ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第七章 嵐の夜に

港町の病棟

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 ディーンフジオカ添乗員が、東山さんに提案する。
「先生、どうでしょう?白沢さんと理夢さんが来るまで、今回のこの企画について、水野さんから、ご説明いただいては?」

「ああ、そうですね!水野さん、いかがです?」
 東山さんも、納得している。どういうことだ?

「ええ!?私ですか?」
 言われた本人、横浜のナース、水野葵さんは、ひどく戸惑っている。そりゃ、そうだな。

 ちょうど、その時、宿のスタッフが三人で、お盆に紅茶と果物を載せて、持って来てくれる。

 さっき、我々が「南極の話が聞きたいから」という理由で、この場に残ることになっていた、女将さんはそのまま席に着く。
 この人は40代後半くらい?東山さんよりは、ずっと若い。
 この初老の動物カメラマンとの親しげな様子、やはり、昔からの知り合いだけある。

 佑夏と理夢ちゃんの分の紅茶は、冷めてしまうから、また二人が来てから淹れ直して持って来ると、男女一名ずつの他のスタッフは引き上げて行く。

「実は、水野さんのたっての希望で、当社のこのツアーが実現したんです。」
 添乗員が、そう説明する。

 ヤマネの写真集の出版社に「どうしても、東山さんに会いたい」と、水野さんが熱望した話は、つい二時間ほど前、佑夏と星空を観に行った際、姫から聞いたばかりだ。

 しかし、他のメンバーは初耳だったらしい。ひどく驚いている。

「は、はあ。私、病院きんむさきのロッカーに、東山先生のヤマネの写真集入れて、休憩時間に見てるんです。」
 そう語るナース嬢。これも、佑夏から聞いた通り。

 高層ビルの立ち並ぶ大都市で暮らしているのは、今日の参加者の中で、横浜市内在住の水野さんと、東京から来た山田さんだけ。
 ちょっと、山田さんを見てみると、水野さんをジーッと不気味な目で睨むように、見続けているじゃないか。
 やはり、この人は怪しい。

「それで、出版社の方から、私に話が来ましてね。
 写真集の読者の方で、どうしても会っていただきたい方がいる、とのことだったんですよ。」
 回想する、東山さん。

「キャー!すいませ~ん!」
 恥ずかしさで、横浜の看護師さんは、両手で顔を覆ってしまう。

「今までもね、読者の方が私に会いたいというお話は何度かあったんです。
 しかし、全てお断りしていました。」
 東山さんの対応は、もっともだ。

「そら、まあ。そうでしょうな。」
 と、ルミ子さんが言うまでもない。

「今回も、最初はお断りしたんです。
 ところが、出版社の担当さんがね、“今回だけは、絶対に会って下さい。“と言って、折れないんですよ。」
 東山さんは振り返る。
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