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第六節 〜似非魔王と魔物、女王と兵隊〜
075 超えられたその先があるなら
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“槍使い”の◆視点です。“盾使い”との対比です。
或る若い兵隊さんの小さな物語です。
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ご笑覧いただければ幸いです。
※注1
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◆ (『或る、槍使い《スピア》』の視点)
掌の皮がズル剥けて血が槍の軸を伝う。でも止めない。ただこの槍を突き上げるだけの訓練が無意味じゃなく、ちゃんと効果を発揮して敵を貫く事が出来るのかなんてワカラナイくても、ただ突き上げる。
今はただ突き上げる。何時か何もかもを貫けるまで。願うなら、“遷”が来る前に。
あの“女の子”は言った。“武魔装技操”に昇華させろ、そうすれば次に進める、と。“あの女の子”とは皆が呼ぶ“女王様”だ。何故そう呼ぶのかワカラナイ。ただ恐ぇだけの女の子だ。
オレは女の子の持っていた“魔法の杖”を触った瞬間にぶっ倒れた。
そしてわかった、こんなぶっ飛んだ“ブツ”を扱えるヤツなんて化け物しかいないって。
オレは魔力を吸われてぶっ倒れたらしいが、アレは命まで躊躇無く吸ってくる。あの小僧がもぎ取らなかったらオレはミイラのように干からびていた。“兄貴”からも危なかったと言われた。たぶん、あの小僧は全てわかってて仕組んだ。だって笑ってた。本当に性格が悪いと思った。
ああ、そんな事は如何でもいい。集中する。今はただ槍を振るう。
掌のズル剥けからの血が槍の軸を伝い地面に滴る。軸を捻り廻すたびに血が飛び散る。だからって止めない。手が血糊で滑る、でも構わない。
正直、オレは怖くて怖くてしょうが無いんだ。次は何だ。ナニがナクナル。母ちゃんと姉ちゃんか? 誰が死ぬんだ? 皆か?
俺はアラクネの男だ。守ることだけがアラクネの男に求められること。俺は二年前のあの日、十五歳に二週間足りなかった。だから見ている事しか出来なかった。父ちゃんは死んだ。二人の兄ちゃんも死んだ。姉ちゃんの旦那も死んだ。呑兵衛でスケベで元流れの吟遊詩人なんて軟弱でアラクネの男でもなかったけど、アラクネの男として死んだ。
俺にはもう家族は母ちゃんと姉ちゃんだけだ。俺は十六歳だ。後二週間チョットで十七歳になる。もう充分大人のアラクネの男だ。死んでも守る。手が痛いナンテなんだ。関係ない。
と、俺は腰に衝撃を受けて転げる。ケリを食らった?
見上げると例のサキュバスの女が仁王立ちしていた。皆が“黒の副官”と呼ぶ。どうして皆が尊ぶのかワカラナイが。その女がオレに恐い顔で怒鳴る。何故か「甘えるな」と。
「甘えるな! とっととその掌を治せ、自分が傷付く代償で誰かが助けてくれるなどと縋るな!
血だらけの万全とはいい難い手でいくら槍を奮っても上達なぞしない。サッサとポーションで治せ。
用意されたポーションはお前たちを癒やす為のモノじゃない。窮地に追い込むモノだ。
考えろ、常に効率が良い方法を。思考しろ、どうすればもっと速く、鋭く出来るか? 軸がブレないか? 足出しはそれでいいのか? 検証しろ! 常に考えろ! 思考を止めるな。無心などそんな贅沢に逃げるな。冷静になれ。だが立ち止まるな。意識を保て。止まるな、止まることは許さない! 止まることはすなわち死だ! 死んだら終わる。それを忘れるな!」
オレは急いで兵站係からポーションを受け取ると両手に掛け、ついでに体力増強のポーションをこれでもかと飲み込み、槍を手にする。
槍は綺麗だった。例のサキュバスの女が丁寧に拭いておいてくれた。
俺は再び列に戻り、槍を天空に向かい突き出す。突き出す。突き出し。捻りはこれでいいか。握りはこれでイイのか。角度はこれでいいのか。足運びは最適か。少しずつ変化させ、組み合わせを変え、検討する。検証する。僅かでも良くなったと感じたなら其処を基として他を変化させ、完成を目指す。結果、前より悪くなったら全てを捨て、一からやり直すこともある。だけれども感じる、願う、オレの槍が少しずつでも鋭く成ることを、速くなる事を。天に向かって槍を突きだす。
気づけば兄貴がオレの隣で同じく槍を突き上げていた。突き上げるたびに一旦止め、考え込み、オレに視線を向ける。そしてまた槍を突き上げる、その動作を繰り返す。それがしばらく続いた。オレは憧れの兄貴が側にいることだけで舞い上がって、嬉しくなって、自慢の兄貴の角が粉砕されてことに改めて憤り、でも兄貴はそんなに気にしていないようで……そんな事をつらつら考えていたはずが、何時の間にか頭から消え、完全に意識の外に飛んでいった。
自分でも意外だった。オレの心身の全てが槍に集中していた。だから最初その問いかけがオレに向けられたものだとは全然気が付かなかった。
「オイ、いいからオレの話しを聞け」
「す、すいません兄貴」
兄貴と呼ばれてちょっと嬉しそうないつもの兄貴の顔があった。でも次の言葉はいつもの兄貴からは予想外なものだった。
「オマエの握りと撚る形が俺のとは違う。たぶんオマエのは違う。良く見ておけ、こうだ!」
と、実演して見せてくれたが速くて何処がどう違うか全く見えなかったし、解らなかった。「やってみろ」やってみろと言われても。
「違う。こうだ! ココはコウ、で、コウ。分かっな? ヤッてみろ。違う。コウだ!」
結局最後まで「コウ」しか言わず、実演は速すぎて見えず、焦れた兄貴は本当にオレの手や足を掴んで動作をシュミレートし始めた。それでも解らず、オレがひとつの動作をクリアーするまで酷く時間が掛かった。でも兄貴は最後まで怒りもせず、見捨てず、指導の手を一つも抜かなかった。アレだったけど。
「オマエ、ワカラナイことを分からないで済ますなよ。解かれ、判ったら分った事をもっと理解るようにしろ」
兄貴はイイ事言ったゲな“ふんぬ”な顔で言い放った。
ほんとうにナニ言っているのかワカラナかったが、俺から離れた後も気になったやつの元に行って「コウダ」を繰り返していた。
最初は皆、辟易としていたが、理解に苦しみ、時間は掛かり疲れるが、それでも確実に上達していることが解ると自ら声を掛けて指導してもらえるよう頼む者も顕れ始めるようになった。
その後も俺は何度か兄貴に指導を頼んだ。指導方法はあいかわらず理解に苦しみ時間も掛かったが、オレは確実に槍の突き上げは速く、捻りは深く、強くなっていった。
結局オレは隊の中で一番『秘技・毛槍回し』の習得が遅かった。そんなオレにサキュバスの女は言った。
「お前に槍の才能が在るかどうかは知らない。今現在、この隊の中でも”槍使い”のレベルは最低のラインだ。だが、お前が身に着けつつある基礎は誰よりも強固だ。揺るぎない基盤を築いている。それだけは確かだ。
もし、“遷”を超えられたその先があるなら、そのまま槍を奮うことを止めなければ、お前は槍だけで世を渡っていける者となるだろう。励め」
オレは嬉しかった。槍の才能ウンヌンではなく、ただ、“遷”を超えられたその先の事を考えられている自分がいることを。
◇
◆ (再び、『或る盾使い《タンク》』の視点)
負傷や魔力切れ、体力の低下が見られるとそれを察知して素早く“兵站班”が近づいてきて、弾倉、体力増強ポーションなどの補充を施してくれる。その他では治療などの処置も行ってくれる。ありがたい。
戦闘中に敵から目を離すことなど出来るはずもなく、相棒が一時的でも戦闘不能となればソレだけでユニットは瓦解する。即ち死。
“兵站班”は訓練ローテーションから外れ固定となっていた。それほど特異性を持っているからだろう。
盾使いと衛生兵の二人組みだ。盾を立て、その陰で素早く処置が行われる。“兵站盾付き”は部隊で最もデキるヤツが着く。
「先輩、お疲れっス」
「いいから早くよこせ」
二つ下の後輩は兵站盾に抜擢され、俺はそのまま擁壁の上の盾だ。
補給時は特に砲撃が激しくなる。
“女王様”も遠慮がない。戦闘に参加出来ない邪魔者が一人いるだけでユニットの攻撃力も守備力も途端に低下する。戦場では弱い部分に攻撃は集中するのは当然だし、当たり前だが、これは酷い。行き着く暇もない。守りの要の“兵站盾付き”にエリートが選ばれるはずだ。
「おまえ、大丈夫か?」
「あれ? 人の心配スカ? 私が助けに来たんすけど。でもありがとうございます。大丈夫です。これを最優先に支給してもらいましたから、コレ、マジ凄いっすよ」
と、誇らしげに見せるのは今までの三分の一の軽さの盾と、『じえいたい式耐衝撃吸収防護上着と呼ばれる袖なしの上着、セットで“てっぱち”と呼ばれる半帽式の兜だ。面防はなく“ごーぐる”なる眼鏡を支給された。視界は良くなるが、すごく繊細な造りで大丈夫かと疑ってしまう。
支給が始まった時に実演で見せてもらったが、確かに防御力は半端じゃないように見えた。だが自分としては半信半疑で、厚くて重くても鉄板や厚革の方がよほど強そうに思え、何より体に馴染む安心感が在ると思ってしまう。
だいたいギルドには擬神兵装”と呼ばれる“尊遺物”の鎧があったはずだ。数が少ないことは知っているが、どうせ造るなら見た目だけでも似せればいいのにと、思ってしまう。判ってないなと。支給品には装飾は皆無で濃い灰色一色だ。気分はだだ下がりだ。
ああ、あの美しく荘厳な鎧さえ与えてくれたなら、俺も英雄と呼ばれるような活躍をしてやれるのに。それが何だ、この鎧とも言えない軽装は。イやんなるぜ。
イザという時の身を守るこんな薄て軽い兜モドキも、ブヨブヨの布っぽい上着も怖さが先にたってなんとも心許ない。なんでも『炭素繊維』とか『非ニュートン流体』だとか『ケブラー』なにがしを魔改造してナンチャラこんちゃら、蜘蛛糸でどうしたなど、良くわからないし怪しすぎるぜ。何よりも、胴体と頭以外は無防備なのが恐い。
『そんなもんポーションでなんとかなる。即死しなければいい。あとは兵站班と俺がなんとかする。即死する事だけはなんとしても避けろ』
と、小僧は言い放った。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
毎日更新しています。
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掌の皮がズル剥けて血が槍の軸を伝う。でも止めない。ただこの槍を突き上げるだけの訓練が無意味じゃなく、ちゃんと効果を発揮して敵を貫く事が出来るのかなんてワカラナイくても、ただ突き上げる。
今はただ突き上げる。何時か何もかもを貫けるまで。願うなら、“遷”が来る前に。
あの“女の子”は言った。“武魔装技操”に昇華させろ、そうすれば次に進める、と。“あの女の子”とは皆が呼ぶ“女王様”だ。何故そう呼ぶのかワカラナイ。ただ恐ぇだけの女の子だ。
オレは女の子の持っていた“魔法の杖”を触った瞬間にぶっ倒れた。
そしてわかった、こんなぶっ飛んだ“ブツ”を扱えるヤツなんて化け物しかいないって。
オレは魔力を吸われてぶっ倒れたらしいが、アレは命まで躊躇無く吸ってくる。あの小僧がもぎ取らなかったらオレはミイラのように干からびていた。“兄貴”からも危なかったと言われた。たぶん、あの小僧は全てわかってて仕組んだ。だって笑ってた。本当に性格が悪いと思った。
ああ、そんな事は如何でもいい。集中する。今はただ槍を振るう。
掌のズル剥けからの血が槍の軸を伝い地面に滴る。軸を捻り廻すたびに血が飛び散る。だからって止めない。手が血糊で滑る、でも構わない。
正直、オレは怖くて怖くてしょうが無いんだ。次は何だ。ナニがナクナル。母ちゃんと姉ちゃんか? 誰が死ぬんだ? 皆か?
俺はアラクネの男だ。守ることだけがアラクネの男に求められること。俺は二年前のあの日、十五歳に二週間足りなかった。だから見ている事しか出来なかった。父ちゃんは死んだ。二人の兄ちゃんも死んだ。姉ちゃんの旦那も死んだ。呑兵衛でスケベで元流れの吟遊詩人なんて軟弱でアラクネの男でもなかったけど、アラクネの男として死んだ。
俺にはもう家族は母ちゃんと姉ちゃんだけだ。俺は十六歳だ。後二週間チョットで十七歳になる。もう充分大人のアラクネの男だ。死んでも守る。手が痛いナンテなんだ。関係ない。
と、俺は腰に衝撃を受けて転げる。ケリを食らった?
見上げると例のサキュバスの女が仁王立ちしていた。皆が“黒の副官”と呼ぶ。どうして皆が尊ぶのかワカラナイが。その女がオレに恐い顔で怒鳴る。何故か「甘えるな」と。
「甘えるな! とっととその掌を治せ、自分が傷付く代償で誰かが助けてくれるなどと縋るな!
血だらけの万全とはいい難い手でいくら槍を奮っても上達なぞしない。サッサとポーションで治せ。
用意されたポーションはお前たちを癒やす為のモノじゃない。窮地に追い込むモノだ。
考えろ、常に効率が良い方法を。思考しろ、どうすればもっと速く、鋭く出来るか? 軸がブレないか? 足出しはそれでいいのか? 検証しろ! 常に考えろ! 思考を止めるな。無心などそんな贅沢に逃げるな。冷静になれ。だが立ち止まるな。意識を保て。止まるな、止まることは許さない! 止まることはすなわち死だ! 死んだら終わる。それを忘れるな!」
オレは急いで兵站係からポーションを受け取ると両手に掛け、ついでに体力増強のポーションをこれでもかと飲み込み、槍を手にする。
槍は綺麗だった。例のサキュバスの女が丁寧に拭いておいてくれた。
俺は再び列に戻り、槍を天空に向かい突き出す。突き出す。突き出し。捻りはこれでいいか。握りはこれでイイのか。角度はこれでいいのか。足運びは最適か。少しずつ変化させ、組み合わせを変え、検討する。検証する。僅かでも良くなったと感じたなら其処を基として他を変化させ、完成を目指す。結果、前より悪くなったら全てを捨て、一からやり直すこともある。だけれども感じる、願う、オレの槍が少しずつでも鋭く成ることを、速くなる事を。天に向かって槍を突きだす。
気づけば兄貴がオレの隣で同じく槍を突き上げていた。突き上げるたびに一旦止め、考え込み、オレに視線を向ける。そしてまた槍を突き上げる、その動作を繰り返す。それがしばらく続いた。オレは憧れの兄貴が側にいることだけで舞い上がって、嬉しくなって、自慢の兄貴の角が粉砕されてことに改めて憤り、でも兄貴はそんなに気にしていないようで……そんな事をつらつら考えていたはずが、何時の間にか頭から消え、完全に意識の外に飛んでいった。
自分でも意外だった。オレの心身の全てが槍に集中していた。だから最初その問いかけがオレに向けられたものだとは全然気が付かなかった。
「オイ、いいからオレの話しを聞け」
「す、すいません兄貴」
兄貴と呼ばれてちょっと嬉しそうないつもの兄貴の顔があった。でも次の言葉はいつもの兄貴からは予想外なものだった。
「オマエの握りと撚る形が俺のとは違う。たぶんオマエのは違う。良く見ておけ、こうだ!」
と、実演して見せてくれたが速くて何処がどう違うか全く見えなかったし、解らなかった。「やってみろ」やってみろと言われても。
「違う。こうだ! ココはコウ、で、コウ。分かっな? ヤッてみろ。違う。コウだ!」
結局最後まで「コウ」しか言わず、実演は速すぎて見えず、焦れた兄貴は本当にオレの手や足を掴んで動作をシュミレートし始めた。それでも解らず、オレがひとつの動作をクリアーするまで酷く時間が掛かった。でも兄貴は最後まで怒りもせず、見捨てず、指導の手を一つも抜かなかった。アレだったけど。
「オマエ、ワカラナイことを分からないで済ますなよ。解かれ、判ったら分った事をもっと理解るようにしろ」
兄貴はイイ事言ったゲな“ふんぬ”な顔で言い放った。
ほんとうにナニ言っているのかワカラナかったが、俺から離れた後も気になったやつの元に行って「コウダ」を繰り返していた。
最初は皆、辟易としていたが、理解に苦しみ、時間は掛かり疲れるが、それでも確実に上達していることが解ると自ら声を掛けて指導してもらえるよう頼む者も顕れ始めるようになった。
その後も俺は何度か兄貴に指導を頼んだ。指導方法はあいかわらず理解に苦しみ時間も掛かったが、オレは確実に槍の突き上げは速く、捻りは深く、強くなっていった。
結局オレは隊の中で一番『秘技・毛槍回し』の習得が遅かった。そんなオレにサキュバスの女は言った。
「お前に槍の才能が在るかどうかは知らない。今現在、この隊の中でも”槍使い”のレベルは最低のラインだ。だが、お前が身に着けつつある基礎は誰よりも強固だ。揺るぎない基盤を築いている。それだけは確かだ。
もし、“遷”を超えられたその先があるなら、そのまま槍を奮うことを止めなければ、お前は槍だけで世を渡っていける者となるだろう。励め」
オレは嬉しかった。槍の才能ウンヌンではなく、ただ、“遷”を超えられたその先の事を考えられている自分がいることを。
◇
◆ (再び、『或る盾使い《タンク》』の視点)
負傷や魔力切れ、体力の低下が見られるとそれを察知して素早く“兵站班”が近づいてきて、弾倉、体力増強ポーションなどの補充を施してくれる。その他では治療などの処置も行ってくれる。ありがたい。
戦闘中に敵から目を離すことなど出来るはずもなく、相棒が一時的でも戦闘不能となればソレだけでユニットは瓦解する。即ち死。
“兵站班”は訓練ローテーションから外れ固定となっていた。それほど特異性を持っているからだろう。
盾使いと衛生兵の二人組みだ。盾を立て、その陰で素早く処置が行われる。“兵站盾付き”は部隊で最もデキるヤツが着く。
「先輩、お疲れっス」
「いいから早くよこせ」
二つ下の後輩は兵站盾に抜擢され、俺はそのまま擁壁の上の盾だ。
補給時は特に砲撃が激しくなる。
“女王様”も遠慮がない。戦闘に参加出来ない邪魔者が一人いるだけでユニットの攻撃力も守備力も途端に低下する。戦場では弱い部分に攻撃は集中するのは当然だし、当たり前だが、これは酷い。行き着く暇もない。守りの要の“兵站盾付き”にエリートが選ばれるはずだ。
「おまえ、大丈夫か?」
「あれ? 人の心配スカ? 私が助けに来たんすけど。でもありがとうございます。大丈夫です。これを最優先に支給してもらいましたから、コレ、マジ凄いっすよ」
と、誇らしげに見せるのは今までの三分の一の軽さの盾と、『じえいたい式耐衝撃吸収防護上着と呼ばれる袖なしの上着、セットで“てっぱち”と呼ばれる半帽式の兜だ。面防はなく“ごーぐる”なる眼鏡を支給された。視界は良くなるが、すごく繊細な造りで大丈夫かと疑ってしまう。
支給が始まった時に実演で見せてもらったが、確かに防御力は半端じゃないように見えた。だが自分としては半信半疑で、厚くて重くても鉄板や厚革の方がよほど強そうに思え、何より体に馴染む安心感が在ると思ってしまう。
だいたいギルドには擬神兵装”と呼ばれる“尊遺物”の鎧があったはずだ。数が少ないことは知っているが、どうせ造るなら見た目だけでも似せればいいのにと、思ってしまう。判ってないなと。支給品には装飾は皆無で濃い灰色一色だ。気分はだだ下がりだ。
ああ、あの美しく荘厳な鎧さえ与えてくれたなら、俺も英雄と呼ばれるような活躍をしてやれるのに。それが何だ、この鎧とも言えない軽装は。イやんなるぜ。
イザという時の身を守るこんな薄て軽い兜モドキも、ブヨブヨの布っぽい上着も怖さが先にたってなんとも心許ない。なんでも『炭素繊維』とか『非ニュートン流体』だとか『ケブラー』なにがしを魔改造してナンチャラこんちゃら、蜘蛛糸でどうしたなど、良くわからないし怪しすぎるぜ。何よりも、胴体と頭以外は無防備なのが恐い。
『そんなもんポーションでなんとかなる。即死しなければいい。あとは兵站班と俺がなんとかする。即死する事だけはなんとしても避けろ』
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