半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第八節 〜遷(うつり)・夜夜中(よるよるなか)〜

095 深い闇に潜んでいる2

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94 95 96 97 は“ひと綴りの物語”です。
 《その2》
傭兵団の団長オッサ、デッカイ魔法バンバン撃ってデッカイ剣をブンブン振り回すのが好きって言ってたけど……実際やってることったら、ねえ。
ご笑覧いただければ幸いです。

※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 あれだ『スイッチがあったら取り敢えず押しとく』病だ。


 そのまま通常の巡回コースを辿り、城内に潜り込む事に成功する。ただ、明るい城内に入ると途端に接触した衛兵にバレそうになる。その度に針でプッすっとして排除した。

「おっかしいな、なんでだろうな」
 胴鎧の脇から肉がはみ出しフウフウ言っている小太りおじさんがボヤいている。早々に鎧は脱ぐ事にした。ガチャガチャ煩いし。魔法の鞄ストレージから出した黒く染めた“テッパチ”と“タクティカル・ベスト”に着替えさせる。と思ったけど、オッサンの胴鎧だけはフックを噛んで動かず、そのままとなった。無様。

 以後は僕の幻術で誤魔化し隠れながら進む。
 結局、『針でプッすっとな』からずっと使っていたから今更なんだけど。ちなみに僕は全身黒タイツ姿だった。モジモジ君って呼ばれたら泣く。ショッカー隊員ならちょっと嬉しい。


 僕達がやろうとしていること、それはまんまクーデターだ。ただの反乱かな。施政者やってんならそんなバットパターンも覚悟の上だろうから大丈夫だろう。こちらのほうが余程戦争っぽかったりする。人同士の。気の滅入る話ではある。

 最終目標は尖塔占拠。途中に男爵や“赤い鎧”の謀殺も在るかも。“赤い鎧”はオッサの目的。夜が明ける前までに。
 僕も今夜、人を殺すんだろうなと思う。正直吐きそう。当然ハナは連れてきていない。今夜はひとりで戦う。

『ルルもご一緒ですよ。でちゅ』
 “でちゅ”設定は健在デファなのね。忘れてたっぽいけど
『魔剣、剣鉈ナイフ改め“血吹雪”もいますからね』
 名前は却下で。その場の思い付きでしょそれ。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 私もお供します。
 と結論 ∮〉
 カスミさんとチェンジでお願いします。

「で、君は何も言ってくれないのね」

大姉様オルツィに会って、それからだ」

「オマエも戦うって事? いいよ無理しなくて。それで男爵を説得して事件解決にしてくれ。その方がナンボか楽」

 サチは僕が冗談で言っていると思ったのか凄い眼で睨んでくる。心外。別に男爵と敵対したい訳じゃない。話し合いで解決出来るならその方がいいに決まってる。全然期待はしていないけど。


 衛兵の詰め所ドアの両脇に別れて中の様子を探る。右に三、左に二、合計五人。やや多いが引く事はできない。指を三本と二本に分けて振り、位置と人数を教える。タイミングを合わせる。ツー・スリー。僕がドアを開けオッサンが間髪を入れず突入。僕が続く。オッサンの頭越しに眼球に針が刺さり悶絶する二人を見て(楽な方を取りやがった)、右の三人に向かう。腰から短銃型“魔法の杖7インチ”を両手二丁を抜き連射する。

 剣での槍でも良かったのだが、射程一メートルでも携帯に便利で狭い場所での取り回しが効き、自由度が高く格闘と併用が出来るこのスタイルを採用してみた。ジョンな人の米国映画をリスペクトして。火薬じゃないから風切り音だけで静かだし、手数・連射できるのがいい。腰裏の剣鉈ナイフは不満そうだけど。

 サチは退路を確保するためドアから鏡を使い警戒中。動きやすさを考え今夜は黒コートを脱いでトップスとビキニのみだ。スレンダーな立ち姿に“テッパチ”と“タクティカル・ベストとアサルトライフルの三点セットがイケナイ”特殊な部隊”っぽくてグット。サチに睨まれた「ハナ様に言いつけます」無慈悲か!

 オッサンは十五センチぐらいの先の尖った刺突専用暗器で自分が倒した二人に“止め”を刺していた。刃はついていない。実にそれっぽい武器だ。そして驚くほど出血量が少ない。射す場所が特殊なのか技なのか。
 次に彼は僕が三人を見やり、溜息を一つ、やはり一々“止め”を刺していった。

「いいけどな、仕事だから。これも当然割増だからな。でもよ、俺がフォロー出来ない事態は絶対に来るからな、その時は自分でなんとかしろよ。死ぬんなら支払いが済んでからにしてくれ」
「すいあせん」

 威力の弱い制圧弾を使ってしまった。
 だってまだ無理だし。サチのことをとやかく言えない訳ざんす。


 この『衛兵詰め所』を強襲したのには訳がある。地下の牢獄と武器庫の鍵が収められていたから。地下には“溜まりの深森”から湧き出す魔物を狩るために集められた(騙されたとオッサンは主張)傭兵たちが捉えられていた。

 “溜まりの深森”から湧き出る魔物は“うつり”前日にピークを迎え、その日の日没を迎えるとパタリと収まり、終息する。そこでお役御免となり、街の宿に分散して泊まっていたが、そのまま街は危険地帯になるとして全員が一旦男爵の屋敷に招き入れられ、そのまま地下の牢屋に直行となったらしい。団長であるオッサンは個別に捕縛されそうになって、殴り倒して脱出したそうだ。

 オッサンによると“うつり”中は、領主館へのカトンボ襲来時用の肉壁として使われ、三日を超えて終われば全員が処刑されるだろうと言っていた。経費削減の為に。証拠隠滅の為に。

 それでも、当初集められ、オッサの下に預けられた傭兵はその数を半分に減らしていた。激戦と呼ばれる戦場でもそんな損耗率はありえないらしい、その数は七十を切っている。

 僕らがこの街に初めて入った時に絡んできた傭兵の三人組? は生残っているだろうかと心配っぽい事を思った。ちょっとだけど、まあ、数少ない顔見知りだし……だめだ、冷蔵庫の顔さえ覚えてないや。


 何故傭兵は集められたのか。

 “溜まりの深森”からの魔物襲来の撃退は依頼がなければギルド兵や冒険者が行うことはない。ギルドは自主的な魔晶石回収の業務が或るだけで責任がある訳ではない。
 何処どこの領土でも、人でも魔物でも外敵を避けるのは領主の仕事だ。当然のことそれは子飼いの領兵の仕事となる。

 カトンボ以外の魔物は脅威だが、“不壊”の高架鉄道軌道がこの街サガの市外壁を兼ねている。最悪放っておいても麦畑が壊滅するだけで街への直接敵な被害は発生しない。
 “うつり”で活性化しているが、スタンピートではないので終われば森に帰っていく。実際に二年前の“うつり”では何もしなかった。麦畑は荒らされるのに任せた。

 だが、二年前では溢れたカトンボが街にまで来襲した。当然領主の館にも。
 今回は前回以上にギルドは役に立たないことは明白で、被害は更に大きく、街は崩潰を免れないと男爵は思った。

 ギルドや街がどうなろうともいい、が、領主館だけは潰す訳には行かない。大事な子飼いの領兵を減らすことも躊躇われ、代りとして鋳潰しても構わない傭兵が肉壁として集められた。
 わざわざ壁外に出され、魔物の襲来に充てがわれたのは対魔物戦と集団戦に慣れさせるためだった。らしい。

「オレたちは魔物なんぞには決して手を出さない。相手は人間限定、人同士の戦争や抗争の、それも数合わせで雇われるのが傭兵だ。『団』なんて名乗っちゃいるが所詮は有象無象の雇われ弱小兵でしかないからな。
 魔物も相手できる。集団行動も出来る。軍隊としての経験も実績もある“強兵揃いの有名処”はここに着いた日に数を三分の二まで減らされた。騙し討さ。“俺の処”のようにな。
 まあ、団員全員が揃っていれば田舎男爵の領兵なんぞ喰い破り、今頃俺が男爵様の椅子に座っているだろうからな、それでだろ」

 でも最初は反乱なんて起こすつもりなんてなかったようだ。腐っても相手は貴族様男爵様だ。
「へ、舐められたもんだぜ、まあ、男爵様の椅子ってのは語弊があるが、闇に葬れればオーケーだ。俺にだって“後ろ盾バック”ぐらいある。それも国の中枢にガッチリ食い込んでいる貴族様や大富豪の商人だ。

 俺らの団は優秀なんだよ。終わったあとの“借り”の“支払い”が憂鬱だが、それに見合う“貸し”だってゴマンと持ってる。こんな時用にな。それにな、男爵は禁忌を犯している。

 俺等傭兵は犯罪者だ。正々堂々と捕縛して縛り首に出来る。懸賞金も国から出る。でも誰も何もしない。ナゼだ。俺らが『必要悪』だからだ。
 なら“誰”が必要としている。争いごとが大好きな中枢にガッチリ食い込んでいる貴族様や大富豪の商人だ。
 特に優秀な俺の団は、自分の手を汚さずに代わりに戦争してくれる大事な外郭団体だ。もっと言えば、俺等なくして戦争ごっこは出来ないって事だ。
 男爵は暗黙の了解という、禁忌を犯した。

 とにかく、積極的に助けてくれたりは絶対しないが、黙認ぐらいはしてくれるさ」

 半分は嘘だなと思った。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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