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第二章 霧ヶ峰のヤマネ
幸せの湿原
しおりを挟むヤマネの森を後にして、八島ヶ原湿原へ。
件の小動物と同じくらい、今回のメインと言っていい場所だ。
「霧ヶ峰高原」といえば、通常、ここを指す。
ここはヤマネの森のすぐそばにある、すぐに到着。
気持ちいい、心地よい、美しい!
草紅葉の広大な湿原に、無数のススキの穂が宝石のように、煌めいて揺れている。
佑夏は、髪の白い貝殻に「一緒に見て」と言いたげに手をあてながら、
「ホントに綺麗、ホントに綺麗、ホントに綺麗!」と連発している。
大学三年生の時に、男三人で、僕は群馬県の尾瀬湿原に行った。
しかし、八島ヶ原湿原は、尾瀬よりずっと氣に入ってしまう。
何より、道が平坦で、歩くのが楽である。
そのせいか、小学生の子供がいる家族連れ、街デート感覚で軽装のカップル、ヨボヨボ歩きのお年寄りや、外国人の姿も多い。
尾瀬は山あり谷ありで、疲労困憊してしまったものだった
佑夏は、何だか子供の歌を口ずさみ、つられて水野さん、吉岡さん親子も歌いだして、見事にハモっている。
すっごく、この美しい光景に似合う。
本当の幸せとは、こういうことを言うんだな。
そう言えば尾瀬では、本格的な登山装備に身を包んだ、本物の登山者ばかりだった。
気軽に誰でも出かけられるのが、霧ヶ峰の大きな魅力だと思う。
ちなみに、「八島ヶ原湿原」ではなく、「八島湿原」と書いてある看板がある。
どっちが正式名称なのか、ちょっと分からない。
ここでもアラン流に、東山さんが時々立ち止まりながら、説明してくれる。
”
八島ヶ原湿原の広さは東京ドーム九個分で、誕生から12000年の歴史があります。
ミズゴケの種類は18種類で、490倍も大きい北海道の釧路湿原と同じです。
日本にある高層湿原の中では、最も南にあります。
泥炭層が尾瀬よりも深く、学術的にも貴重です。”
そして驚いた東山さんの解説は、
「最近、八島ヶ原湿原を舞台にした恋愛小説が出版されまして。
出版社から”恋人の聖地”の一つに指定されたんです。」
なんだって!?僕と佑夏じゃないか!!?
その小説は、お互いが結ばれるハッピーエンドなんだろうか?
ものすごく、氣になってしまう。
僕達は小説通りになる運命なのか?
僕の心配をよそに東山さん、
「尾瀬のように、湿原の真ん中に木道を通す計画があったんですが、我々が反対して止めました。」
八島ヶ原湿原の木道は外周に設置されている。
メンバー全員が、この方がいい、と頷く。
この湿原は一周、90分くらいで歩いて回れる。
時間的にも、楽なコースである。
東京から来ている怪しげな参加者、山田さんを、僕は横目に見てみる。
木道を真ん中に通したい推進派の回し者ではないか?と思ったからだ。
しかし、山田さんでさえ、この湿原の美しさに、完全に心を奪われているように見えるのである。
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