25 / 47
25.作りたいもの
しおりを挟む
責任者の男性に案内されて工房へ。金属を溶かして加工しているだろうから町工場の鉄工所みたいな雰囲気を想像してたんだけど、全然違っていた。熱気はあるものの、職人たちが机に向かって大きめのスプレーペンみたいなものを持って作業している。
「あの手に持っているものは?」
「イーサグラムを組み込んだ器具でございます」
なるほど、ペンと言うよりグルーガンみたいなものね。そんなに大きくないイーサグラムのプレートの場合、ああやってイーサを通しやすい物質をプレート上の溝に流し込んで作るんだとか。グルーガンみたいなものは鉄を柔らかくして加工するイーサグラムが仕込んであって、溶かす事なく流し込めるらしい。そんなイーサラムあるの!?
「もっと大きなプレートの場合はどうされるのですか?」
「それは奥の工房ですがご覧になりますか? 少々熱いですが」
「ええ、是非」
そうそう、私が期待していたのはそっちよ! 更に奥に行くと雰囲気がガラリと変わり、期待通りの光景が。ここでは炉を使って金属を溶かし、それを型に流してイーサグラムの模様部分を作るらしい。
「模様だけを?」
「はい。プレートに使う金属は線部よりも融点が低いものばかりで。鉄の場合は先程の様に柔らかくして流し込めるのですが、ミスリルとなると柔らかくするイーサラムがございませんので、溶かして型に入れるのです」
なるほどなあ。模様だけを先に鋳造してプレートに嵌め込むって分けね。それであんなに線が太めだったわけだ。でも歩留まりは悪そうだなあ。しかしこれで大体の課題は見えたし、私が前世の知識から想像していた方法を試せば小型化もできるかも知れないわ。
一通り見学を終えて再び応接室へ。
「いかがだったでしょうか? ご満足頂けましたか?」
「ええ、それはもう。我が国の技術力の高さを実感致しました」
「それはようございました。今後も技術の向上に邁進してまいります」
「期待しておりますわ。ところで、いくつか作って頂きたいものがあるのですが」
「何なりと」
メモを取り出し欲しい物を説明すると、流石に驚いた様子の男性。しばらく待つように言い残して部屋を出ていき、戻ってくるといかにも職人風の男性と一緒だった。コソコソと職人に説明する。
「嬢ちゃん……いや、姫様、こんなもので一体何を?」
「少し思いついたことがありまして、やってみようかと」
「そうですかい。鉄でならある程度細いものは作ったことはありやすが、ミスリルとなると……しばらく時間を頂きやすが宜しいですかい」
「ええ。残りのものはどうかしら?」
「残りのものはまあ、問題なくできると思いやす」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
よし! これで第一段階はクリアだわ。上手く行ったらイーサグラム界に革新が起こるんだからね。特許取りたいぐらいだわ。
責任者と職人の男性に礼を言って応接室を出て、最後に店員の女性にももう一度声を掛ける。店員の間で既に話が広まっているのか、店員たちが妙にざわついていたわね。
「あんなもの、何に使うんだ?」
「研究よ、研究。レオも馬車にくっついてる浮遊移動体を知ってるでしょう?」
「あのゴツい円盤みたいなの? 革新的だとは思うけど、イーサ効率が悪いから大変だって御者がボヤいてたぜ」
「そうよね。王族や貴族の見栄だけで乗ってる様な乗り物だもの。でも、あれがもっと小さくなったらどう? 人が一人乗れるぐらいの……そうね、そういう板状のものがあって移動できたら」
「そんなもの、作れるのか!? そりゃまあ、短距離移動なら楽そうだよな」
「でしょ? 城だって結構広いし、見回りに歩き回るのも大変そうだもの。鎧も重そうだし」
私の頭の中にあるのは『宙に浮いてるスケートボード』の様なもの。かの有名なフューチャーにバックする映画にでてきたあれよ! エマの記憶を辿ってあの浮遊移動体を知った時にビビッと来たのよ。前世ではオタクだったけど運動が嫌いだったわけじゃない。小学生の時は一時スケボーにハマってたし、高校、大学の時は家族や友達とスキー場に行ってスノボで滑ってた。王女の姿で流石にスケボーはマズイかも知れないけど、その場合はハンドルを付けて電動キックボード的な感じでもいい。とにかく、浮いてるボードに乗ってみたい!
そうなると問題は小型化。ボード自体は作れるだろうけど、問題はデカいイーサグラムのプレートを如何に小さくするか。そこで思いついたのが前世のプリント基板。個人で回路を組む時はユニバーサル基板を買ってきてはんだ付けしたりするけど、あんな感じで小型化できないかと思ったわけ。その為には銅線に相当する、イーサを通す金属線が必要になる。どこまで細くできるか分からないけれど、曲げてプレートに貼り付けられればまずは問題ない。
「それ、俺も乗れるかな!?」
「もちろん。レオやレジナルドなら運動神経もいいでしょうし、直ぐに乗れる様になると思うわよ。本当は雪山を滑ったりするものなんだけどね」
「雪山って……エマはいつ滑ったんだ?」
「はっ! ほ、本で読んだのよ!」
危ない、危ない。そうだ、イグレシアスにも雪山はあるけど王族はまず行かないし、ましてやボードに乗って斜面を滑走したりはしない。どうやらスキーに似たものはあるみたいだけど、遊びで使うと言うより生活用具らしいし。
とにかくこれで計画は進められそう。この世界でやるべきは死を回避して破滅ルートから脱却することだけど、これぐらいの楽しみがあってもバチは当たらないわよね?
「あの手に持っているものは?」
「イーサグラムを組み込んだ器具でございます」
なるほど、ペンと言うよりグルーガンみたいなものね。そんなに大きくないイーサグラムのプレートの場合、ああやってイーサを通しやすい物質をプレート上の溝に流し込んで作るんだとか。グルーガンみたいなものは鉄を柔らかくして加工するイーサグラムが仕込んであって、溶かす事なく流し込めるらしい。そんなイーサラムあるの!?
「もっと大きなプレートの場合はどうされるのですか?」
「それは奥の工房ですがご覧になりますか? 少々熱いですが」
「ええ、是非」
そうそう、私が期待していたのはそっちよ! 更に奥に行くと雰囲気がガラリと変わり、期待通りの光景が。ここでは炉を使って金属を溶かし、それを型に流してイーサグラムの模様部分を作るらしい。
「模様だけを?」
「はい。プレートに使う金属は線部よりも融点が低いものばかりで。鉄の場合は先程の様に柔らかくして流し込めるのですが、ミスリルとなると柔らかくするイーサラムがございませんので、溶かして型に入れるのです」
なるほどなあ。模様だけを先に鋳造してプレートに嵌め込むって分けね。それであんなに線が太めだったわけだ。でも歩留まりは悪そうだなあ。しかしこれで大体の課題は見えたし、私が前世の知識から想像していた方法を試せば小型化もできるかも知れないわ。
一通り見学を終えて再び応接室へ。
「いかがだったでしょうか? ご満足頂けましたか?」
「ええ、それはもう。我が国の技術力の高さを実感致しました」
「それはようございました。今後も技術の向上に邁進してまいります」
「期待しておりますわ。ところで、いくつか作って頂きたいものがあるのですが」
「何なりと」
メモを取り出し欲しい物を説明すると、流石に驚いた様子の男性。しばらく待つように言い残して部屋を出ていき、戻ってくるといかにも職人風の男性と一緒だった。コソコソと職人に説明する。
「嬢ちゃん……いや、姫様、こんなもので一体何を?」
「少し思いついたことがありまして、やってみようかと」
「そうですかい。鉄でならある程度細いものは作ったことはありやすが、ミスリルとなると……しばらく時間を頂きやすが宜しいですかい」
「ええ。残りのものはどうかしら?」
「残りのものはまあ、問題なくできると思いやす」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
よし! これで第一段階はクリアだわ。上手く行ったらイーサグラム界に革新が起こるんだからね。特許取りたいぐらいだわ。
責任者と職人の男性に礼を言って応接室を出て、最後に店員の女性にももう一度声を掛ける。店員の間で既に話が広まっているのか、店員たちが妙にざわついていたわね。
「あんなもの、何に使うんだ?」
「研究よ、研究。レオも馬車にくっついてる浮遊移動体を知ってるでしょう?」
「あのゴツい円盤みたいなの? 革新的だとは思うけど、イーサ効率が悪いから大変だって御者がボヤいてたぜ」
「そうよね。王族や貴族の見栄だけで乗ってる様な乗り物だもの。でも、あれがもっと小さくなったらどう? 人が一人乗れるぐらいの……そうね、そういう板状のものがあって移動できたら」
「そんなもの、作れるのか!? そりゃまあ、短距離移動なら楽そうだよな」
「でしょ? 城だって結構広いし、見回りに歩き回るのも大変そうだもの。鎧も重そうだし」
私の頭の中にあるのは『宙に浮いてるスケートボード』の様なもの。かの有名なフューチャーにバックする映画にでてきたあれよ! エマの記憶を辿ってあの浮遊移動体を知った時にビビッと来たのよ。前世ではオタクだったけど運動が嫌いだったわけじゃない。小学生の時は一時スケボーにハマってたし、高校、大学の時は家族や友達とスキー場に行ってスノボで滑ってた。王女の姿で流石にスケボーはマズイかも知れないけど、その場合はハンドルを付けて電動キックボード的な感じでもいい。とにかく、浮いてるボードに乗ってみたい!
そうなると問題は小型化。ボード自体は作れるだろうけど、問題はデカいイーサグラムのプレートを如何に小さくするか。そこで思いついたのが前世のプリント基板。個人で回路を組む時はユニバーサル基板を買ってきてはんだ付けしたりするけど、あんな感じで小型化できないかと思ったわけ。その為には銅線に相当する、イーサを通す金属線が必要になる。どこまで細くできるか分からないけれど、曲げてプレートに貼り付けられればまずは問題ない。
「それ、俺も乗れるかな!?」
「もちろん。レオやレジナルドなら運動神経もいいでしょうし、直ぐに乗れる様になると思うわよ。本当は雪山を滑ったりするものなんだけどね」
「雪山って……エマはいつ滑ったんだ?」
「はっ! ほ、本で読んだのよ!」
危ない、危ない。そうだ、イグレシアスにも雪山はあるけど王族はまず行かないし、ましてやボードに乗って斜面を滑走したりはしない。どうやらスキーに似たものはあるみたいだけど、遊びで使うと言うより生活用具らしいし。
とにかくこれで計画は進められそう。この世界でやるべきは死を回避して破滅ルートから脱却することだけど、これぐらいの楽しみがあってもバチは当たらないわよね?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
腹黒王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる