよ? ……でも、そっちも私のこと見てるなんて、思わないってゆうか……ありえないってゆうか……」
「なんで? オレ見つけるって言ったじゃん」
「あれは……だって……」
——本気にしたら、だめなやつでしょ?
思うだけで、言えなかった。
「まァいーよ、いちおう見てたってことで。壁のとこ捜しても全然いねェし、ムカついてたンだけど……前のほう、来てくれたんだ?」
「……いつも、前のほうで聴いてるから……」
「マジで? ならオレのファンじゃん」
「えっ?」
「……違うの?」
「……あーうん、そうかも?」
「や、違うよな? ……ほんとは誰のファン?」
「誰って言われると……うーん……ドラムくん見るために前に行ってたから、いちおうドラムくんのファンに……なるのかなぁ?」
「セトってこと? へェ~?」
目を合わせてるのが気持ち的に難しくて、視点をそこらじゅうに向ける。こっちを見てるコたちがいた。これって、周りからしたらどう見られてるんだろ。変な誤解を生みそう。
「あの……腕、離さない?」
「なんで?」
「……みんな、見てるし……」
「そ? じゃ、あっち行こーよ」
「……え?」
「……誰も見てなかったら、なんでもしていーってことじゃねェの?」
「えぇっ?」
普通に考えて、その発想はない。
「違うよっ……あのね、気を悪くしないでほしいんだけど……あんまり、からかわないでほしい、かな……。私、こういうの慣れてないから、うまく流せないし……周りにも、勘違いされるよ?」
「どう勘違いされンの?」
「……私のこと、気に入ってるみたいに見えちゃうかも……?」
「それは合ってるじゃん」
「……え?」
「周りに見られるのがヤなら、ふたりきりになれるとこ、行こーよ」
バンドの演奏が終わった。甘えるみたいな声が、とびきり印象的に響き、まともな判断力を崩してく。
まとも——なんてものは、はじめから無かったのかも。
裏切られる覚悟は、いつだってもってる。
傷つかないための予防線だって、いっぱい張ってるから……だから、いいよね? 平気だよね?
頭の奥のほうで、警報みたいにジゼルの目が見えた気がしたけど、知らないふりをした。
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