上 下
32 / 36

31.恋する乙女と言ったところかしら?

しおりを挟む
 今日は学園で入学式があって、生徒会の二年生メンバーはとても忙しい一日を過ごした。先日の卒業パーティーで体調を崩したフランツはマリオンの魔法のお陰かすぐに回復し、在校生代表のスピーチでも立派にその役目を果たしていた……ちょっと緊張していたけどね。パトリシアのスピーチも素晴らしかったし、この国の王子と王女が在学する今年度は私たちにとって特別な一年になるに違いない。

 忙殺されて弟のラリーにはあまり構ってあげられなかったけれど、初めてのクラスはどうだった? パトリシアやマリオンと同じクラスの様だから、初日から面白いことがあったんじゃないか? 気になっていたのはお母様も同じ様で、夕食時の話題は専らラリーの学園生活についてだった。

「学園には馴染めそうですか? ラリー」
「はい、母上。良いクラスに入れましたし、勉学に励もうと思います!」

 我が弟ながら、優等生な回答だね。しかし私が聞きたいのはマリオンやパトリシアのこと。

「二人と一緒のクラスだったみたいだね」
「はい……本日の主役は間違いなくマリオンでした」

 聞けば早々にマリオンが男子であることが話題となり、マリオンは皆から質問攻めに合っていたらしい。フフフ、入学初日から洗礼を浴びたわけだね。

「本当に彼は……マリオンは男なのですか? 僕は未だに信じられません」
「ああ、間違いないよ。フランツは彼の体を触って確認していたからね。私は拒否されてしまったけど」
「姉上は女性なのですから、無闇に男子の体を触ってはいけません!」
「そうね。でもあのお人形の様な子が男子だなんて、私も少し興味があるわ」
「母上まで!」

 二人に笑われて必死になるラリー。マリオンは彼にとってなかなかに刺激の強い存在と見える。

「僕はまだ、彼にどう接していいのか分かりません。外見は女子だし、パトリシアといつもくっ付いてるし」
「私とフランツのちょうど逆じゃないか。普通に接すればいいのでは?」
「……姉上はどうなのですか? 彼が男と分かる前から気にかけておられましたが、今でも彼のことが好きなのですか?」
「そうだね……」

 鋭い所を突いてきたね、ラリー。私はマリオンのことがずっと気になっていて、男性だと分かった時は女性としての自分の感情が間違っていなかったことに内心ホッとしていた。でもマリオンが女性だったとしても気持ちは変わらなかったと思うし、男性であろうが女性であろうが私はマリオンのことが好き、そう言う結論に至った。とは言え私も恋愛に関しては初心者。女子から好意を寄せられることには慣れているつもりだが、自分の好意をどう相手に伝えていいのかなんて丸で分からない。マリオンには助けられたり守られたりするばかりだが、本当は私がマリオンを守りたいし、許されるのであればずっと一緒に過ごしたいと言う気持ちが強いのだけれど……

「あらあら、あなたがそんな女性らしい優しい表情なのは珍しいわね、ミランダ。恋する乙女と言ったところかしら?」
「そ、そんなことは!」

 お母様に指摘されて少し取り乱す……乙女……乙女!? この私が!? 考えれば考えるほど焦ってしまい、ラリーにまでニヤニヤされる始末。

「姉上の女性らしいところを初めて見ました」
「ウ、ウルサイなあ! ラリーだってパトリシアのことが気になっているんだろう?」
「なっ! か、彼女は幼馴染なだけで、別に意識してるわけでは……」
「フフフ、二人とも学園生活を謳歌しているようで安心しました。でも学生の本分は忘れるんじゃありませんよ。またあの二人を連れていらっしゃいな。彼女たちともっと話してみたいわ」

 お母様の仲裁で、ちょっとした姉弟の口喧嘩は終了。まさかラリーと恋愛について口論する時がくるなんてね。私も少し熱くなりすぎたかな? 反省せねば。

 外見や雰囲気から言えばマリオンの方がよほど乙女だけど、彼のことを好きだと自覚したと同時に自分も女性だったと再認識した。でも家の外でそんな表情を見せてしまうのは恥ずかしいから気を付けないと……我ながら、よりにもよって自分とは真逆の人を好きになってしまうとはね。

 私も模索しながらなので、この気持ちを上手く伝えられないかも知れないけれど、願わくは君も同じ気持ちであって欲しい。マリオン……君を愛してる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

処理中です...