ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第十章 幸せのキャンパスライフ

幸せの武術家

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 年も明け、正月から二週間が過ぎ、厳冬の東北地方。

 奥羽山脈から吹き降ろす風の冷たさには、僕の住む町は定評がある

 庭木に来る雀やエナガの群れが、寒さで身体を目一杯、膨らませている。

 こんな折り、僕の合氣道教室に、他の教室から、一人の40代の男性が移籍して来る。

「すいません、皆さんがお帰りになった後、中原先生と、鈴村先生とだけ、お話がしたいのですが?」
 
 この人のこの申し入れ、断る理由はなく、むしろ、立場上、聞かなくてはならない。でも、何だろ?

 そして、全員が帰り、僕と千尋と、彼だけになり、三人で正座をして、向かい合うことに。
 
 この新しい入門者が所属していたのは、県最大の大きな道場で、県内至る所に支部がある。

「実は、前の◯◯道場では、入会金と月謝の他に、一回三万円もする講習会に参加を強要され、断ると扱いがおざなりになって、ロクに教えてもらえなかったんです。」

「ええ!?本当ですか!?」

 この証言に、僕と千尋は、驚きの声を合わせてしまう。何だよ、それ!?霊感商法じゃないんだって!

「はい。他にも、支払ったお金が適切に使われていなかったり、ということもありました。
 指導も叱責ばかりで、何も教わった氣がしません。」

 それを聞いて、「そんなの、合氣道じゃない」と言いたげに、千尋は労りの声を出す。

「そんなに、酷かったんですか?お氣の毒でした。」

 美少女に、労いの声をかけられ、いくらか氣を取り直したようであるが、彼の口から出て来るのは、まだまだ耳を疑いそうな惨状である。

「他にも、私は木刀を跨いでなどいないのに(合氣道では武具を跨ぐ行為は礼に反するとして禁じられている)、指導員に、“自分の木刀を跨いだ“と、ありもしない言い掛かりをつけられて、ヤクザのように凄まれたりしました。」

「何なの!?それ!?信じられない!中原先輩、抗議しましょう!」

「鈴村さん、他の教室にまで、口出しはできないよ。」

 憤る千尋を、何とか宥める。

「それが、こちらの教室に来てみますと、大変、丁寧に教えていただけて𠮟責もなく、月謝も、こんなに安くていいのだろうか、という金額ですし、本当にありがとうございます。

 お若いのに、中原先生と、鈴村先生の腕前も、前の教室の指導員より、はるかに上です。
 さすが、恋人同士であられるだけあって、指導の息もピッタリですね。」

「え?」

 僕と千尋は顔を見合わせてしまう。

「ハハハ、私と鈴村さんは、そんな関係じゃありませんよ。」

「そうなんですか?いつもご一緒で、あまりにお似合いですから、てっきり恋人同士だと思ってました。」



「だってさ~!参ったよ、ハハハ!」

 自分の部屋で、膝に楓を抱きながら、ぽん太を抱いている佑夏に、僕は笑いかける。

「ふふ。その人、中原くんの教室に来れて良かったね。」

 と、姫は微笑んでくれるけど。

 後日譚。

 この時、彼女の頭の中を覗いていた怪猫ぽん太によれば、
「鈴村さんは、あなたと恋人同士と言われて、どんな顔してたの?
 他の人から見て、あなたと鈴村さんは、そんなに親密で、お似合いなの?」

 と、ずっと氣にかけてくれていたそうだ。

 ありがとう、佑夏ちゃん、愛してるよ! 
 
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