ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第三章 幸福論の四季

幸せのサツマイモ

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 お昼に、何とかカレー作って、苺奈子ちゃんと食べたばかりなんだけど。

「ジンシュケにいちゃん、モナ、おなかすいた~!おやつ、はべたい~!」

 苺奈子ちゃんは、まだ「食べる」と言えなくて「はべる」と言う。
 それはカワイイ、が。

「ジンシュケにいちゃん!おやつ~!」

「モナちゃん、カレー食べたばっかりだよ?」

 でも、おやつ、おやつと言って聞かない苺奈子ちゃん。
 ん~、困ったな~。

 貧乏な我が家には、お菓子の買い置きなど、氣の効いたものは無い。

 中学時代、たまたま家に来た同級生に、そのことをバカにされて嫌な思いをしたことがある。
 本当に、ロクなことが無かった中学時代。

「中原くん、私、何か作ろうか?」
 苺奈子ちゃんのほっぺたを、指でツンツンつつきながら、佑夏が笑う。

「え?」
 ウチは貧乏だ。ロクなもの、無いんだけど?

 しかし、たまたまサツマイモが、箱で二箱もある。

 苺奈子ちゃんのお父上が今朝、出勤を遅らせ、車で苺奈子ちゃんを送って来た時に、お礼にと置いていったのだ。

 ご主人の実家は、サツマイモの有名産地にある。

 車に同乗していた叔母を、彼はそのまま病院に連れて行った。

 ぽわ~んとした、そのサツマイモの、甘い香りが満ちてくる。

 台所に立つ佑夏を見るのは初めてだ。

 いやー!それがひどくサマになっていて美しい、手際もいい。
 さながら、「料理の妖精」という称号が相応しいかと思う。

 トントントン!と包丁の音も、まるで心地良い音楽のように聞こえたことを、はっきり覚えている。

 包丁を持つ手が左...........、左利きなのか。

「ゆーかねーちゃん!モナもおてつだいするー!」
 チョコマカ、チョコマカ、佑夏の足元を、行ったり来たりの苺奈子ちゃん。

 苺奈子ちゃんは、大変な働き者である。
 これは、僕も氣付いていること。

 普通の幼児だったら、こんな時、遊び回っているだろう。

 だが、苺奈子ちゃんは、ここに来るといつも、掃除洗濯の手伝いを一生懸命してくれる。
 まだ、こんなに小さいのに。

 佑夏はニコニコして
「それじゃ、コレやってもらおうかな~?」
 できたお菓子を丸めたり、苺奈子ちゃんにもできることを任せていく。

 蟹座生まれの人は、天性の料理人である。
 佑夏も、その例に漏れない。

 同じ材料と器材で調理しても、蟹座が作ると極上の味になってしまうのが、不思議な事実。

「できた~!はべよ~!」
 苺奈子ちゃんは、はしゃぐ。
 小さな手で丸められたサツマイモのお菓子は、見るからに美味しそう。

 サツマイモを使って、あっという間に、佑夏は三品ものお菓子を作ってくれた。
 美人なだけじゃなくて、有能な人なんだな~、天才だよ。

 畳の部屋のローテーブルでおやつの時間となる。
 アグラの僕の膝の上で、苺奈子ちゃんは「おいし~!おいし~!」を連発している。

 うおー!!!
 僕も、あまりの美味さに卒倒しそうになり、がっついて食べたくなるが、これでも武術家のはしくれ、品位を保って食べなくては。
 しかし、それがとてつもなく困難に感じられるくらい、美味い!

 さらに、佑夏は庭のハーブを使って、ハーブティーを淹れてくれたが、これがまたどうして、蟹座が淹れるとこんなに美味しくなってしまうのだろう?

「お砂糖、特に小さい子に良くないから、使ってないの。レオナちゃんにも大丈夫よ。」

 佑夏がそう言うので、レオナを見てみると、大人しいこの犬が、珍しくヨダレを垂らしてハッハッいっている。
 お菓子を手のひらに乗せて差し出してやると、尻尾をブンブン振って、猛然とがっつく。

 そりゃ、これだけ美味いとな~。

「ゆーかねーちゃん!」
 口を大きく開けて、苺奈子ちゃんが「お口に入れて」のポーズをする。

「あら、モナちゃん、甘えん坊だな~!はい、あ~ん。」
 僕と膝がくっつきそうな距離まで、佑夏が近づき、苺奈子ちゃんの口にお菓子を入れてあげる。

 ドキドキするよ、佑夏ちゃん。
 しかし、なんか、夫婦みたいだな。

 こんな美人で優しくて、料理も上手い子と結婚できる男は幸せだよ。

 この時の僕は、まだ客観率100%で他人事のように、そんなことを考えていた。

 色とりどりの庭のコスモスが秋風に揺れる午後、夢みたいだ。

 佑夏に、口にお菓子を入れてもらった苺奈子ちゃんは、口をモグモグさせつつ、両手でパチパチ、彼女に拍手を送っている。
 もちろん、ニコニコ満面の笑み。

 苺奈子ちゃんは、仕草の一つ一つがハンパなく愛らしい、そして、声がこの世のものとは思えないくらいカワイイのである。

 お父様が、この子にメロメロのベタ惚れで、可愛がりまくっているが、その氣持ちはあまりに当然だ。

 こんなカワイイ娘がいたら、僕だってすっかり娘命になってしまうだろう。

 まさか、佑夏ちゃんに産ませようなんて、そんな大それたこと.........え?その時である!
(幸せだな~!ジンスケ!オレのおかげだぜ、感謝してくれよな。)

 何!?
 また変な男の声がする。

 明らかに、幻聴ではない。

 どうも、ぽん太を引き取ったあたりからだ。
 僕はタチの悪い悪霊にでも、憑りつかれてしまったのか?

 


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