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2.マリオンは家を出ていった
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朝起きると屋敷の中が妙に静かで人の気配がない。時計を見ると九時前で、少し寝坊してしまった様だ。昨晩は……そうだ、マリオンが私の好物を沢山作ってくれて、酒も勧めてくれたのでついつい飲みすぎたんだ。酒も入っていたお陰で、久しぶりにマリオンと色々語り合ったよ。
「マリオン! いないのか?」
のそのそと起き出して調理場に行ってみるが、そこにはいない。水を飲んでからマリオンの部屋に行ってみたがそこにもいなかった。もう九時だし、そりゃそうか。町に買い出しにでも行ったかな?
顔を洗ってから着替えて朝食を食べようとしていると、玄関から馴染みの声が響いてくる。
「おはよう、大将!」
傭兵のフォーブス、朝から相変わらずデカい声だ。正確には元傭兵でこの地に流れてきて普段は農業を営んでいるが、必要なときには商人の護衛などを請け負ってくれる。領地にはその様な『ちょっと訳あり』な者たちが結構いて、私を筆頭にちょっとした部隊の様になっていた。他の領地では考えられないことなのかも知れないが、軍を持つほど金も人材もない貧乏なランズベリー領は、彼らの存在にとても助けられている。
「どうした、フォーブス。今日は護衛の仕事はなかったと思うが」
「次の護衛は今週末だろ? それはちゃんと覚えてるぜ。それよりお嬢はどこかに出かけたのか? 狩りする様な格好でデカい荷物を背負って山の方に歩いていったぜ」
「!?」
狩り? そんなこと昨日は言ってなかった……マリオンの姿を想像しながら色々考えている内にある結論に至って、慌ててもう一度マリオンの部屋を確認しに。クローゼットを開けると、確かに服やバッグがなくなっていて、昨日渡した金もなくなっていた。
「あいつを見たのは何時頃だ!」
「えーっと、早朝の畑仕事をしていたから……六時頃だったかな?」
「三時間前……」
あのバカ、いきなり王都へ出発したのか!? そんな急いで王都に行けと言ったつもりはなく、ゆっくり準備してから皆で送り出してやろうと思ってたのに! ガクッと膝を付き、四つん這いになって項垂れていると、フォーブスが心配した様子で立たせてくれた。
「どう言うことだよ、大将」
「あいつは……マリオンは家を出ていった」
「はぁ!?」
昨日マリオンに話したことをフォーブスにも話す。まさか昨日の今日で出ていくと思っていなかったことも。
「大将もお嬢が素直な子なのは良く分かっているだろう。その言い方じゃ、そりゃお嬢なら十五になる日に家を出るぜ」
「普通、父親には声ぐらいかけていくだろう!?」
「その豪華な夕食って言うのが、お嬢なりの別れの挨拶だったんだろうぜ。それにしてもいきなり王都か……いや、ちょっと待てよ。なんで王都に行くのに南の山の方に歩いていったんだ? 王都に行くなら普通、馬車で隣の領地経由で行くだろう? それでも一週間近くかかるぜ」
そう言われてハッとする。そう言えば王都への行き方を伝えてなかった。いや、『路銀』と言って金を渡したのだから、馬車で行く必要があることは伝わっていたと思ったのだが……
「あいつ……歩いて行くつもりだ」
「歩いてって……山越えか!? いや、確かにそのルートで来る商人も僅かにいるが、道は険しいし、魔物や山賊も出るんだぞ!?」
「お前もあいつのことは良く知っているだろう。魔物や山賊を怖がると思うか? 野宿だって平気なんだぞ」
「まあ……お嬢なら可能か」
普通はそんなルートを通ろうなどと考えないだろうが、しかしマリオンは違う。あの外見ながら異常なほどに力が強く、狩りに行けば巨大な獲物を仕留め、ここ最近は魔物退治においても主戦力だった。傭兵に混じって涼しい顔で魔物を倒すので、傭兵たちからは『お嬢』と慕われているのだ。マリオンが巨大なバッグを背負ってウロウロしているのも、ここではお馴染みの姿だった。
「と、とにかくあいつはしばらく帰ってこない……と思う。皆にもそう伝えておいてくれ」
「そりゃ構わないが、大将は大丈夫なのかよ。家のことは全部お嬢がやっていただろう?」
「まあ、何とかなるさ」
呆れた様に笑って帰っていったフォーブスだったが、昼すぎにいつも手伝ってくれている女たちが押し寄せてまた怒られた。そうだった、今日はマリオンの誕生日で成人するからと、皆で盛大に祝う予定だったんだ。しかし最終的には私の考えを理解してくれて、その夜は本人不在ながら『マリオンの成人を祝う宴』が開かれた。皆、お前のことを大事に思ってくれているぞ、マリオン。もちろん私だってお前のことが大事だし、こうやって皆に好かれているお前のことを誇らしく思うよ。
マリオンが旅立って数日後、王都近くの街から来たという商人とその護衛の一行が領地に到着する。随分大人数だと思っていたら、後にゾロゾロ付いてきていた者たちは山賊らしい。人相が悪い者もいるが、誰も神妙な面持ち。特に捕縛されている様子もなく、自分たちの意思で商人一行に付き従ってきた様だ。
「そいつらは一体?」
「ここに来る途中でこちらの山賊に襲われましてね。更に悪いことに、彼らに襲われているところを猿の様な魔物に襲われまして」
二重に襲われるとはなんとも運が悪い商人だ。魔物の群れは圧倒的で、護衛の兵士や山賊が一緒になって戦ったが全く敵わなかったらしい。あの魔物は動きも速いし、群で行動するので少々厄介な相手だからな。
「ところがそこに旅の少女が通りかかりまして、それはもう見事な立ち回りで魔物をバッサバッサと。魔物たちを倒した後に少女が言ったんです、『山賊もやりますか?』ってね。それでもう山賊たちは戦意を喪失したと言いましょうか」
そういうことか。その『旅の少女』は間違いなくマリオンだ。あいつが魔物と戦っている姿を見て、更に戦いを挑もうなんて命知らずはいないだろう。彼らはマリオンに諭されて、この領地で働くべく商人たちと一緒にやってきたらしい。力も強そうだし、傭兵として役に立つだろうか。また訳ありな者たちが増えてしまったが……改心したのなら、今後はここで皆のために働いてくれよ。
マリオンはどうやらしっかり剣も持っていった様だし心配ない……とは言い難いが、まあ大丈夫だろう。むしろ王都に着いてから大暴れしたりしないでくれよ。王都では狩りや魔物退治の必要はないはずだから、別の所で力を発揮して頑張るんだぞ。
「マリオン! いないのか?」
のそのそと起き出して調理場に行ってみるが、そこにはいない。水を飲んでからマリオンの部屋に行ってみたがそこにもいなかった。もう九時だし、そりゃそうか。町に買い出しにでも行ったかな?
顔を洗ってから着替えて朝食を食べようとしていると、玄関から馴染みの声が響いてくる。
「おはよう、大将!」
傭兵のフォーブス、朝から相変わらずデカい声だ。正確には元傭兵でこの地に流れてきて普段は農業を営んでいるが、必要なときには商人の護衛などを請け負ってくれる。領地にはその様な『ちょっと訳あり』な者たちが結構いて、私を筆頭にちょっとした部隊の様になっていた。他の領地では考えられないことなのかも知れないが、軍を持つほど金も人材もない貧乏なランズベリー領は、彼らの存在にとても助けられている。
「どうした、フォーブス。今日は護衛の仕事はなかったと思うが」
「次の護衛は今週末だろ? それはちゃんと覚えてるぜ。それよりお嬢はどこかに出かけたのか? 狩りする様な格好でデカい荷物を背負って山の方に歩いていったぜ」
「!?」
狩り? そんなこと昨日は言ってなかった……マリオンの姿を想像しながら色々考えている内にある結論に至って、慌ててもう一度マリオンの部屋を確認しに。クローゼットを開けると、確かに服やバッグがなくなっていて、昨日渡した金もなくなっていた。
「あいつを見たのは何時頃だ!」
「えーっと、早朝の畑仕事をしていたから……六時頃だったかな?」
「三時間前……」
あのバカ、いきなり王都へ出発したのか!? そんな急いで王都に行けと言ったつもりはなく、ゆっくり準備してから皆で送り出してやろうと思ってたのに! ガクッと膝を付き、四つん這いになって項垂れていると、フォーブスが心配した様子で立たせてくれた。
「どう言うことだよ、大将」
「あいつは……マリオンは家を出ていった」
「はぁ!?」
昨日マリオンに話したことをフォーブスにも話す。まさか昨日の今日で出ていくと思っていなかったことも。
「大将もお嬢が素直な子なのは良く分かっているだろう。その言い方じゃ、そりゃお嬢なら十五になる日に家を出るぜ」
「普通、父親には声ぐらいかけていくだろう!?」
「その豪華な夕食って言うのが、お嬢なりの別れの挨拶だったんだろうぜ。それにしてもいきなり王都か……いや、ちょっと待てよ。なんで王都に行くのに南の山の方に歩いていったんだ? 王都に行くなら普通、馬車で隣の領地経由で行くだろう? それでも一週間近くかかるぜ」
そう言われてハッとする。そう言えば王都への行き方を伝えてなかった。いや、『路銀』と言って金を渡したのだから、馬車で行く必要があることは伝わっていたと思ったのだが……
「あいつ……歩いて行くつもりだ」
「歩いてって……山越えか!? いや、確かにそのルートで来る商人も僅かにいるが、道は険しいし、魔物や山賊も出るんだぞ!?」
「お前もあいつのことは良く知っているだろう。魔物や山賊を怖がると思うか? 野宿だって平気なんだぞ」
「まあ……お嬢なら可能か」
普通はそんなルートを通ろうなどと考えないだろうが、しかしマリオンは違う。あの外見ながら異常なほどに力が強く、狩りに行けば巨大な獲物を仕留め、ここ最近は魔物退治においても主戦力だった。傭兵に混じって涼しい顔で魔物を倒すので、傭兵たちからは『お嬢』と慕われているのだ。マリオンが巨大なバッグを背負ってウロウロしているのも、ここではお馴染みの姿だった。
「と、とにかくあいつはしばらく帰ってこない……と思う。皆にもそう伝えておいてくれ」
「そりゃ構わないが、大将は大丈夫なのかよ。家のことは全部お嬢がやっていただろう?」
「まあ、何とかなるさ」
呆れた様に笑って帰っていったフォーブスだったが、昼すぎにいつも手伝ってくれている女たちが押し寄せてまた怒られた。そうだった、今日はマリオンの誕生日で成人するからと、皆で盛大に祝う予定だったんだ。しかし最終的には私の考えを理解してくれて、その夜は本人不在ながら『マリオンの成人を祝う宴』が開かれた。皆、お前のことを大事に思ってくれているぞ、マリオン。もちろん私だってお前のことが大事だし、こうやって皆に好かれているお前のことを誇らしく思うよ。
マリオンが旅立って数日後、王都近くの街から来たという商人とその護衛の一行が領地に到着する。随分大人数だと思っていたら、後にゾロゾロ付いてきていた者たちは山賊らしい。人相が悪い者もいるが、誰も神妙な面持ち。特に捕縛されている様子もなく、自分たちの意思で商人一行に付き従ってきた様だ。
「そいつらは一体?」
「ここに来る途中でこちらの山賊に襲われましてね。更に悪いことに、彼らに襲われているところを猿の様な魔物に襲われまして」
二重に襲われるとはなんとも運が悪い商人だ。魔物の群れは圧倒的で、護衛の兵士や山賊が一緒になって戦ったが全く敵わなかったらしい。あの魔物は動きも速いし、群で行動するので少々厄介な相手だからな。
「ところがそこに旅の少女が通りかかりまして、それはもう見事な立ち回りで魔物をバッサバッサと。魔物たちを倒した後に少女が言ったんです、『山賊もやりますか?』ってね。それでもう山賊たちは戦意を喪失したと言いましょうか」
そういうことか。その『旅の少女』は間違いなくマリオンだ。あいつが魔物と戦っている姿を見て、更に戦いを挑もうなんて命知らずはいないだろう。彼らはマリオンに諭されて、この領地で働くべく商人たちと一緒にやってきたらしい。力も強そうだし、傭兵として役に立つだろうか。また訳ありな者たちが増えてしまったが……改心したのなら、今後はここで皆のために働いてくれよ。
マリオンはどうやらしっかり剣も持っていった様だし心配ない……とは言い難いが、まあ大丈夫だろう。むしろ王都に着いてから大暴れしたりしないでくれよ。王都では狩りや魔物退治の必要はないはずだから、別の所で力を発揮して頑張るんだぞ。
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