ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

文字の大きさ
上 下
116 / 305
第五章 天の川を一緒に歩こ!

弟君と①

しおりを挟む
 インターバルの間、水分補給しながら、隼君と話をする機会があった。
 グランド脇、二人で座り込んで。

 子供達は、今度はキャッチボールをしたり、鬼ごっこしたりして、好きに遊んでいる。

「中原さん、どうして高校では、サッカー続けなかったんですか?あんなに上手いのに?」
 隼君は、首を傾げている。

「高校になると、遠征もあるしね。金がかかるから。授業料もタダじゃなくなって、バイトして自分で払ってたんだよ。
 家が貧乏だから、部活までは無理だった。」
 佑夏達のしている卓球の音を聞きながら、僕は答える。

「ああ、そうだったんですか。すいません。」
 隼君は、゛聞いてはいけないことを聞いてしまった“という表情である。
 ひどく、悪そうに思ってくれているようだ。

 都会育ちの少年なら、馬鹿にしてくるんじゃないか?
 いかにも、田舎の純朴な中学生といった感じの隼君。

 こんなところ、人の良さも、やっぱり佑夏の弟である。

「でも、姉ちゃんが。
 中原さんのこと、家が裕福じゃないのに、少しも腐らずに、大学まで行って学ぶ氣持ちを捨てなくて、学費まで自分で払って、立派な人だって、いつも言ってます。」
 隼君の、この言葉に、僕は驚かされる。

「え?佑........お姉さんが、そんなこと言ってるの?」

 子供がキャッチボールをしていたボールが、足元に転がって来る。
 それを投げ返しながら、僕は隼君に尋ねた。

「はい。そうなんです。
 それと、中原さんは恵まれた生まれじゃないから、周りの人が、今、何をして欲しいのか、すごく敏感に感じ取れる、って。
 サービス精神と、奉仕の心がある人だって、すごく褒めてます。
 お坊ちゃんじゃ、ああはいかないと思う、とも言ってました。」

「そ、そう?アハハ?」
 こりゃ、僕もまんざらでもない。

「午前中、エリカちゃんが川に落ちて、中原さんが助けた時も、姉ちゃん、゛中原くんって、ああいう心配りができる人なのよ~!“って。嬉しそうに笑ってましたよ。」

 いいじゃないか、佑夏の中原仁助評。
 嬉しいが、褒められっ放しもなんだな、ちょっと話題を相手のことにしよう。
「隼君も、県教大ケンキョー行って、先生になるの?」

 午後の日射しは強いが、僕達は木陰に入っている。

「い、いえ。姉ちゃんみたいに、頭良くないんで。
 大学は厳しいです。」
 頭をかく弟君。

「それじゃ、高校出たら、養魚場いえ、継ぐのかな?」
 僕が進路相談してどうする、という氣もするが。

「さあ?お父さんは何も言わないし、まだ決めてません。
 でも、継ぐにしても、いきなりでなく、一度は家を出ようと思ってます。」
 そう答える隼君。

「うん、そうだね。それがいいよ。」
 僕も相槌を打つ。

 優しい佑夏を見れば分かるが、白沢家は、子供に何かプレッシャーをかけたり、本人の意にそぐわないことを強制したりはしない家風のようだ。

「姉ちゃんも、一人暮らしは、めっちゃいい経験になるって言ってます。」
 目を輝かせる隼君は、大分、「お姉ちゃん子」だったようだな。
 心から、佑夏を尊敬している様子がありあり。

 そりゃ、あんな優しくて面倒見のいい姉は、そういないだろう。

「昨日、姉ちゃんが、中原さんは苦労した人の特徴で、誰にでも面倒見が良くて、親切だ、一緒にサッカーしてみれば分かる、って言うんで。」
 そんな話、隼君としてたのか!?佑夏ちゃん!?

「俺、姉ちゃんに小野伸二の動画、見せてみたんです。
 そしたら、姉ちゃん、“うん、この人!中原くんに感じ似てる!顔は全然、似てないけど゛って。」

 小野.......伸二?
 佑夏ちゃん、君には、僕がサッカー界のレジェンドに見えるのか?
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...