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第二節 〜忌溜まりの深森〜
016 道なき道を這いずり進む
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“溜まりの深森”を走破するための装備のお話しです。着る物とか。
果たして褌一丁から脱することはできるのか。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◇
そして僕はフウフウ、ハアハアの逃避行という名の急登坂&急下山で疲労困憊、頭真っ白バーン。
なのに、何故にサキュバスっ娘は足取りも軽く、どうして既に日本語をマスターしてる? 感染による身体向上のギフトでもあるのか? 恐るべし腐女教団。
ちなみにハナの足取りも軽い。
これは僕も入信するべきか。イヤないな。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
第五基門・同軸亜次元領域を開放。
“高高速自動読取解析及び再構築付与【真魔眼】”と“同軸多重高速思考攻究編纂型疑似脳”を以て言語解析の“諸事自動研鑽研究及び仮想実験実装機関”を単独に立ち上げました。
古代文字をはじめ、あらゆる言語・その成り立ちから流布時系列構成を研究し明らかにしていきます。
さらなる研究の為の文字も含めての各種素材を所望します。データー不足による研究の停滞が見られます。よって一般言語の習得にはもう少々の猶予が必要となります。
と結論 ∮〉
おお、やっぱりな『言語チート、キター!』って言いたいけども、勝手に結論すな! 何を研究するって? そんなの求めてないよ。ただ目の前で喋べってる言葉を理解したいだけ。
早く喋らせて。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
言語の研究は地勢的歴史的観点からもこの世界の成り立ち及び現況の情勢に至る各国家の比較文化論の基礎データであり、現況を把握する必要最低限の知識です。疎かにはできません。
また、些細な言語の勘違いから最悪の戦争に発展する事態も有りえます。その成り立ちから正確に解析・理解する必要があると確信 。
と結論∮〉
マジ何言ってるかわからん。要らん、そんなモノ。そして後半は伝説巨神さんですか。“みなごろし”は関係ないし。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
投げやりで興味なし。
しかしながら大賢者による提案・採用が後の運命を大きく回転させる分水嶺であった事を、本人はまだ知らない。
来るべきその時、感涙に噎せる事だろう 。
と結論∮〉
却下。即。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
なぜに!
と結論∮〉
道なき道を這いずり進む。
ガールズなトークな腐的浸透汚染に疲弊感を深めつつ今日も今日とて逃避行に勤しむ僕。
精神的、且つ肉体的にもうイヤです。
もーね、休みたい。
やっぱり不思議なのはサキュバスっ娘は勿論、ハナにしてもそんなに疲れた様子が見られない。何故だ。
「侯爵令嬢の責務として常に鍛えているから」とハナの談。
「冒険者として当然だろう」とはサキュバスっ娘。
それだけじゃないだろ。絶対違うだろ。
やはり此方の世界の人たちは元の世界の日本人と比べるとより身体的拡張性が高いと感じる。体力的にも耐久性においても。
何より、身体スケールも一割増強程度には大きい。単純に人種的な違いか、或いはこの世界での魔力を受容出来るか出来ないかの違いか?
元々が虚弱体質気味の僕は抗議したい。ずるいじゃないかと。特にもうちょっと背が欲しいと。異世界全然関係ないけど。
森の中を歩くのに(特に安全性という意味で)裸のままなのは如何なものかと、サキュバスっ娘の替えのコートを借りた。その際、酷く嫌な顔をされた。これでもかってくらいに嫌な顔をされた。
「“お気に”のコートだったけど、もう着れないわね。もう返さなくていいから」と言われた。
確かに値の張りそうな黒く艶やかな黒いロングコートだ、って、オマエもか! さすが主従、気が合うなオイ‼
うん、意地でも返しますよ。洗濯せずに絶対。
しかし、デカい。このコート。サキュバスっ娘の身長は百八十センチを僅かにこえるか? 僕はだいたい百三十センチ位。その差は五十センチ。そりゃ裾を擦るって。
やっぱりサキュバスっ娘、背、高すぎ問題。それでも異世界では普通らしい。
ところで、黒のロングコートって言ったら偉大なる伝説の『剣技で接続』桐ケ谷先輩ですが、こっちはどう見ても、真ッ裸にコートの古の紳士、それも矮小版が此処にいた。
「イイもの見せてあげようか」って言っちゃいそう。
自分で言って落ち込む。だって似合ってんだもん。貧相身体で矮小版なのが特に偏狂っぽい感じがマシマシで。
そこで見た目と動きやすさを考え、裾を端折り腹で縄を巻いて留め、袖も限界まで折返して長さを調整してみた。股下からハナのカーディガンを巻いて留めた褌が垣間見えている。
足は自らが編んだ草履履き。
結果、イケナイ紳士から出来の悪そうな丁稚小僧にジョブチェンジしていた。そうですか。異議申し立ての受付は何処ですか?
草履は自分で編んだ。冒険者の必須アイテムである『花魁蜘蛛の糸』をサキュバスっ娘から貰い、小学生の頃の体験学習で習った技を屈指した。例の如く僕は体験学習の事さえ忘れていたが、それが何か? ダマレ似非大賢者。
この『花魁蜘蛛の糸』は優れものだ。酷く軽く、極細の糸の集合体で撚り組む事で太さを自由に変えることが出来る。らしい。また、魔力の波長を変えて流すことで柔硬や伸縮性、蜘蛛の糸なんだから当然粘着性もあって、それがON/OFFの切り替えも出来る優れモノ。らしい。
特に硬化性には定評があって、鋼鉄の壁さえも貫くと云う。
全て蜘蛛が自らの武器として使うのであれば、の話しだけど。
残念ながら一般人に出来るのは、採取した糸の太さを特殊な生成で変える事だけ。それでも柔軟性と丈夫さにおいては秀抜だ。
僕等が向かう方向とは大きく異なるが『花魁蜘蛛の糸』の一大生産地があるらしく、そこでは糸を任意な形に造形できる門外非出の技術も持っており、小さいが凄く栄えた、古からの美しい街があるらしい。
行ってみたいとハナが駄々を捏ねてサキュバスっ娘を困らせていた。
では僕も物は試しと、魔力っぽい何かを流してみた(正確にはイメージしただけ。だって魔法なんてわかんねーもん)。上手くいけば硬化して尖った岩場でも簡単に踏破できる、高品質な靴の出来上がりだ。
結果はやっぱりの失敗。それも大失敗。
織組も何もかも全て解け、無数の細い糸屑に成下がり、あたりに雪の様に散らばって、消えた……。あらビックリ。二度と元には戻らなかった。持っていた縄の大半を失う羽目になり、ひどく怒られた。
俺のせいじゃねーし。
本当は靴まで編込み出来るぐらいの数量は有ったはずが、そんな訳でちびった草鞋になった。そんなに怒る事ネ―じゃん。ゴメンナサイ。
『花魁蜘蛛』は成虫でも足を広げて1m位にしかならない小型分類種だが、誰でも避けて通りたいネームド種だ。単体でも冒険者殺しとして恐れられている。
巧妙な一度嵌ったら抜け出せないエグいネバネバ系罠から、死角から迫りくる角度を曲げての針の如く細過ぎて見えない刺突技まで、隠蔽能力の高さも相まって気付いた時には終わってる的な単体でも厄介なそれが、時には集団で襲ってくる。
群体であるなら正しく死を司る最強レッド・カテゴリーへと昇格し愚者殺しの名に恥じない恐怖と成る。
だから、倒すことも、糸を採取することも難しく、『花魁蜘蛛の糸』は貴重だ。だからってさ、イイじゃんソコ迄抉ってこなくても。スイマセンデシタ。
因みにハナの姿はお貴族様御用達町娘風ドレスからヘビーデューティー且つちょっと綺麗めマスキュリンが入ったお洒落ハーディな動きやすい服装にチェンジしていた。靴だってマッチョで、でも酷く軽い魔物の素材をふんだんに注ぎ込んだ登山靴風のブーツだったりする。
ナニこの格差? いい加減に拗ねるぞ、そして泣くぞ。
訳は元々が攫ってきた高貴な婦女子に着せる為に最初から用意されていたからだった。
サキュバスっ娘付きの脱法国境越えを目的としていた為に食料・野営具類を含む森を踏破する為の装備一式は事前に用意されていた。勿論頂きました。人質用と見張り(たぶん黒フード男)の二人分だ。
あの大きな移転石でも距離を考えると二人が限界っぽいらしい。
見張り用を僕が頂いたが、衣類は入っておらず、上記の丁稚小僧スタイルとなった訳だけど、下着の替えくらい用意しておけよ、ただでさえモテそうにないのに、不潔男は余計に女子にモテナいぞ! “黒フード男”よ。と、ツッコまずにはいられない。
あー如何しよう、下着の替えが無いは辛い。正しくは褌一丁だけど。
自分の装備は自分が持つという冒険者のルールに従って各自に振りわけられ、僕は大荷物を背負わされている。
昭和の初めの二宮金次郎像を想像してほしい。児童虐待である。
それもあり、僕は疲労困憊だ。因みに二人は各自の『魔法の鞄』に全て収容し、手ぶらだ。狡い。
二人の『魔法の鞄』も含め、世に出回っている殆どのモノの容量はそれほどに大きくないみたい。
装備一式プラス飲食料分は楽々入るが、加えて僕の分の“水”を振り分けて持ってもらうだけで、あとは無理って程度。まあ、水は重いし容量も大きい。
だからラノベの『多機能風呂付き一軒屋』は土台無理な話で、夢の無い話で恐縮なんだけど、魔法の鞄はそれだけで松涛の豪邸一軒の値段な価値と同等な、超高額&超激レア品で、あるらしい。
それも、また燃費が最悪で維持費がクソ高いらしい。
侯爵家の娘であるハナは判るが、サキュバスっ娘が所有している事に失礼だが驚いていたが、『オババに借りた』らしい。
ちなみに『魔法の鞄』に入れるモノには術からず魔力を通した糸か括りつけられ、鞄の口から名前が書かれた札に繋がりブラ下っている。取り出す時はその札を引っ張り出す訳だ。
『ステータスオープン』なぞVRゲームじゃないんだから出来るはずもなく、頭に思い描いたらモノが出てくるはずもなく、酷く現実的で地味な仕組みだった。
紐で縛って井戸の底で冷やすスイカ状態って言えば分かり易いかも。
使う糸は超有能万能切れずに丈夫で魔力の通りがいい、っていうか唯一通せる『花魁蜘蛛の糸』オンリーだ。
魔法の鞄内にあっても魔力を通した糸なら粒子レベルで任意の物質と『量子の振る舞い』により関連性が強固され同期同化する事が出来る。
その一点だけで花魁蜘蛛の糸が最適とされた。何故ならストレージ内部は異次元化しており、全ての物質が量子単位に分解され、魔力と同化が出来ない普通の糸では任意体と魔法の鞄外の現世界との魔性的な関連性が失われて、異次元の海の中で行方不明となってしまうからだ。二度と取り出せない。
常時に渡り異次元の維持と糸に魔力を通し続けるとなると、やはりそれなりの量の魔晶石が掛かるのは必然だった。
『整理せずに闇雲に札を増やし糸が絡まる。最終的に何を入れたか判らなくなり、冷蔵庫の死蔵納豆化する』は魔法の鞄アルアルらしい。
地味過ぎて泣ける。転生冒険者ラノベを舐めてるのか!
それを避ける為にハナがやっている様に鞄in鞄な作戦がある。考え方はパソコンのフォルダー階層そのままだ。と言うものの、結局はご存じの通りに最終的にはやっぱりもう何が何やらの魔窟と成り下がるんだけど……。
僕も魔法の鞄が欲しくてダメ元で「何とかしてよド○〇もん」と似非大賢者様にお願いしてみたら、
『いや、まだ、ちょっと、魔法陣が……』
などと要領を得ず、情報が集まっていない等と言い訳して相変わらずのダメっぷりだった。使えない。
『アーカイブにはストレージ規範しかブツブツ……』『あれでは……ブツブツ……効率性が……ブツブツ』。『あれでは……あれは……』
何で背負い袋がこんなに重い。これだけでも何とかして。
因みに失われた古代魔法にて作成された“尊遺物”である超レア至高の『始祖王の鞄鞄』ではその容量は無限大、時間を止める事も出来たらしい。例のエアコン・キッチン・温泉、何でもありの食料庫付超高機能住宅の一棟でも二棟でもオーケーって事だ。
噓っぽい。絶対デマ。
でもね……。
似非に依ると実はスタンダードな魔法の鞄の理屈も物質の全てを量子まで分解する事から物理的な熱交換はもちろん、劣化という化学変化も起こさない。よって腐食や温度変化は起こり得ない。
はずが、長い時を経て、余計な“観念”が魔法の鞄に加わってしまったらしく、“物が腐らないのはおかしい”。“時間が止まるのは可笑しい”が顕現してしまっただけのようだ。
要は“思い込みだから。
魔法理論とか魔法体系整理とか皆無っぽいもんな。“痛系呪文”だし“陰陽系っぽい五行思想”だし。
そんな強固な思い込みに掛かる膨大な量の“余計で雑な回路”が全体的な負荷を与え、機能不全を起こしている。特に容量的に。
唯の鞄を“魔法鞄”へと変える為には燃料となる魔力を封じ込めた魔晶石と魔法を常時発動させる“魔法陣”が必要らしい。魔法陣もチマチマと手書きではなく、表象による“印契”を何層も重ね具象刻して創る。
熟練の腕と長い時間を掛け仕上げる職人の仕事らしいが、その“表象印契”も親から子への口伝での一子相伝で……まあ、変遷しちゃうわな。改善しようにも体系化された理論もないし。
だから改悪される前の始祖の“ストレージ”が持て囃されるわけだな。
もしこの話しが本当で、似非が魔法陣を解明できたなら始祖とは言わないまでも今の劣化版でもいいからコピーして量産は出来ないかな。そしたら大儲けできんじゃね。異世界豪遊旅確定じゃね⁉
頑張れ似非大賢者様。そしたら似非を取ってやってもいい。
ッて言うカ、そんな美味しい話があるならトットと造れヤ、コラ!
まあ、今は背中の大荷物をなんとかしてほしい。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
毎日更新しています。
果たして褌一丁から脱することはできるのか。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
◇
そして僕はフウフウ、ハアハアの逃避行という名の急登坂&急下山で疲労困憊、頭真っ白バーン。
なのに、何故にサキュバスっ娘は足取りも軽く、どうして既に日本語をマスターしてる? 感染による身体向上のギフトでもあるのか? 恐るべし腐女教団。
ちなみにハナの足取りも軽い。
これは僕も入信するべきか。イヤないな。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
第五基門・同軸亜次元領域を開放。
“高高速自動読取解析及び再構築付与【真魔眼】”と“同軸多重高速思考攻究編纂型疑似脳”を以て言語解析の“諸事自動研鑽研究及び仮想実験実装機関”を単独に立ち上げました。
古代文字をはじめ、あらゆる言語・その成り立ちから流布時系列構成を研究し明らかにしていきます。
さらなる研究の為の文字も含めての各種素材を所望します。データー不足による研究の停滞が見られます。よって一般言語の習得にはもう少々の猶予が必要となります。
と結論 ∮〉
おお、やっぱりな『言語チート、キター!』って言いたいけども、勝手に結論すな! 何を研究するって? そんなの求めてないよ。ただ目の前で喋べってる言葉を理解したいだけ。
早く喋らせて。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
言語の研究は地勢的歴史的観点からもこの世界の成り立ち及び現況の情勢に至る各国家の比較文化論の基礎データであり、現況を把握する必要最低限の知識です。疎かにはできません。
また、些細な言語の勘違いから最悪の戦争に発展する事態も有りえます。その成り立ちから正確に解析・理解する必要があると確信 。
と結論∮〉
マジ何言ってるかわからん。要らん、そんなモノ。そして後半は伝説巨神さんですか。“みなごろし”は関係ないし。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
投げやりで興味なし。
しかしながら大賢者による提案・採用が後の運命を大きく回転させる分水嶺であった事を、本人はまだ知らない。
来るべきその時、感涙に噎せる事だろう 。
と結論∮〉
却下。即。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
なぜに!
と結論∮〉
道なき道を這いずり進む。
ガールズなトークな腐的浸透汚染に疲弊感を深めつつ今日も今日とて逃避行に勤しむ僕。
精神的、且つ肉体的にもうイヤです。
もーね、休みたい。
やっぱり不思議なのはサキュバスっ娘は勿論、ハナにしてもそんなに疲れた様子が見られない。何故だ。
「侯爵令嬢の責務として常に鍛えているから」とハナの談。
「冒険者として当然だろう」とはサキュバスっ娘。
それだけじゃないだろ。絶対違うだろ。
やはり此方の世界の人たちは元の世界の日本人と比べるとより身体的拡張性が高いと感じる。体力的にも耐久性においても。
何より、身体スケールも一割増強程度には大きい。単純に人種的な違いか、或いはこの世界での魔力を受容出来るか出来ないかの違いか?
元々が虚弱体質気味の僕は抗議したい。ずるいじゃないかと。特にもうちょっと背が欲しいと。異世界全然関係ないけど。
森の中を歩くのに(特に安全性という意味で)裸のままなのは如何なものかと、サキュバスっ娘の替えのコートを借りた。その際、酷く嫌な顔をされた。これでもかってくらいに嫌な顔をされた。
「“お気に”のコートだったけど、もう着れないわね。もう返さなくていいから」と言われた。
確かに値の張りそうな黒く艶やかな黒いロングコートだ、って、オマエもか! さすが主従、気が合うなオイ‼
うん、意地でも返しますよ。洗濯せずに絶対。
しかし、デカい。このコート。サキュバスっ娘の身長は百八十センチを僅かにこえるか? 僕はだいたい百三十センチ位。その差は五十センチ。そりゃ裾を擦るって。
やっぱりサキュバスっ娘、背、高すぎ問題。それでも異世界では普通らしい。
ところで、黒のロングコートって言ったら偉大なる伝説の『剣技で接続』桐ケ谷先輩ですが、こっちはどう見ても、真ッ裸にコートの古の紳士、それも矮小版が此処にいた。
「イイもの見せてあげようか」って言っちゃいそう。
自分で言って落ち込む。だって似合ってんだもん。貧相身体で矮小版なのが特に偏狂っぽい感じがマシマシで。
そこで見た目と動きやすさを考え、裾を端折り腹で縄を巻いて留め、袖も限界まで折返して長さを調整してみた。股下からハナのカーディガンを巻いて留めた褌が垣間見えている。
足は自らが編んだ草履履き。
結果、イケナイ紳士から出来の悪そうな丁稚小僧にジョブチェンジしていた。そうですか。異議申し立ての受付は何処ですか?
草履は自分で編んだ。冒険者の必須アイテムである『花魁蜘蛛の糸』をサキュバスっ娘から貰い、小学生の頃の体験学習で習った技を屈指した。例の如く僕は体験学習の事さえ忘れていたが、それが何か? ダマレ似非大賢者。
この『花魁蜘蛛の糸』は優れものだ。酷く軽く、極細の糸の集合体で撚り組む事で太さを自由に変えることが出来る。らしい。また、魔力の波長を変えて流すことで柔硬や伸縮性、蜘蛛の糸なんだから当然粘着性もあって、それがON/OFFの切り替えも出来る優れモノ。らしい。
特に硬化性には定評があって、鋼鉄の壁さえも貫くと云う。
全て蜘蛛が自らの武器として使うのであれば、の話しだけど。
残念ながら一般人に出来るのは、採取した糸の太さを特殊な生成で変える事だけ。それでも柔軟性と丈夫さにおいては秀抜だ。
僕等が向かう方向とは大きく異なるが『花魁蜘蛛の糸』の一大生産地があるらしく、そこでは糸を任意な形に造形できる門外非出の技術も持っており、小さいが凄く栄えた、古からの美しい街があるらしい。
行ってみたいとハナが駄々を捏ねてサキュバスっ娘を困らせていた。
では僕も物は試しと、魔力っぽい何かを流してみた(正確にはイメージしただけ。だって魔法なんてわかんねーもん)。上手くいけば硬化して尖った岩場でも簡単に踏破できる、高品質な靴の出来上がりだ。
結果はやっぱりの失敗。それも大失敗。
織組も何もかも全て解け、無数の細い糸屑に成下がり、あたりに雪の様に散らばって、消えた……。あらビックリ。二度と元には戻らなかった。持っていた縄の大半を失う羽目になり、ひどく怒られた。
俺のせいじゃねーし。
本当は靴まで編込み出来るぐらいの数量は有ったはずが、そんな訳でちびった草鞋になった。そんなに怒る事ネ―じゃん。ゴメンナサイ。
『花魁蜘蛛』は成虫でも足を広げて1m位にしかならない小型分類種だが、誰でも避けて通りたいネームド種だ。単体でも冒険者殺しとして恐れられている。
巧妙な一度嵌ったら抜け出せないエグいネバネバ系罠から、死角から迫りくる角度を曲げての針の如く細過ぎて見えない刺突技まで、隠蔽能力の高さも相まって気付いた時には終わってる的な単体でも厄介なそれが、時には集団で襲ってくる。
群体であるなら正しく死を司る最強レッド・カテゴリーへと昇格し愚者殺しの名に恥じない恐怖と成る。
だから、倒すことも、糸を採取することも難しく、『花魁蜘蛛の糸』は貴重だ。だからってさ、イイじゃんソコ迄抉ってこなくても。スイマセンデシタ。
因みにハナの姿はお貴族様御用達町娘風ドレスからヘビーデューティー且つちょっと綺麗めマスキュリンが入ったお洒落ハーディな動きやすい服装にチェンジしていた。靴だってマッチョで、でも酷く軽い魔物の素材をふんだんに注ぎ込んだ登山靴風のブーツだったりする。
ナニこの格差? いい加減に拗ねるぞ、そして泣くぞ。
訳は元々が攫ってきた高貴な婦女子に着せる為に最初から用意されていたからだった。
サキュバスっ娘付きの脱法国境越えを目的としていた為に食料・野営具類を含む森を踏破する為の装備一式は事前に用意されていた。勿論頂きました。人質用と見張り(たぶん黒フード男)の二人分だ。
あの大きな移転石でも距離を考えると二人が限界っぽいらしい。
見張り用を僕が頂いたが、衣類は入っておらず、上記の丁稚小僧スタイルとなった訳だけど、下着の替えくらい用意しておけよ、ただでさえモテそうにないのに、不潔男は余計に女子にモテナいぞ! “黒フード男”よ。と、ツッコまずにはいられない。
あー如何しよう、下着の替えが無いは辛い。正しくは褌一丁だけど。
自分の装備は自分が持つという冒険者のルールに従って各自に振りわけられ、僕は大荷物を背負わされている。
昭和の初めの二宮金次郎像を想像してほしい。児童虐待である。
それもあり、僕は疲労困憊だ。因みに二人は各自の『魔法の鞄』に全て収容し、手ぶらだ。狡い。
二人の『魔法の鞄』も含め、世に出回っている殆どのモノの容量はそれほどに大きくないみたい。
装備一式プラス飲食料分は楽々入るが、加えて僕の分の“水”を振り分けて持ってもらうだけで、あとは無理って程度。まあ、水は重いし容量も大きい。
だからラノベの『多機能風呂付き一軒屋』は土台無理な話で、夢の無い話で恐縮なんだけど、魔法の鞄はそれだけで松涛の豪邸一軒の値段な価値と同等な、超高額&超激レア品で、あるらしい。
それも、また燃費が最悪で維持費がクソ高いらしい。
侯爵家の娘であるハナは判るが、サキュバスっ娘が所有している事に失礼だが驚いていたが、『オババに借りた』らしい。
ちなみに『魔法の鞄』に入れるモノには術からず魔力を通した糸か括りつけられ、鞄の口から名前が書かれた札に繋がりブラ下っている。取り出す時はその札を引っ張り出す訳だ。
『ステータスオープン』なぞVRゲームじゃないんだから出来るはずもなく、頭に思い描いたらモノが出てくるはずもなく、酷く現実的で地味な仕組みだった。
紐で縛って井戸の底で冷やすスイカ状態って言えば分かり易いかも。
使う糸は超有能万能切れずに丈夫で魔力の通りがいい、っていうか唯一通せる『花魁蜘蛛の糸』オンリーだ。
魔法の鞄内にあっても魔力を通した糸なら粒子レベルで任意の物質と『量子の振る舞い』により関連性が強固され同期同化する事が出来る。
その一点だけで花魁蜘蛛の糸が最適とされた。何故ならストレージ内部は異次元化しており、全ての物質が量子単位に分解され、魔力と同化が出来ない普通の糸では任意体と魔法の鞄外の現世界との魔性的な関連性が失われて、異次元の海の中で行方不明となってしまうからだ。二度と取り出せない。
常時に渡り異次元の維持と糸に魔力を通し続けるとなると、やはりそれなりの量の魔晶石が掛かるのは必然だった。
『整理せずに闇雲に札を増やし糸が絡まる。最終的に何を入れたか判らなくなり、冷蔵庫の死蔵納豆化する』は魔法の鞄アルアルらしい。
地味過ぎて泣ける。転生冒険者ラノベを舐めてるのか!
それを避ける為にハナがやっている様に鞄in鞄な作戦がある。考え方はパソコンのフォルダー階層そのままだ。と言うものの、結局はご存じの通りに最終的にはやっぱりもう何が何やらの魔窟と成り下がるんだけど……。
僕も魔法の鞄が欲しくてダメ元で「何とかしてよド○〇もん」と似非大賢者様にお願いしてみたら、
『いや、まだ、ちょっと、魔法陣が……』
などと要領を得ず、情報が集まっていない等と言い訳して相変わらずのダメっぷりだった。使えない。
『アーカイブにはストレージ規範しかブツブツ……』『あれでは……ブツブツ……効率性が……ブツブツ』。『あれでは……あれは……』
何で背負い袋がこんなに重い。これだけでも何とかして。
因みに失われた古代魔法にて作成された“尊遺物”である超レア至高の『始祖王の鞄鞄』ではその容量は無限大、時間を止める事も出来たらしい。例のエアコン・キッチン・温泉、何でもありの食料庫付超高機能住宅の一棟でも二棟でもオーケーって事だ。
噓っぽい。絶対デマ。
でもね……。
似非に依ると実はスタンダードな魔法の鞄の理屈も物質の全てを量子まで分解する事から物理的な熱交換はもちろん、劣化という化学変化も起こさない。よって腐食や温度変化は起こり得ない。
はずが、長い時を経て、余計な“観念”が魔法の鞄に加わってしまったらしく、“物が腐らないのはおかしい”。“時間が止まるのは可笑しい”が顕現してしまっただけのようだ。
要は“思い込みだから。
魔法理論とか魔法体系整理とか皆無っぽいもんな。“痛系呪文”だし“陰陽系っぽい五行思想”だし。
そんな強固な思い込みに掛かる膨大な量の“余計で雑な回路”が全体的な負荷を与え、機能不全を起こしている。特に容量的に。
唯の鞄を“魔法鞄”へと変える為には燃料となる魔力を封じ込めた魔晶石と魔法を常時発動させる“魔法陣”が必要らしい。魔法陣もチマチマと手書きではなく、表象による“印契”を何層も重ね具象刻して創る。
熟練の腕と長い時間を掛け仕上げる職人の仕事らしいが、その“表象印契”も親から子への口伝での一子相伝で……まあ、変遷しちゃうわな。改善しようにも体系化された理論もないし。
だから改悪される前の始祖の“ストレージ”が持て囃されるわけだな。
もしこの話しが本当で、似非が魔法陣を解明できたなら始祖とは言わないまでも今の劣化版でもいいからコピーして量産は出来ないかな。そしたら大儲けできんじゃね。異世界豪遊旅確定じゃね⁉
頑張れ似非大賢者様。そしたら似非を取ってやってもいい。
ッて言うカ、そんな美味しい話があるならトットと造れヤ、コラ!
まあ、今は背中の大荷物をなんとかしてほしい。
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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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