ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第十四章 礼拝堂で

一年ぶりも.....

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 幸い、翠の話では、この一年、僕が佑夏をアリエルに乗せていないのは、教員採用試験の一次試験が近いからだったと、ヤマネ姫は考え、他意は無いものだと思っていたそうだ。

 果たして、一年ぶりの乗馬デートに誘うと、彼女は「待ってました!」とばかりに喜んでくれる。

 当日、駅の改札口の前にある、武士の銅像の待ち合わせスポットで、僕達は手を振り、笑顔で顔を合わせる。

 久しぶりに見る、佑夏のポニーテールにジーンズ姿が眩しく、髪の白い貝殻がキラキラと輝いている。

 ところが、二人で切符売り場に向かおうという時になって、通話の着信音が.......。

 なんだよ、こんないいところで!無視して出ないか?

 が、スマホの画面表示を見て、そんな訳にはいかないと思ってしまう。

「ヒロトか?どうした?」

 聞こえてくるのは、半ベソの少年の声。

(うう、中原先生.......。)

 教員実習で、イジメに遭っていた生徒、もしもの時の為に連絡先を教えておいた。

(お、俺、もうダメです。家にも帰れないんです。)

「何があったんだ!?今、何処にいる?」

(.........○○公園です。)

 あー!ったくもう!一年ぶりのデートだってのに、こんな時に!
 担任の千葉先生に任せて、このまま、佑夏と出掛けてしまおうか?

 だが、次に僕の口から出た言葉は、

「佑夏ちゃん、ゴメン!今日は行けなくなった!この埋め合わせは必ずするから!」

 彼女は既に、今の会話の内容から、状況は察している。

「教育実習の時の生徒の子?今から行くの?」

「うん、そうなんだ。学校に近くの公園にいる。」

 ここから、バスの待ち時間を入れたら、早くても一時間はかかる。

「中原くん、私、タクシー代あるから!」

 え?

「こういうことは、急がないと、手遅れになっちゃうのよ!早く!」

 佑夏が先を切って、速足で歩き出し、僕をタクシー乗り場に促す。

 そして、客待ちのタクシーに、彼女は僕より先に乗り込んでしまう。

 ついて来いって、言ってないんだけど?

 タクシーの中で、僕はクラブに、キャンセルの連絡を入れる。
 なに、スタッフだし、キャンセル料はかからないよ。

 公園のすぐ脇に着けたタクシーを降りると、ベンチに座って、この世の終わりといった様子で頭を垂れている少年がいる。

「ヒロト!」

「ヒロトくん!」

 僕と佑夏が、彼を挟んでベンチに座ると、ようやく彼は顔を上げてくれる。

「おい、何があったんだ?話してみろ。」

 僕は、この中学生の肩に手を当てる。

「中原先生、コレ.........。」

 力なく、差し出されるスマホに映し出されるLINEの画面。

 そこは、
「死ね!」「学校来るな!」「これ以上、生きられないようにしてやる!」
 といった、罵詈雑言でビッシリと埋めつくされている。



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