ヤマネ姫の幸福論

第二章 霧ヶ峰のヤマネ

餌を与えないで下さい

　かつて、アラスカ在住の日本人カメラマンがいた。

　アラスカの大自然、野生動物、そこに生きるエスキモーの人々などを撮影し、数々の素晴らしい作品を遺している。

　彼の本は、僕も大好きで、何冊読んだか分からないくらいだ。

　しかし、日本のテレビ番組の取材の為、ロシアの湖の湖畔に滞在中、ヒグマに襲われて、この人は命を落とした。

　地元のテレビ局に餌付けされ、このヒグマは人間への警戒心が薄くなっていたのである。

　東山さんはどうなんだろう？

「テレビ局からの依頼で、何度かヤマネの撮影に、テレビ局のスタッフが同行したことはあるんですが。」

　やっぱり餌付けするのか？

「お受けしたのは、長期の取材だけです。ヤマネに餌付けして、短期の内に多くの画像を撮りたいという話は、全て断ってます。」

　ああ、良かった。

「餌を与えられると、人馴れしてしまったヤマネが、人間に寄って来て捕らえられたり、自分で餌を採れなくなってしまったり、といった弊害が出てくるんです。」

　ヤマネは熊と違って、人を襲うことは無いけど。