半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第四節 〜ギルド〜

043 そしてイラつく。唐突に猛烈に。

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ギルド長が無双します。
女性は怒らせると怖いですね、ってお話し。 
そして最後はあろう事か? ってほどでは無いですけど……

※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。

 ◆引き続き『ギルド長』の視点です。
―――――――――


 あの小僧ならどうするだろう……。

 なんだ?
 正面の“美しき夢の世界”を眺めながら唐突に『小僧なら』との問いが浮かんだ自分自身に本心で驚く。何故なぜだ? なぜそんな愚問が。
 そしてイラつく。唐突に猛烈に。

……確かに私は小僧達に執着した。最初にあのお嬢さんの特殊な超精密攻撃魔法に。あれなら遠距離攻撃も可能ではないかと。あれなら“羽竜落とし”の代わりになるのではないだろうか。そしてなにより、の攻撃魔法を発動させた見た目からして異質なロッド型“魔道具”に。

 最初は小僧の事など目の端にも映っていなかった。ただの下僕だろうと決めつけていた。あの面相だし。
 それが間違っていた事に気づく。目だ。サマンサもあのお嬢さんもあの小僧を見る目は只の下僕に向けるモノでは決してなく、信頼と敬意に溢れたものであった。そして唐突にあの超精密攻撃魔法もそれを齎す異質なロッド型“魔道具”も、全てあの小僧が揃えたのだと確信した。理由もないただの感だったが、私は確信した。何故だか分からないままに。

 全て“うつり”対策に有効な兵器として取り込む、あるいは取り上げる為だけだった。

 最初は本当にそう思っていた。……でもそれだけだろうか。私は必要に小僧を煽り、話しを拗らせ、結果、小僧は私達を皆殺しにしようとまで考えさせた。そして私は自分のユニークスキルをフル活用して必要のない暴力まで振るう事さえした。小僧には軽く去なされたが。
 まあ、私が苛立っていた大部分は小僧が連れていたあのお嬢さんの存在が、なのだけれども……。

……それでも、多分私は嫉妬していたのだ。恨んでもいたかもしれない。
 何に。

 あの小僧は……あの小僧だけは自分が誰かを知ってたのかな。そして自分に何が出来るか、自分が何をしたいかを知っていた。
 そしてこの閉塞した現状を力技でもなんでも使って壊し突破してくれる。そんな気がする。
 ……って!何を私は言っているんだ。バカか私は!

「オイ!何を無視してんだ。ギルドのくせに!」

 ハッとする。そして、ギルドのくせにって……。
 ギルドのくせかぁ、そうなんだよね。私はたかが落国の民アッシュの、の街のギルドのおさ
 そして私の出来ること。したいこと。しなくてはならないこと。そして、したくないこと、絶対に。

 今は真紅に染まる尖塔の美しい宮殿。
 そこからから私は回れ右してそのまま歩き去ろうとした。

「おい、どこに行く。ココで大人しく待ってろ」

「なんで?」と私。

「なんでって、お前が御領主様に面談を申し込んだんだろうが」

「ヤメたわ。なんだか馬鹿馬鹿しくなっちゃった。領主にキャンセルしますって、伝えといてもらえるかしら」

「そんな訳に行くか、ココでお前に逃げられればオレが叱責さおこられるだろうが」

「逃げられる? 可笑しな事をおっしゃるのね」

 本当は訳なんて分かっているんだけどね。わざと下手に謝罪に来た愚かな私を長時間待たせる事で更に追い詰め、“誰が上で誰が下”かを明確に私に刻みつけたかったんでしょ。物事を有利に進める為に。

 昔からそんな下らない事が大好きなヤツだった。
 知っていたのに。
 分かってた。それでも、私は必要だと思い込もうとしていた。私ってなんて健気けなげで可哀想なんだろうと慰め賛美しながら。気持ちワルッ。
 あっ。これって小僧が言いそうなセリフ。

「おい、マテよ」若干キ○タクが入ってる。と「オマエ、顔が若返ってる!」

貫禄をつけるナメられない為に基本ベースをちょい高め淑女オバサンにしてたのよ。でも、もうやめたたの」

 三重に幻視させていた。小僧達も基本ベースまでは暴けなかった。ショボくて非戦闘系の役立たずな能力だけど、自慢の私の“自個保有特異魔系技能ユニーク・スキル”だ。どうだ小僧、驚いたか。言っておくけど私はまだ三十代だ。ギリだけど。自分で言っててチョットだな。

「気持ち悪いなオマエ」と、下品な衛士。

「なんですって! 失礼ね。アナタ消滅するの?」

 私はそのままプリプリブリブリ歩き始める。っと、歩みを止め振り返り「ごめん、やっぱり伝えといて、あんたの親分に」

「お、おやぶん?」

「私たちギルドは“うつり”に際して第一に護るものを自らのギルド及びギルドに関係する者達に限定します。
 ぶっちゃけ一般市民の皆さんは私達の守備範囲外って事。この土地と市民を守るのは元々あんた達領主の義務でしょ。その邪魔は遠慮しますってことよ」

「何を勝手な、魔物を狩るのはギルドの担当だろうが!」

「それは違うわ。私達ギルドは公的機関でもないし、慈善事業団体でもないの。あくまで営利目的、魔晶石収集の為に魔物を狩っているだけよ。ああ、料金を払ってくれれば警護業務として受けてもいいけど、お高いわよ。あっ、やっぱりダメだわ。私、客は選ぶ事にしているから、そうね、男爵様はチョットね。あしからず」

「何言ってんだあんた」

 それには応えず。フフッと上品な笑みを浮かべて改めて身を翻す。

「ちょ、だからマテって」
 若干キム○クな衛士が私の肩を掴んで止めようと。

 でも彼の手は虚空を掴み、僅かに身体のバランスが崩れる。幻視させました。その針の先の隙に突けこむ。
 私は衛士の踏足を狩り、這い蹲せる。
 私はしがない事務屋で非戦闘系だけど、それでも新人時には規定通りちゃんとギルドの初等訓練を受けたのだ。辛かった。ちなみに同期に“赤鬼”と班長に“今の領主”がいた。そのまま兜を踏みつける。

 踏みつける際、若干力が入る。ごめん嘘、力一杯、今までの鬱憤を晴らす如く。だってその鎧、“神落とし”と同く、我が落国の民アッシュであるギルドに伝わる、いやそれ以上に特別な祭典の際に選ばれた者が装着出来る別枠な『魔神兵装』。本当の名前は“はふりたる従者より賜った鎧”、別名『魔王の不壊鎧』の、レプリカだから。
 偽物レプリカであったとしても、コイツが身につけていいものじゃない。だから。

 その兜が頂点の継ぎ目でパカんと割れて足裏が衛士の頬に直接めり込む。グシャリと。グエって一度鳴いて衛士は動かなくなった。

 ちょっと待ってもらっていいかしら。可笑しくない? 確かに“気持ちが乗って”、若干力入っちゃってたけれどもさ。脆すぎない? 私ったら事務屋だよ。初等訓練でドンジリだよ。“赤鬼”と“班長”にいつも泣かされてたんだよ。
 脆すぎない?
 例のレプリカ鎧は紙級に薄かったってこと? この鎧をバカにしすぎじゃない? 怒るわよ。あ、もう怒ってわね。

 地面に横たわりピクリとも動かない衛士の様子を伺う。死んじゃった? そんなに強く踏んでないわよ? だいたい兜の頂点で左右に繋ぎ合わせないわよね、強度的に普通。見せ鎧だとしても。製作費をケチったの? あのゲス男爵ならありうるわね。これはもう私のせいじゃないわよね。
 ねえ、そう思うでしょ。寝てないで応えなさいよ。

 あら、うんうん唸っているわ。よかった、生きてるみたい。

 私は裾を払い、何事もなかったようにこの場を去る事にした。

 こんな中途半端な戦力しか持たない領主に私は頼ろうとした。分かってた。それでも何かに、誰かに頼りたかった。重圧で押し潰されそうだったから。今回はもうダメだと半分、嫌、本気で諦めていたから。

 私は落国の民アッシュで、の街のギルドのおさだ。ただそれだけだ。
 出来ることは限られている。私の守るべきもの、守りたいと切に願うものは、それはギルドと花魁蜘蛛クイーンと蜘蛛糸、それに従事する職員と兵士、とその家族。それだけだ。
 改めて確認した。冷たいようだけど、街と高架高速鉄軌道を守る責は領主にある。私は関係ない。

 まあ、昔々、“蜘蛛の糸”に関わる人々が集まり自然に街が興った歴史から、今でもほとんどの市民が“蜘蛛の糸”に従事してるって事実はあるのだけれど……。それってほとんどの市民、そのまま街を丸っと守るって事じゃない。変わらないわ。
 わかってる。大切な人々だから、大切なのは男爵なんかに任せてられないって事。そして危機的状況は相変わらず変わらないって事。

 どうすんのよ。この危機。
 の恨み祓さでおくべきか、小僧!
 どうすんのよ小僧!
 あんたのせいよ!

 完璧な逆恨みだけどいいの。もう、そういうのは気にしないの。
 絶対に小僧達をこき使う。小僧は私の部下に成るって言ってたモン。ミッチリ絞ってキリキリ働かせる。ゼッタイだ。
 そして“カトンボども”を撃退する。ゼッタイにだ。

 私はずんずん歩いてギルドに戻る。いつの間にか小走りになってギルドへ、私のギルドへと走って戻る。薄闇の中を、掻き分けるように。

―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
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