ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第七章 嵐の夜に

幸せの台風

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 県会議員、下田欲蔵氏の一件から、一ヶ月が過ぎ、10月になると、もうすっかり、秋も深まっている。

 僕の部屋で、雑種犬・レオナと遊ぶ従妹の苺奈子ちゃんは、可愛さ満点である。

「レオナちゃん、レオナちゃん、アハハ~!」

 母犬が仔犬をあやすように顔を舐めてもらって、苺奈子ちゃんはご機嫌だ。

 現在は不妊手術済みだが、レオナには、出産と子育ての経験がある。
 幼児の世話など、お手の物といった様子。

(おい、ジンスケ。苺奈子コイツ、今日の夜、泣くだろ?ちゃんと、オレを寝させてくれよ。)

(ぽん太、勝手なこと言うな。お前だって手伝え。)

 ここまで、苺奈子ちゃんは、数え切れないくらい預かっている。
 しかし、全て日帰りだった。

 だが、今日は、苺奈子ちゃんの母親である僕の叔母が精密検査の為、一昼夜の入院になり、初の泊まりでの預かりで、僕も不安に感じている。
 ご主人は、出張で、先週から留守にしているのである。

 やっぱり、いつもより長い預かりの時間に、苺奈子ちゃんはソワソワし始め

「ジンシュケにいちゃん、ゆーかねーちゃんは~?」

「佑夏お姉ちゃんは、今日は来ないよ。台風が来てるからね。」

 現在、午後3時、「10年に一度」とされる大型台風が接近中である。
 既に、風と雨足が強まり、今晩、深夜には暴風域に入る予報だ。

「ちゅまんないな~。モナ、ゆーかねーちゃんと、あそびたいな~。」

「モナちゃん、仕方ないんだ。佑夏お姉ちゃんは、大学がっこうのお勉強もあるからね。
 そんなには、来られないんだよ。」

 本当は、今日は、佑夏がぽん太の世話をしに来る日に当たっていた。
 だが、朝の内に「台風だから、今日は来ないで」と、姫にLINEを送ったのである。

「だって、ゆーかねーちゃん、こんど、モナに、はじっコらいふ、ちゅくってくれるっていったんだも~ん。」

「ああ、そうだったね。大丈夫、次にモナちゃんに会う時に、持って来てくれるよ。」

 この前に、苺奈子ちゃんと顔を合わせた際、今度来る時までに、佑夏はキャラ物「はじっコらいふ」の、ぬいぐるみを作ってあげると約束していた。

「モナ、はじっコらいふ、いまほしいの~!ゆーかねーちゃん、きょう、くるっていったのよ~!」

 幼児のくせに、約束の日付まで正確に覚えてるのか?侮れないな。

「モナちゃん、ワガママ言わないの!」

 と言ったものの、ちょっと氣になるのは佑夏からのLINEの返事は「モナちゃん、今日来る?」だったことだ。
 僕はすぐに「お母さんが入院だから(台風でも)必ず来る」と返している。

 それに対する姫の答えが「は~い!」って、どういうことだ?まさか.........!?

 実は、叔母は病気になる前はご主人と共働きで苺奈子ちゃんを育てていた。
 しかし、現在は働けなくなり、世帯収入はガタ落ちの上、伯母本人の医療費もかかる。

 生活は苦しく、苺奈子ちゃんは以前のようにオモチャを買ってもらえなくなって、欲求不満がたまっている。
 優しい佑夏は、それを肌で感じているのが、僕には分かっている。

 だから、指人形に続いて、ぬいぐるみまで、作ってあげたくなったんだな。

 でも、だからといって?いや、胸騒ぎがしてしまう。

 ますます台風の轟音が強くなってきた頃、玄関の呼び鈴が鳴る。

 !僕の懸念が当たったのは、もう間違いない!

「じゃ~ん!サプライズ登場で~す!モナちゃん、どこ~!?」

 幼児との約束を守る為に、ずぶ濡れの佑夏が舞い降りたのである。
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