半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第十節 〜十字路(クロスロード)〜

121 夢見た在りし日の幻想のように 1

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【月と太陽a121 夢見た在りし日の幻想のように 1】

121 122 123 は“ひと綴りの物語”です。
っていうか、ひとりごと?
 《その1》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 ◆ (『賢老エルフ サトリ』の視点です)

 上手く行った。のだろうか。

 まったく、最初に見た瞬間からキライだった。ただただ嫌いだった。生理的にとでも言うのか。自分でも上手くコントロールできない感情のハレーションだった。それでも、今日までは何とか成っていた。何とか成っていたはずだったが……。

 永すぎる人生の中で、これ程までに忌み嫌う者などいただろうか。遥か遠い昔、里を出たその頃の、感情の振れとも言うべき失った欠片にそれらしき疼きが見られるが、当然に明確な記憶などは既に無い。それで良かった。その記憶だけの憤懣でどうにかなりそうだ。今のワタシのように。


 三年前にオルツィが“彼女”である事を知ったのは偶然だが、知己を得たのは偶然ではない。

 当時、“コウイチ”のハーレム要員中では最高戦力と認識していた序列五位が、序列一位ナンバーワンとの確執で放出されたと聞き見に来たのだ。そんなあからさまな理由を態と・・裏で流布させてまで誤魔化そうとした意図を知りたかったのと、使えそう・・・・なら“触って”みようと思って。

 それでも、当初は唯の暇潰しであったのは本当だったし、久しぶりにサガンの街を見てみたかった。久しぶりと言ったが、自分が遠い過去にこの街を訪れたことは知って・・・いたが、やはり記憶はなかった。
 ここ最近の凋落の激しいギルドの象徴的な支部がある街サガン。かつて魔王が生まれしコウ・シリーズとは因縁深く、同時に忌むべき聖地。

 それでも、昔の知り合いのオルツィとの交流が楽しかったのも半分は本当。


 コウイチはハーレムの序列一位ナンバーワンに公爵令嬢を置き、勢力や武力の補強よりも経済力、地位地盤の向上のみに終始し、コウ・シリーズでは軟弱と評されている。
 他の“コウ”も国際情勢に翻弄される元日本人なのだから、経済力に裏打ちされていない軍事力など畢竟ヒッキョウ“お山の大将”の域を出られはしないと、いい加減気づきそうなものだが。

 特に大規模攻勢時において、或いは直接的な暴力が意味をなさない“裏”においては大きな意味を持つと謂うに。

 所詮は平和ボケした日本人といったところか。まあ、十七歳で途絶えた記憶では闘争といえばゲームかアニメの中だけの絵空事なのかもしれない。直接戦闘を行なう訳でもなく、血腥い事は全て現地異世界調達のハーレムに行わせる“ヒモ”体質の自称勇者様には望むべくもないか。
 本当に昨今のコウ・シリーズは質が落ちた。


【 怒りに我を忘れていなければ、もっと上手くやれていたはずなのに、この感情はもはや怒りではなく、憎しみと言ったほうがいいのかもしれない 】


 コウ・シリーズは絶大な魔力を有しながら“1m定限ルール”に縛られ、自らは力を行使出来ない。彼らの戦力はハーレムの女達をどう使うか、有能な女達をどれだけ集められるかでその優劣が決まる。

 最初のパス経路の構築にも『耽溺たんでき』は欠かせない。先ずは視認し、相手も自分を視認し、相手の肌に触れたところから始まる。肌の接触から魔素を大量に流し込み、言葉巧みに懐柔し、密かに且つ一気にゲートを開かせる。少々手間が掛かる。

 最初にナンパされたとオルツィは言っていた。その時にパス路を通されたのだろう。
 習熟すれば視認し、軽く触れるだけで籠絡され、ゲートの開放は可能だが、その頃のコウイチにはそこまでの技能はなかったのだろう。

 通路維持にも『耽溺たんでき』は必要だった。釣った魚には餌を与え続けなければならない。常に魔力と『耽溺たんでき』を供給し続ける義務が生じる。
 途切れさせればパス路はやがて細くなり、最終的には完全に切れてしまう。だからといって一度に大量に与えたり、量を間違えると魔力過多で崩壊を招き、或いは中毒が促進されて早い時期に廃人となる。

 魔力的には無尽蔵に近い“コウ”で在れば問題はないが、管理維持にはそれなりの苦心が伴った。
 常に気を配り、調整に留意する。それ程にパスの経路は貧弱であり、維持は難しい。そして当たり前だが、管理は“コウ”一人が行わなければならず、なかなかに鬱陶しい作業でも在る。

 “コウ”の中にはエキスパートな少数精鋭構成であったり、逆に平均値で添えた大多数構成であったり、管理が下手なのか面倒なのか、廃人をその都度作り使い捨てにする剛の者クズもいる。各自が自分にあった管理方法を選択している。いや、性癖にあった、の間違いか。

 『耽溺たんでき』はハーレムの運営には欠かせないものであり、コウ・シリーズにとっては一番基本となる魔法だ。
耽溺たんでき』こそが象徴となる、並列疑似脳の第一基門に格納され展開する第ゼロ基門の核分裂炉型マジック・魔力増幅装置ジェネレーターに深く関わる“自個保有魔系特異技能《ユニークスキル》”なのだから。
 と、信じられているが虚偽だ。ただの言い訳だ。

 第一基門に格納され、第ゼロ基門と関係が深いのは依然として“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス”だ。それは変わらない。
 何故あのような使い勝手の悪い魔法が第一に上げられているかは解らないが。確かなのは『耽溺たんでき』が比較的新しいということ。第六基門の隅に格納されていることからも判る。


 虫酸が走る喩えだが、パス経路とは相手との相互間の心の繋がりの強さに他ならない。『心と心』の繋がりと言い換える事も出来るかもしれない。『仲間』とか『絆』など歯が浮くような二昔前の歌詞に出てくるような似非で粉飾された言葉も関係しているのだろう。

 コウ・シリーズの皆は鼻で笑うだろう。何故なら彼らの現状の行為は真逆な、女共を極限まで操り、磨り潰すまで使役する事なのだから。それは彼女達から全てを奪う行為に他ならない。
 そんな関係の何処に“信頼”などと実際に存在しているかさえ疑わしく不確かな、“感情”に頼らなければならないのか。

 強兵に育てようとすれば本人のそれなりの覚悟は有するであろうし、それに耐え得る忠誠や他に特別なナニカが必要なのかもしれない。金も掛かる。なにより、戦闘に投入すれば傷つくし、死ぬかもしれない。それを良しとする性癖の者などいるのか? まあ、いるだろうがチマチマ集めるのも面倒だ。
 その為の『耽溺たんでき』だ。

 『心の繋がり』の変わりに耽溺させ、判断力を奪い、意のままに操る。俗物的だが『心の繋がり』などの絵空事よりよっぽど頼りになる。
 テレビの中でモンスター同士を戦わせる“主人公”のように割り切ればいい。それがハーレムの、チーム全体の“総意”なのだから。

 だから新人の“コウ”に親切に教えてやったのに。
 それを断りやがった。自分は『与える』事しか出来ないと戯言ほざいて。腹ただしい。

 なら何故に、どうやってあの至高たる“御たる誰か女王様”を手に入れた。


 “うつり”間際のこの街に、野垂れ死に寸絶の三人組が入った事は知ってはいたが、然程さほどの興味は持てなかった。

 警護一人で“忌溜まりの深森”を抜けえた戦闘力に多少の食指は動いたが、サキュバスだと知りそれも早々に失せた。たぶん魔女に覚醒して雷撃も相当に使えるのだろうが、何時自爆するか分からない自殺志願者はいらない。検討の余地もない。オルティと同じだ。

 見るべきは少女だろう。今まで見たことのない驚愕な量の膨大な魔力を有している。ただ、残念ながら既に精神が壊れていた。いくら『耽溺たんでき』を使ったとしてもアレは無理だ。意思を完全に無くせば設置型の爆弾ぐらいには使えるが、ワタシの趣味には合わない。美しくない。

 下僕については正直驚いた。魔力が全くのゼロなのだ。新たな“コウ”かと思ったが、完全なゼロなど“コウ”でも居ない。魔力量ゼロでどうやって行き続けていられるのかと、そんな人族も世の中にはいるのかと思ったが、価値のない者など考えるのも無駄であると頭の隅からも完全に消した。

 しかし、ワタシは気づくべきだった。“忌溜まり”を抜け、身に付けているものは襤褸ボロ布のみであったのに、三人ともその身体にひとつの傷の跡さえも残していない事に。


 ワタシはギルド兵になり身を隠していたが、“うつり”の前にはココを去るつもりでいた。わざわざ付き合う気はない。
 コウイチが送り込んだハーレム五位のオルツィにも興味はもうない。彼女が万が一生き残れた際は改めて検討しよう。

 たぶんだが、コウイチは彼女をハーレムの裏に、誰にも知られずに隠すつもりなのだろう。奥の手として。自分の女達にも悟られずに。その敵対対象には他のコウ・シリーズはもちろん、自分の“おほみたる誰か”の公爵令嬢も含まれているのだろう。彼女は偉いが馬鹿だから。

 コウイチも細々コマゴマと色んな手を考えている。彼が最弱との噂は本当かもしれない。小賢しすぎる。それとも元々の性格か? そうならいいなと思う。他の“コウ”は頭が足りなすぎて面白くないから。


 街のギルド崩壊も領主位を自分のバカ息子に継がせるのも勝手にすればいい。根は十年前のギルドの総会頭簒奪さんだつから始まる政治闘争であるが、まだやっているのかと呆れる思いだ。まあ、それもある目的の為に自分も手を貸してはいたが、今は無関係だ。自分の興味に合わず抜けた。煩わしいだけのドロドロは趣味にあわない。
 公爵は相変わらず馬鹿でツメが甘いと思う。ギルドも潰れるが、街も潰れるだろう。潰れた街の領主に就けて、何がしたいのだろうか。

 色々あるが、オルツィは逃亡を考えているようだ。『耽溺たんでき』の存在に気づき、恐ろしくなったのだろう。頑張って逃げ切っての中毒からの離脱を祈る。もうコウイチにはバレているだろうが。同郷のヨシミで応援だけはしている。頑張れ嘉瀬川千鶴さん。

 それが全て引っ繰り返った。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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