【完結】転生王女はラストチャンスを華麗にクリアしたい

たおたお

文字の大きさ
上 下
18 / 47

18.入学

しおりを挟む
 また数日後。アステルはヴェラの見舞いに病院へ足を運んだ。アステルが調合した薬がヴェラの体に合ったようで彼女の容態は少しずつではあるが確実に回復しているそうだ。どこか不安な気持ちを抱えながらアステルは静かに病室の前に立ち、護衛の騎士が見守る中、深呼吸を一つ。そしてドアをノックした。

「失礼します」

 柔らかな声で告げながらドアがゆっくりと開き、アステルはそのまま中へと入る。
 ヴェラはベッドに横たわり、しばらく目を閉じたままでいたがアステルが足音を立てずに近づくと、ゆっくりと目を開けた。
 その瞬間、アステルの中で小さな驚きが駆け巡る。ヴェラの目には、以前感じた冷徹なものとは違う、それは感情が宿っているような、少し弱さを含んだ輝きが見えたからだ。

「……あ……あなたは……」

 ヴェラがかすれた声で呟く。アステルは思わずその声に耳を傾けると、微笑みを浮かべて、優しく答える。

「アステルです。気分はどうですか?」

 アステルの言葉に、ヴェラは少し驚いた様子を見せ、しかしすぐにそれを振り払うように首を横に振った。

「……良くなりました」

 その言葉に、アステルはほっと胸を撫で下ろす。だが、すぐにヴェラは続けた。

「何故、私を助けたのですか?放っておけば、貴女の夫を奪おうとする女が一人消えたはずなのに」

 その問いはどこか冷ややかでありながらも、心の奥底で疼く痛みが滲んでいた。
 その言葉にアステルは一瞬黙ったが心の中で深く息を吐き、ヴェラの目をしっかりと見つめた。

「ヴェラさんがいなくなっても、また別の人が来るのでしょう?」
「はい」

 アステルのその言葉にヴェラはゆっくりと頷く。そして、アステルはその言葉に心から納得した。無理もない。ダークエルフの里において、彼女達に必要なのは──男のダークエルフ、つまり使命を果たす者であり、ヴェラが果たせなかった役割を担う者がまた現れるだけ、ヴェラの代わりはいくらでもいる。

 アステルは小さく息をつく。ヴェラ一人をどうにかしても、根本的な解決にはならない。シリウスが心配している通り、また別の者が現れ、同じことの繰り返しになる。

「家族を引き離すのは、我々が想像しているよりも辛いものなのですね」

 その言葉は、かすかに自嘲を含んでいた。ヴェラは目を伏せ、過去の記憶に囚われるように呟く。

「父とはあまり会話をしたことがありません。母は私を産んですぐに亡くなってしまったので」

 父は沢山の子供達の父親だったが妻の中にはお気に入りとそうでない者で差をつけていった。気に入った女の子供には愛情を注ぎ、そうでない女の子供には何もしない。
 ヴェラは気に入られなかった女の子供だった。だからヴェラには家族が大切だと言われても理解ができなかった。彼女の自分の状況と向き合う姿はどこか哀しげだった。

 その言葉にアステルは胸が痛むのを感じた。ヴェラに家族というものが、彼女にとってどれほど遠い存在であったのか、それが今、言葉となってアステルの耳に届く。

「……だから、家族が大切だと言われても、理解できませんでした」

 ヴェラの瞳には、未だに冷徹さが残るが、そこに小さな陰りが見え隠れしている。それが彼女の孤独の証であり、過去の傷でもあるのだろう。

「私はどうすればいいのでしょうか?」

 その時、ヴェラはふと顔を上げ、アステルに問いかけた。
 孤独に押しつぶされそうなヴェラの心が今、初めて素直にアステルに助けを求めてきた。ずっと一人で悩み、迷ってきたのだろう。アステルはその気持ちを感じ取ることができた。

「私も一緒に考えます」

 その言葉を聞いたヴェラは少し驚いたように目を見開き、そしてすぐに小さく頷いた。彼女の表情には、僅かながらも安堵の色が浮かんだ。

 それからの日々、アステルは定期的に病院を訪れ、ヴェラと話を続けた。最初はぎこちなかった会話も、回を重ねるごとにヴェラの表情が柔らかくなり、彼女の心の重荷が少しずつ軽くなっていくのがわかった。
 どんなに具体的な解決策が見つからなくても、二人で話すことがヴェラにとっては大きな支えとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...