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第十節 〜十字路(クロスロード)〜
129 “お伽噺(おとぎばなし)”
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〈 “溜まりの深森”と魔王城、或いは“愚者の迷宮”考察 〉
千年の昔、醜悪な魔王を討伐する為、人類は一斉蜂起した。その際に魔王軍の生物兵器である“キメラ”を戦略的に地域範囲を限定して封印したものが“溜まりの深森”である。
いくら魔王を討伐する為とはいえ、現代にも残り続けるそれは世界の有益領域を狭め、各国間の交流や経済を妨げる負の遺産と言えた。ただし、地域を分断する不可侵の領域は国家間の争いの切っ掛けと成りうる国境線を明確化し、ときには強固な防護壁となりうるそれは、国家間の紛争の確かな抑止となっている側面は、世界の平和に確かに貢献していた。戦争に駆り出される徴兵兵にとってのみだが。
また、非常に価値の高い貴重な『異生物産資源』である魔晶石や魔物の素材等の優良採取現場である事は否めず、世界の経済活動にも大きく貢献している。ただし、他の場所での採取に比べて決して容易という訳ではなく、あくまで個体当たりの効率の問題であり、採掘者(冒険者)の帰還率は決して高くない。逆にそれだけ“溜まりの深森”産の資源(魔晶石等)の貴重性・高額性が高まり採掘者(冒険者)にとっては負の連鎖となっていた。
“深森”はその魔素濃度、及び脅威度により深度が測られ、深度が深い程に採取する『異生物産資源』の貴重性と価値が上がるが、まだまだ人では踏み込めないより強力な未踏破地域も多く、その深森を人は忌避を込めて“忌溜まりの深森”と呼ぶ。
世界で一番深度が深く脅威度の高い場所は大陸の最東方部、千年前に魔王国があった場所である。
その嘗ての魔王国の中心、魔王城が建つと言われる最深部は魔素である魔力素粒子が異常なほどにも濃く、キメラさえも近づけず、ネームドの最悪ランクの魔物が群れを成して守っているという。
その最深部の元魔王城に世界で一握りの高ランク冒険者は挑む。そこには未だ見たこともない“尊遺物”が数多く眠っているという。
何度も何人も腕に覚えがある冒険者が挑む。最深部に辿り着けずとも周辺部でさえ数は少ないものの“尊遺物”を幸運にも発見して持ち帰り、一生を遊んで暮らせる大金を手にしている“冒険者”が年に数人は存在している。
ただ、幸運を手に出来る者は、況んや生きて帰ってこれる者は、極少ない。それでも金に目が眩んだ愚か者は挑み続ける。千年経った今でも魔王は人を食い殺し続けている。人は其処を“愚者の迷宮”、或いはただ単にダンジョンと呼ぶ。
何故に嘗ての魔王国にお宝である“尊遺物”が溢れているのかは誰も知らない。魔王国とは一体何なのか、魔王とは一体誰なのか、人は知らない。人が人として文明を築く千年より遥かずっと以前から存在する大陸中を横断し交差する高架軌道の幾路の沿線が、最終的には全て魔王国のその中心、魔王城に辿り着くと知っていたとしても。
廃棄されたその高架軌道の終点に続く線路を辿り、愚か者は元魔王国の“忌溜まりの深森”に分け入っていく。其処に死が待ち構えていたとしても。其処が“愚者の迷宮”、富と名声が待っているダンジョンである限り。
〈 魔王討伐戦記、或いは人類再生の勃興記 〉
❖ ”史実”或いは“神話”
千年前、魔物を従える魔王を討伐しようと人類は一斉蜂起し、一度は討伐寸前まで追い込むものの、魔王はより凶悪な“数の脅威”である“キメラを”造り出し、逆に人類は滅亡一歩手前まで押しかえされる結果となってしまった。
そこに現れたのは人類の救世主、英雄となる”勇者と聖女”だった。見事二人は魔王を討伐して人類を救う。
勇者と聖女はやがて建国して王と王女となり、人類を復興繁栄させた。
今の各国の始祖は彼らの子孫とされている。其の最初の国は『帝王国グラナダ』。世襲の王の名はグラナハム、王妃の名はマリアハナ。
❖ 秘された“お伽噺”、或いはある愚か者の嘆き。
現在では忘れられている、或いは強固に秘匿されているが、亜人の多くの始祖は嘗ての魔王国の住人であり、魔王の“技術”により強化された元人間であった。
その当時の世界は天変地異と呼ぶに相応しい自然災害により、人々の生息地域を著しく損ねさせ、その生活環境は苛烈を極めていた。その環境下で生き残る為の対応の処置であった。脆弱な“人間”の素体だけでの人類“だけ”では滅亡し兼ねない過酷な世界とあんっていた。
それを不満に思う者が居た。亜人化だけではなく、魔王が持つ特異な“技術”があればもっと多くの“人間”を救えるのではないかと。事実、魔王は自分が選んだ人間しか救おうとはしなかった。頑なに“技術”の流出を拒んでいた。
最初は只の義侠心か虚栄心か『不満に思う者』は密かに“技術”を魔王国の外、恩恵を受けられない人間に流出させ、施しとした。
幾ばくかの“技術”が取り入れられたとしても生存は厳しく、逆に、生き残る術を持つ“魔王国”の存在を知てしまった、数を減少させていくだけの人類はこのまま滅亡する前にと、一斉発起して“全てを奪い尽くす”べく“魔王国”に侵攻した。
国と呼ばれているが、魔王国はその領土的にも人口的にも酷く小さく、いくら数を減らした人類でも“数の脅威”から攻略は容易であると思われたが、魔王国を守護する魔王の眷属である“魔物”に容易に拒まれてしまう。
万策尽きた人類は“キマイラ”と後の世で呼ばれる新たな魔物を自ら生み出し此れに充てた。基本性能では魔王の眷属の魔物(後の世のネームド)に遠く及ばないものの、その驚異的な繁殖力により圧倒的な“数の脅威で”瞬く間に魔王国を滅ぼしてしまう。
戦後、その繁殖力を止める術を持たず、統制力さえも失ったキメラは逆に人類に襲い掛かり、従来の人類の滅亡を酷く早めた結果を生み出してしまう。
その後、世界の苛烈であった環境は回復の兆しを見せはじめ、生き残った人類はやがて遅々とだが復興していく。奇しくも、魔王への侵攻がなければ、キメラが生み出されていなければ、人間も魔王国の亜人もあれ程に死ななかったし、文明の衰退もなく、生活は今よりは随分と容易であっただろう事は否めない。
いつしか人類側に与し、亜人を生み出した技術を流応しキメラを創り出し、尚且つ魔王国侵攻に大きな役割を担ったのは、嘗て魔王の最側近であり、最初に魔王に異を唱え技術を持ち出した『不満に思う者』だった。
魔王国滅亡と人類の九割を死に至らしめた切っ掛けを作った本人は戦争を生き残り、その後の人類の混乱を見据えながら、勃興に大いに貢献したが、自らは表に出ず、裏方に常に廻っていたという。
いつしかその立ち位置と過去の所業から人類の指導者側より距離を置かれ、疎遠となる。そしてやがてある名前で呼ばれるようになる。どっちつかずの灰色者と。後の世の落国の民の始祖だった。
彼が人類再興の手助けにと与えた数多くの魔導具は後の世で“尊遺物”と呼ばれている。その魔導具は現在では再現不可能であり。また、その魔導具を何処から持ち寄ったかは最後まで不明であった。
彼本人が公的に最後に目撃されたのは高架軌道に張り付くように人々が避難していた、後の世でサガンと呼ばれる場所であった。そこで彼は冒険者ギルドの前身を組織化し立ち上げ、いくつかの魔導具を与え、人々を救っている。
彼の側には常に見目麗しい若い男女二人が従っていたが、まるでその二人こそが彼の主人であったようだと、伝えている。
不思議なことに人類の復興の際には、必ず障害になるであろうキマイラの大群の存在が皆無とは言えないものの、数多くが減らされ、限定された範囲に押し込まれ封印されたていた事だろう。
それを成したのが“人類側”の“勇者と聖女”であったと言う。
そして落国の民の秘伝では“祝たる従者”と“御たる誰か”であると、密かに綴る。
二人は大陸を巡りキメラを滅し続け、最終的に封印の場所である“溜まりの深森”を創り抑え込みに成功した。偉業の二人でもキメラの存在を無いものには出来なかった。一度世界に記述された魔力の真意を無視することは叶わなかったからだ。
最後に二人は大いに乱れた自然の変調を元に戻す大魔法を行い、力尽き姿を消したという。
魔王国は世界の天変地異と称される環境の激変に対する一種の“播種船”ではなかったと、秘伝書と言う名の“お伽噺”は綴る。
“播種船”が無くなり、人類の九割がこの世界から消えて初めて世界の環境を乱す、魔力素粒子の調整が可能になったのかもしれないと、悲しくも残酷で皮肉な神の真意だと嘆き、それに大きく自分が関わってしまったことを大いに悔い、筆を置いている。
何故彼が魔王を裏切り、キメラを創る結果になったのかは語られていない。
魔王とはなんであったのか、誰であったのか、やはり語られていない。ただ、嘗て“御たる誰か”である『亡国の或いは終りの乙女神』は“祝たる従者”である『亡国の或いは破壊の羅刹神』をこの世界に呼び込み世界を統べることを命じたという。それもまた、否む事さえ叶わない悲しい選択であったという。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
これにて第一部は終了となります。
次回からは『“愚者の迷宮”の入口の街』編から始まります。ダンジョンには少しは潜りますが攻略はしません。それほど主人公は勤勉でも真面目でもないですから。ただワチャワチャしてドタドタしてエイヤッてするだけです。(コレってロードムービーっぽいヤツなんです)
あと、イチャイチャもしたいけど要案件。筆力的に。
それに主人公、冒険者では有りませんから! 成れませんから! 冒険者なんて、大ッ嫌いですから!!
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
更新は少しお時間をいただく事になると思います。
チャンネル登録してお待ち下さればありがたいです。再開時には『活動報告』でお知らせします。
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