【完結】転生王女はラストチャンスを華麗にクリアしたい

たおたお

文字の大きさ
上 下
41 / 47

41.さよならは言わない

しおりを挟む
 バーバラの罪状が決まってからしばらくして、私とレオとカーラ、それにユージーンはラッシュブルックの東側にある港町にいた。ここは前の扉の中でエマとユージーンが付き合っている時に来ていた場所だ。私たちの対面にはバーバラが立っていて手には大きなトランク。そしてその背後には今から航海に出る大きな客船。船の行き先はラッシュブルックと海を挟んだ場所にある交易国だ。

「どうしても行ってしまうの、姉さん?」
「ごめんね、カーラ。やっぱり私は一度皆の元を離れて自分を見つめ直す必要があると思うの。イグレシアスの王……叔父様が最大限の恩情を掛けてくださったのも、きっとそうするためだと思うから」
「姉さん……」

 最後まで一緒に暮らすことを望んでいたカーラだけど、堪えきれなくなったのかバーバラに駆け寄って抱き付き、泣き始めてしまった。

「絶対に戻ってきて!」
「ええ、約束するわ。ほら、もう泣き止んで。ユージーン王子の前よ」
「うん……」

 カーラの頭を撫でながら諭す彼女は穏やかな表情で、もうイグレシアス王家に対する恨みはない……と信じたい。

「ユージーン王子、今後とも妹を宜しくお願い致します」
「ああ」
「姫様、わざわざ見送りにまで来て頂いて……」

 恐縮している彼女に近づき無言でハグすると、少し驚きながら彼女も応じてくれた。手を握るとそれはバーバラの手で、企みはあったとは言えずっと私の傍にいてくれた人の手だった。エマの記憶を辿りつつ、懐かしさが込み上げてくる。

「バーバラ……いえ、アマンダお姉様、私たちもあなたが戻ってくるのを待っています。だから、さよならは言いません。お元気で」
「有り難うございます、姫様」

 もうメイドではないのだから『エマ』と呼んでと言うと、照れくさそうに

「有り難う、エマ」

と、言い直したアマンダお姉様。お姉様……いいな、『お姉様』。前世では兄弟・姉妹がいなかったから、お姉ちゃんや妹にはちょっと憧れがあった。カーラもお姉さんではあるんだけど、ずっとアカデミーで一緒に過ごしてきたから友達って感じなのよね。

 ボォーーッ! と船の出港を知らせる合図。アマンダお姉様はトランクを持つと、スッと背を向けて船に乗り込んでいく。それを見計らった様に私たちの背後から男性が歩いてきて、ちらっと私を見てから船に乗り込んでいった。彼はそう、イグレシアスの諜報部にいた、当初色々と調査をお願いした男性だ。ここに来る際、イグレシアスを発つ前に彼は私の部屋に挨拶に来たんだ。

「姫様、私はこの度、イグレシアスを離れることになりましたのでご挨拶に」
「そうなの? 他国での任務かしら?」
「はい。ラッシュブルックの先にある某国に赴くこととなりました」

 それを聞いてピンとくる。バーバラの行き先と同じだ。しかし、バーバラがラッシュブルックを離れることは誰にも言ってないはずなんだけど。

「まさかバーバラを消そうと!?」
「いえ、そんな物騒な。王家に準ずるお方ですので、守ることはあっても害することはありません」

 どうやら諜報部はバーバラの能力、暗示のイーサクルに目を付けた様だ。他国での諜報活動には有効な能力ですものね。

「使えるものは王族でも使うってことかしら?」
「もちろん、アマンダ様のご意志を尊重致します。そして可能であれば姫様の許可を頂きたいと」
「分かったわ。じゃあ、これを持っていって。これを見せれば、あなたが本当にイグレシアスの諜報部の人だって分かるでしょうから」

 王宮にいる時に良く付けていたイヤリング。シンプルなデザインだけどエマが昔から良く付けているもので、王都の宝石店でオーダーメイドしたもの。着替えの際はバーバラが用意してくれていたから、彼女も見慣れたものだろう。

「これをバーバラ……いえ、アマンダお姉様に片方だけ差し上げるわ。もう片方はお姉様が戻られてからお渡しすると伝えてちょうだい」
「はっ、かしこまりました」

 諜報部員の男性はなかなかのイケメンで、しかも未婚らしい。まあ、お姉様と結婚するかどうかは分からないけれど、彼は優秀だから少なくともお姉様を守ってはくれることだろう。

 出向して水平線の彼方へ去りゆく船を四人で暫く見送っていた。カーラはユージーンに寄りかかっていて、ユージーンは彼女の肩なんか抱いちゃったりしてる。もう、早く結婚しちゃえよ! 一方の私はいつもの町娘スタイルでレオも同じ。私の視線に気がついたのか、ユージーンがちょっと恥ずかしそうにしている。

「な、何だよ」
「いーえ、二人はラブラブだなあと思って」
「!! べ、別にいいだろう! つ、付き合ってるんだし」

 そう、カーラがイグレシアスの王族と分かってユージーンも踏ん切りが付いたのか、程なく正式に交際を申し込んだらしい。ってことはもう婚約者じゃん。

「お前はどうなんだよ! ……って、なんでそんな格好なんだ? ずっと聞こうと思ってたんだけど」
「だって、イグレシアスの王女がこんな所をウロウロしてたら、それはそれで目立っちゃうでしょう。ラブラブなあなたたちだけでも結構目立ってるのに」
「もう! エマの意地悪!」

と、言いながらもしっかりユージーンに寄り添っているカーラ。からかってはいるけど、二人はお似合いよ、うんうん。末永くお幸せにって思ってるんだから。

「お前もレオと付き合えばいいじゃないか。離宮でお前が飛び降りた時、レオに抱きしめられてただろう?」
「おい! こっちに話を振るんじゃねーよ!」

 そう言えば抱きしめられてたな。現状、レオに対して恋愛感情は薄いんだけどエマの幼馴染だし、付き合えばカーラとユージーンの様になるかもなあ。

「じゃあ、付き合ってみましょうか、レオ!」
「ば、バカ言ってんじゃねーよ! 俺はお前の護衛なの! あの時はその……気が動転してたんだよ!」
「えーっ、いいじゃない。私と結婚すれば将来の王配よ、王配!」
「うるさい! ほら、もう行くぞ!」

 照れ隠しなのか、スタスタと先を歩いていってしまうレオ。おいおい、いきなり護衛の仕事忘れてないかい? 呆れている私を見ながらカーラとユージーンはクスクスと笑っていた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

処理中です...