ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第三章 幸福論の四季

妖怪・狸猫

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 保護主の美少女ぶり以上に驚いたのは、当の猫である。

「この子です。ぽん太って言います。」
 そう言って、彼女はキャリーケースの入れ口を僕に向ける。

 覗き込んでみると................。

 こんなブサイクな猫は初めて見た!!!というくらいの不気味な生命体が、僕を睨んでいて驚愕してしまう。
 猫というより、太った狸の妖怪にしか見えない、化け物じゃないのか!?

 まさに「美女と野獣」な組み合わせだ。

 しかし、キャリーケースを持った本人はニコニコ笑顔で
「かわいいでしょう?♡中原さん?」

 かわいい!?これが!?
 一体、この人の美的感覚はどうなってるんだ!?

「コイツよ~!子供ン時からブサイクが好みなんだ!自分は美人のくせしてよ!!アハハ!!!」
 ゲラゲラ大笑いする翠。

「何言ってるの?翠ちゃん?」
 不思議そうに、“ゆうか゛と呼ばれた美少女は、キョトンとしている。

 どうやら、シャレや冗談ではなく、この妖怪猫を、本当にこの子は、可愛いと思っているようだ。

(よう!よろしく頼むぜ、ジンスケ!)

 何だ!?今の男の声は?
 僕は周囲をキョロキョロ見渡してみたが、誰もいない。

「どうした?中原?お前まで、頭おかしくなったか?」
 翠は笑い続けている。

「い、いや、何でもない............。」
 何だったんだ?今の声は?

 あらためて、この「ぽん太」とやらを、僕はまじまじと見てみての感想。

 デカイ!本当に猫か!?別の生物じゃないのか?
 しかも、凄いデブだ!10キロ近くあるんじゃないだろうか?

 こんな巨大な猫を、女の細腕で持っていて、この子は重くないのか?
 おまけに、小雨まで降っていて、ここまで連れてきたのも、大変だったろう。

 よほど、深い愛情が無くてはできないことだよ。

「ぽん太」は極端な寄目でじっと僕を見ている。
 寄目の猫なんているんだな。

 鼻水が垂れてはいるが、翠の言った通り、確かに治療の跡がある。

 体毛は黄色に、オレンジ色の縞々。
 昭和に流行った有名な猫マンガのカラー。

 毛づやは良くないが、丁寧にブラッシングしてもらっているようだ。
 無駄毛のバサつきが無い。

 この“ゆうか“ちゃんがやっているのか?

「あの.......?中原さん?」
 あまり僕が、このデブ猫をジロジロ見るからか、翠の友達は不安げな顔をする。

「心配すんなって、佑夏!中原は猫を見捨てたりしねーよ!」

 翠にそう言われたからではないが、僕は冷静さを取り戻し
「分かりました、白沢さん。ぽん太君はウチで預かります。」

「ありがとうございますー!!♡」
 美少女の目が輝く。

「一応、保護団体と協力して、飼ってくれる人を探してみます。
 でも、正直、大人の猫でこのサイズだと難しいでしょう。」
(さすがに、“これだけブサイクだと“とは言えない。)

「え~?」
 ”それじゃ。この子はどうなるの?”といった表情の”ゆうか”ちゃん。

 こんな優しそうな子をガッカリさせる訳にはいかないよ。

「大丈夫ですよ。ダメなら、ずっと俺の家にいてもらいます。キャパ的に、もう一匹なら、何とか飼えますから。」

「キャー!ありがとうございます!!!」
 再び、お礼を言う美少女。

「だから、言ったろ?中原なら何とかしてくれるって。」
 翠は、こうなることが分かっていたようだ。

 こうして、僕と佑夏と、怪猫ぽん太の大学生活は幕を開けたのである。

 

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