ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第七章 嵐の夜に

台風の中心で歌を歌う

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「良かったね~!モナちゃん!」
 ココアを載せた盆を下ろしながら、僕は苺奈子ちゃんに祝辞を述べる。

 確かに、素晴らしい出来だが、いくら約束だからって、こんな嵐の中、来なくても。
 佑夏ちゃん、帰り、どうするの?

 この、あばら家は台風の雨と風で、ガタガタと揺れ続けているのに。
 それを姫は全く氣にした様子もなく、三人でココアを飲んだ後、

「じゃあ、中原くん、モナちゃんを抱っこして、こっちに来てもらおうかな?」

 佑夏が示したのは、部屋の端の角である。

 言われるまま、僕は、そこにアグラで座り、膝の上に苺奈子ちゃんを乗せる。

 佑夏は「女の子座り」で、僕達の正面に座ると、
「いいかな~!?モナちゃん!はじっコらいふ、の歌、歌うよ~!」

「♪はじっコ はじっコ はじっコらいふ♬
 ♫はじっコ はじっコ はじっコらいふ♫」

 姫は、利き腕の左手に「かもめ」のぬいぐるみを持ち、右手の掌を僕達に見せ、肩を左右に揺らしながら、持ち前の美声で歌い始めて。

 暴風雨の中、部屋に優しい光が差したように、場が明るくなる。

 もちろん、僕は初めて聞くが、何とも可愛らしい歌だ。

「 ♬ホッとするのは はじっこなんです
 家でも どこでも お店でも♪」

 この歌を、苺奈子ちゃんは、知っているようだ。
「みけねこ」のぬいぐるみを手に、ニコニコしながら、佑夏に合わせて、僕の膝の上で歌っている。
 やっぱり、身体を姫のように、左右に揺らしているが、この子は声と仕草が天使のように可愛らしい。

 「ここが好きです 動けないんです♬
 ♪はじっコらいふ ここが ホッとするんです」

 僕は、この歌を全然知らないが、「はいいろくま」のぬいぐるみを持って、調子を合わせている。
 ついつい、笑顔になってしまっているのは仕方ない。
 姫に乗せられるのは、いつものことだ。外は台風だというのに。

 そして、サビの部分、ここから早くなる。
 佑夏は、顔を苺奈子ちゃんに近づけて
 
「暑がりで  大人しくて 強くない♬
 ♪引っ込み思案で ホラ吹いて 干されちゃった...?
 見られたくないから いつも のんびり生きている♪」

 苺奈子ちゃんは、アハハ~!アハハ~!と弾けるような笑顔になっている。 
 もう、吹き荒れている台風のことは、頭に無いようだ。

 「はじっコ はじっコ ぼっちじゃないんです♪ 
 はじっコ はじっコ くっついちゃうんです♬」

 ここで、ぽん太が呼んでもいないのに
(しょうがねえな。オレも行ってやるよ。)
 のそのそと寄って来て、佑夏の膝の上に乗る。

 さらに、このデブに呼び寄せられたのか、レオナと三毛猫の楓まで集まって来て、嵐が吹き荒れる中、僕達は肩を寄せ合い、一つになる。
           
 「♪はじっコ これが ホッとするんです    
 はじっコ とっても はじっコらいふ はじっコらいふ♬」

 雨さえ浄化しそうな、愛に満ちたみんなの笑顔と、台風より大きな一体感。
 佑夏のいる場所は、いつも必ずこうなるのである、
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