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第七節 〜遷(うつり)・初茜(はつあかね)〜
091 残酷な愚挙 3
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89 90 91は『“櫓”下の救急集中治療室』での、バケモノと戦わない人々のもう一つの戦いの、“ひと綴りの物語”です。
《その3》
ご笑覧いただければ幸いです。
―――――――――
「神様には会ったことがない」
神様がいるのか、いないのかなんて分からない。居てもいいし、居なくてもいい。いたらいたで凄いなあと思うし、いなくても、まあ、困らないかな。
神への冒涜と言われても、考え方の違いじゃないかな。
死者への冒涜と言われれば、確かに。でも死んだ人はもう文句言ってこないし、文句も言えない。文句を言えないんだよ。悲しいじゃないか。
シヅキの開いた綺麗なピンク色をした胸の中にそっと手を差し入れる。それを止めようとアイナさんの手が僕の腕を抱えるように掴む。
「止めとくれよ。お願いだよ。
もういいよ。静かに逝かせてあげようよ。
もう、若い子が傷ついていくのは、見たくないんだよ」
その通りだ。アイナさんが正しい。僕が間違っている。でも手を止めない。
ただ、僕はこの状況が気に食わないだけなんだ。
アイナさんの筋力では僕の行動を止めることは出来ない。
ゴメンね、シヅキ。我儘言ってる認識は充分にあるんだ。この先どうしたら良いか何て、分からない。“蘇生”とか“蘇り”とかそんな大それた事は出来そうもないし、だってやり方なんてさっぱり解らいし。
其れこそ、神さま教えてください。いらっしゃるなら。
……面倒くさい。ああ、メンドクサイ。でもね、ダメなんだよ。
腕に絡まったままのアイナさんを引き摺たまま作業を続ける。でもまあ、今の僕が出来ることなんて、殆ど残ってないんだけど。
心臓をそっと掴む。掌の中に収めるように優しく。そのまま“表象印契”を発動させ、心臓に直接魔法陣章を刻む。心臓を魔導具とした。血液を循環させるポンプに。
表面に複雑な凹凸があり且つ有機物に直接法陣章を刻むのは初めてで、酷く難しかったが、なんとか正確に刻めたようだ。次は魔力をつぎ込む。少しずつ、少しずつ、慎重に。
掌の中に突然最初の鼓動が伝わる。ドックン。そしてもう一度。ドックン。来た。
リズムを刻む。確かな鼓動が伝わってくる。それでも少しでも気を抜くと握り潰してしまいそうだ。適切な魔力量を調整していく。体中の血液が回り始める。まだだ。何かが足りない。酸素だ。肝心の酸素がないじゃないか。肺に酸素を送らなければ。
今日の夜明け前、すべての準備が整い、三十分ぐらい時間が空いた。何もすることがなく暇なので、遊びで酸素吸入装置を造った。ポーションもあるし、治癒魔法もある。必要ないかなと思ったが、救急集中治療室にはそれなりの機器が並んでないとね、と遊びで。何かしていなければ気が変になりそうだった俺、グッジョブ。
酸素吸入装置は直ぐ脇に置かれていたが、僅かに手が届かない。“万有間構成力制御魔技法”を発動。手元に引き寄せる。クっ、重い。たぶん二十キロもないが、初級なんてこんなものだ。キャスターを付けとけばよかった。床を僅かにズルズルするだけでなかなか引き寄せられない。くっそー。
と、掌の中の心臓が不整脈を起こす。魔力量を乱した。ヤバい。と、気づいたアラクネの一人が機器を引きずって持って来てくれる。ありがたい。チューブを手にし、口から気道に無理やり差し込む。正確なやり方は知らないし。気道がバンバン傷ついたようだが死人だから文句は出ないだろう。文句は後でまとめて聞く。
体内に豊富な酸素と魔力が乗った血液が循環する。酸素の量は手で翳して診て、肺が損傷しないように調整する。
末端の壊死がようやく止まる。そのまま全身の治癒を進めよう。先程よりは充分早いが、それでも一瞬とはいかないようだ。慎重さも必要だ。
今までの経験を活かしてシ-ケンスをいくつも組んでプログラム化してみた。実に三分の一の縮小に成功。残り三分の二の思考で脳組織の修繕に挑む事にする。
生体電流が途絶してから時間が立ちすぎている。代わりに魔理力体を流しているが、所詮代用品。万全じゃない。情報系リソースが漏れて溶けだしているかも知れない。早めに手掛けたほうが良いと判断した。そしてこればかりは自動化は無理で、手作業で行うしか無い。そのための豊富な思考領域の確保だ。
脳組織の治癒及び情報系リソースの救済を行おうとしたタイミングで扉が開き、今日三人目の患者が運び込まれた。幸いなことにまだ生きているらしい。
「カトンボによる受傷ではありません。自ら転倒して膝を負傷したようです。見た限りの傷跡は見当たりません。治癒ポーション二本を飲下済み。それでも痛みが引かず歩行不可能状態からの離脱です」
状況説明を簡素に行ったのは片足を引き摺る兵隊を運び込んだ槍使い組兵站班のエルフくんだ。彼はたぶん僕よりずっと年上で、見た目は生意気ショタ系なんだけど生粋のバトルジャンキーなのよね、ってハナが言ってた。
彼は入ってきた時から、説明を行っている間の今もずっと視察台上のシヅキと僕から目を離さない。彼女の知り合いかな。
まいったな、脳組織を手掛け始めて間がない。まだ余裕がない。声を出すことを憚るほど神経を集中させなければならないのに。
今の一件でアラクネの皆さんとは仲違いしているし、今すぐ職場放棄されても文句を言えない状況なのにどうしよう、そう思っていると一人のアラクネが進み出て。
「こちらに寝かせて。マスターは今手が離せないので私が診ます。貴方はもう部隊に帰っていいわよ。兵站班なら寸暇も惜しいでしょ。
マスター、私は貴方を許した訳じゃないわ。貴方が今やっていることは無駄で残酷な愚挙よ。避難されるべき。でも、シヅキが生き返るかどうかは別にして、感謝はしている。まだお礼は言わないけど。
……ズカナ、プレン。こっちに来て手伝って。キラナとアネカはマスターを手伝って」
魔女っ子四人組のことだ。彼女たちは若いってだけじゃなく、ここにきてその知識の吸収とそれを使いこなすスキルが急上昇している。四人が機敏に動く。
それを気に他のアラクネも自分のやるべき仕事に戻っていく。
「私は魔晶石の回収に行ってくる」
「擁壁上にポーションの配達いってきまーす」
兵站班のエルフはカスミさんの『シヅキが生き返る』との言葉に目を見開き、次に僕を痛ましそうに見た。彼は一瞬で僕がやろうとしていることを見抜いたようだ。そしてそれがどんなに無謀で愚かなことであるかを知っているようだった。さすが長寿なエルフは知識が豊富なようだ。彼は踵を返すと自分の部隊に帰っていった。小さな呟きを残して「悲しみを深めるだけなのに」
魔女っ子四人組の一番のチビであるプレンが僕の腰に手を添え。
「私達はマスターを助ける。一人で全部しようとしないで。何でも命令して。なんなら脱ぐ? 診察カーテンの奥で待ってればいい?」
ありがとう。でもそれ犯罪になるから。
カスミさんは寝台に寝かされた兵の袖を捲ると前腕に器具を押し当て、それをズカナに手渡す。次に痛む膝を無理やり折って立たせ、手を翳し診る。僕が複数の仕事を抱え忙しい彼女たちアラクネを敢えて衛生兵、或いは医官に抜擢したかは、その診る力による。
自個保有魔系特異技能“表象印契”の分技スキーマ“鑑識”を保有しているから。“鑑識”は既存の魔法陣章を読み取る機能を使用して万物を診る。ラノベにあるような超絶“鑑定”などと比べれば劣化版と言ってしまうのさえ憚れる機能だし、診れる範囲も狭い。ただ、診られるものなら百パーセント正しい。どのくらい正しいかと言えば、例の“似非”よりはよっぽど正しい。比べたから。
「マスター、右膝の靭帯が半分切れて残りも伸び切っています。飲下式のポーションではやはり完治は不完全ですね。靭帯を一度全部切って『直接照射』で一気に治します。ズカナ、DNAの抽出解析は終わってるの?」
「ハイ、姉サン。印刻も終わっています」
ズカナとは魔女っ子の次女であたふたボケ担当の“クッコロ”ちゃんのはずが、今は優秀なデキる女騎士に見える。僕への態度とは違いすぎる。
「足の靭帯修復は『ヒの003847‐右‐右‐全切断』よ。DNAと一緒にセットして持ってきて。それと魔晶石硬貨は五万圓分で足りると思うから」
「ハイ、姉サン」
小型のCTか、大きな自動血圧測定機か、部分用の日焼けマシーンのような半ドーナッツ形態の大きな機器を押してくる。
「靭帯を切ります。痛いですけど我慢して下さい。動くと他の部分も切っちゃいますけど、でも治すからどっちでも良いですけど」
「ちょっ、ちょっと待って」
言い終わる前に何処からか取り出したナイフで斬りつける。血が飛び散る。流れる血もそのままに「根性無しで暴れそうだから、束縛しちゃて、プレン」
「ハイ、姉サン」
プレンは魔女っ子三女の美少女陰キャラだが初めて声を聞いた。短いけど。彼女はテキパキと診察台に束縛していく。怪我をしているとは言え、年上の屈強な兵隊に対して。
ガラゴロと押してきた平たい半ドーナッツ形状の機器を患部に被せる。
「これから治癒します。その際、切れた靭帯を魔法で引っ張ってくクッ着けるんだけど、酷く痛いから我慢して」
「ちょっ、ちょっと待って」
「煩い黙れ。動かすな。動かすと最初からやり直しだそ。苦痛が二倍だ。だから動かすなよ。始めます」
「わたしがやるよカスミ、“表象印契”の要領で良いんだろ。それぐらいしか老体にはやる事ないからね」
「……わかりました、母さん。では照準だけは私が」
「悪いね」
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
《その3》
ご笑覧いただければ幸いです。
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「神様には会ったことがない」
神様がいるのか、いないのかなんて分からない。居てもいいし、居なくてもいい。いたらいたで凄いなあと思うし、いなくても、まあ、困らないかな。
神への冒涜と言われても、考え方の違いじゃないかな。
死者への冒涜と言われれば、確かに。でも死んだ人はもう文句言ってこないし、文句も言えない。文句を言えないんだよ。悲しいじゃないか。
シヅキの開いた綺麗なピンク色をした胸の中にそっと手を差し入れる。それを止めようとアイナさんの手が僕の腕を抱えるように掴む。
「止めとくれよ。お願いだよ。
もういいよ。静かに逝かせてあげようよ。
もう、若い子が傷ついていくのは、見たくないんだよ」
その通りだ。アイナさんが正しい。僕が間違っている。でも手を止めない。
ただ、僕はこの状況が気に食わないだけなんだ。
アイナさんの筋力では僕の行動を止めることは出来ない。
ゴメンね、シヅキ。我儘言ってる認識は充分にあるんだ。この先どうしたら良いか何て、分からない。“蘇生”とか“蘇り”とかそんな大それた事は出来そうもないし、だってやり方なんてさっぱり解らいし。
其れこそ、神さま教えてください。いらっしゃるなら。
……面倒くさい。ああ、メンドクサイ。でもね、ダメなんだよ。
腕に絡まったままのアイナさんを引き摺たまま作業を続ける。でもまあ、今の僕が出来ることなんて、殆ど残ってないんだけど。
心臓をそっと掴む。掌の中に収めるように優しく。そのまま“表象印契”を発動させ、心臓に直接魔法陣章を刻む。心臓を魔導具とした。血液を循環させるポンプに。
表面に複雑な凹凸があり且つ有機物に直接法陣章を刻むのは初めてで、酷く難しかったが、なんとか正確に刻めたようだ。次は魔力をつぎ込む。少しずつ、少しずつ、慎重に。
掌の中に突然最初の鼓動が伝わる。ドックン。そしてもう一度。ドックン。来た。
リズムを刻む。確かな鼓動が伝わってくる。それでも少しでも気を抜くと握り潰してしまいそうだ。適切な魔力量を調整していく。体中の血液が回り始める。まだだ。何かが足りない。酸素だ。肝心の酸素がないじゃないか。肺に酸素を送らなければ。
今日の夜明け前、すべての準備が整い、三十分ぐらい時間が空いた。何もすることがなく暇なので、遊びで酸素吸入装置を造った。ポーションもあるし、治癒魔法もある。必要ないかなと思ったが、救急集中治療室にはそれなりの機器が並んでないとね、と遊びで。何かしていなければ気が変になりそうだった俺、グッジョブ。
酸素吸入装置は直ぐ脇に置かれていたが、僅かに手が届かない。“万有間構成力制御魔技法”を発動。手元に引き寄せる。クっ、重い。たぶん二十キロもないが、初級なんてこんなものだ。キャスターを付けとけばよかった。床を僅かにズルズルするだけでなかなか引き寄せられない。くっそー。
と、掌の中の心臓が不整脈を起こす。魔力量を乱した。ヤバい。と、気づいたアラクネの一人が機器を引きずって持って来てくれる。ありがたい。チューブを手にし、口から気道に無理やり差し込む。正確なやり方は知らないし。気道がバンバン傷ついたようだが死人だから文句は出ないだろう。文句は後でまとめて聞く。
体内に豊富な酸素と魔力が乗った血液が循環する。酸素の量は手で翳して診て、肺が損傷しないように調整する。
末端の壊死がようやく止まる。そのまま全身の治癒を進めよう。先程よりは充分早いが、それでも一瞬とはいかないようだ。慎重さも必要だ。
今までの経験を活かしてシ-ケンスをいくつも組んでプログラム化してみた。実に三分の一の縮小に成功。残り三分の二の思考で脳組織の修繕に挑む事にする。
生体電流が途絶してから時間が立ちすぎている。代わりに魔理力体を流しているが、所詮代用品。万全じゃない。情報系リソースが漏れて溶けだしているかも知れない。早めに手掛けたほうが良いと判断した。そしてこればかりは自動化は無理で、手作業で行うしか無い。そのための豊富な思考領域の確保だ。
脳組織の治癒及び情報系リソースの救済を行おうとしたタイミングで扉が開き、今日三人目の患者が運び込まれた。幸いなことにまだ生きているらしい。
「カトンボによる受傷ではありません。自ら転倒して膝を負傷したようです。見た限りの傷跡は見当たりません。治癒ポーション二本を飲下済み。それでも痛みが引かず歩行不可能状態からの離脱です」
状況説明を簡素に行ったのは片足を引き摺る兵隊を運び込んだ槍使い組兵站班のエルフくんだ。彼はたぶん僕よりずっと年上で、見た目は生意気ショタ系なんだけど生粋のバトルジャンキーなのよね、ってハナが言ってた。
彼は入ってきた時から、説明を行っている間の今もずっと視察台上のシヅキと僕から目を離さない。彼女の知り合いかな。
まいったな、脳組織を手掛け始めて間がない。まだ余裕がない。声を出すことを憚るほど神経を集中させなければならないのに。
今の一件でアラクネの皆さんとは仲違いしているし、今すぐ職場放棄されても文句を言えない状況なのにどうしよう、そう思っていると一人のアラクネが進み出て。
「こちらに寝かせて。マスターは今手が離せないので私が診ます。貴方はもう部隊に帰っていいわよ。兵站班なら寸暇も惜しいでしょ。
マスター、私は貴方を許した訳じゃないわ。貴方が今やっていることは無駄で残酷な愚挙よ。避難されるべき。でも、シヅキが生き返るかどうかは別にして、感謝はしている。まだお礼は言わないけど。
……ズカナ、プレン。こっちに来て手伝って。キラナとアネカはマスターを手伝って」
魔女っ子四人組のことだ。彼女たちは若いってだけじゃなく、ここにきてその知識の吸収とそれを使いこなすスキルが急上昇している。四人が機敏に動く。
それを気に他のアラクネも自分のやるべき仕事に戻っていく。
「私は魔晶石の回収に行ってくる」
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兵站班のエルフはカスミさんの『シヅキが生き返る』との言葉に目を見開き、次に僕を痛ましそうに見た。彼は一瞬で僕がやろうとしていることを見抜いたようだ。そしてそれがどんなに無謀で愚かなことであるかを知っているようだった。さすが長寿なエルフは知識が豊富なようだ。彼は踵を返すと自分の部隊に帰っていった。小さな呟きを残して「悲しみを深めるだけなのに」
魔女っ子四人組の一番のチビであるプレンが僕の腰に手を添え。
「私達はマスターを助ける。一人で全部しようとしないで。何でも命令して。なんなら脱ぐ? 診察カーテンの奥で待ってればいい?」
ありがとう。でもそれ犯罪になるから。
カスミさんは寝台に寝かされた兵の袖を捲ると前腕に器具を押し当て、それをズカナに手渡す。次に痛む膝を無理やり折って立たせ、手を翳し診る。僕が複数の仕事を抱え忙しい彼女たちアラクネを敢えて衛生兵、或いは医官に抜擢したかは、その診る力による。
自個保有魔系特異技能“表象印契”の分技スキーマ“鑑識”を保有しているから。“鑑識”は既存の魔法陣章を読み取る機能を使用して万物を診る。ラノベにあるような超絶“鑑定”などと比べれば劣化版と言ってしまうのさえ憚れる機能だし、診れる範囲も狭い。ただ、診られるものなら百パーセント正しい。どのくらい正しいかと言えば、例の“似非”よりはよっぽど正しい。比べたから。
「マスター、右膝の靭帯が半分切れて残りも伸び切っています。飲下式のポーションではやはり完治は不完全ですね。靭帯を一度全部切って『直接照射』で一気に治します。ズカナ、DNAの抽出解析は終わってるの?」
「ハイ、姉サン。印刻も終わっています」
ズカナとは魔女っ子の次女であたふたボケ担当の“クッコロ”ちゃんのはずが、今は優秀なデキる女騎士に見える。僕への態度とは違いすぎる。
「足の靭帯修復は『ヒの003847‐右‐右‐全切断』よ。DNAと一緒にセットして持ってきて。それと魔晶石硬貨は五万圓分で足りると思うから」
「ハイ、姉サン」
小型のCTか、大きな自動血圧測定機か、部分用の日焼けマシーンのような半ドーナッツ形態の大きな機器を押してくる。
「靭帯を切ります。痛いですけど我慢して下さい。動くと他の部分も切っちゃいますけど、でも治すからどっちでも良いですけど」
「ちょっ、ちょっと待って」
言い終わる前に何処からか取り出したナイフで斬りつける。血が飛び散る。流れる血もそのままに「根性無しで暴れそうだから、束縛しちゃて、プレン」
「ハイ、姉サン」
プレンは魔女っ子三女の美少女陰キャラだが初めて声を聞いた。短いけど。彼女はテキパキと診察台に束縛していく。怪我をしているとは言え、年上の屈強な兵隊に対して。
ガラゴロと押してきた平たい半ドーナッツ形状の機器を患部に被せる。
「これから治癒します。その際、切れた靭帯を魔法で引っ張ってくクッ着けるんだけど、酷く痛いから我慢して」
「ちょっ、ちょっと待って」
「煩い黙れ。動かすな。動かすと最初からやり直しだそ。苦痛が二倍だ。だから動かすなよ。始めます」
「わたしがやるよカスミ、“表象印契”の要領で良いんだろ。それぐらいしか老体にはやる事ないからね」
「……わかりました、母さん。では照準だけは私が」
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