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第1章 旅の仲間

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  東にある山から朝日が登りショノウとラミナは殆ど同時に目を覚ました。

  「おっす、今日もいい朝だな」

  「だな」

  視線をアナに向けると寝袋で爆睡しているようなのでそっとしておく。

  二人で近くを流れる小川に行き顔を洗い両手で水を掬って飲み込む。水はあるのだがこの小川の水を飲むと目が覚めるのだ。

  小川からテントへ戻る時ショノウは昨晩考えた妙案をラミナに話す。

  「昨日いいこと思いついたんだ」

  「なんだ?」

  「ほら、俺ら王国にどうやって入ろうか悩んでただろ?」

  「ああ、そうだな」

  「あれ、アナを使えば上手く入れるんじゃないか?」

  「なるほど!  それはいい案だな」

  目を輝かして手を叩くラミナ。

  何故二人が王国に入れないかと言うと、王国だけではないが基本的に入国するにはステータスプレートという身分証明書のような者を提示しなければならないのだが二人はそれを持ち合わせていない。

  一般的には出生届けを申請すると貰え、なくすと役所で再発行出来るのだが……

  そのステータスプレートがきっかけで事件が起こりショノウとラミナが出会うことになったのだ。

  それは凡そ十年ほど前ーー

  ショノウの父はショノウのステータスプレートをなくしたため役所へ再発行をしてもらいにショノウを役所へ行かせた。

  再発行する際に血を一滴プレートである銅板に垂らすのだが血を垂らしたショノウのステータスプレートは全て???と表示されたのだ。

  たったそれだけの事なのにショノウは化け物扱いされ王国の地下牢獄へ入れられてしまった。

  ラミナもまたショノウと同じ理由でショノウが牢獄に入った半年後ラミナもやって来たのだ。

  彼らの両親は化け物を匿っていたとされ処刑された。
  その事を聞き復讐するためにこの牢獄を出ようと決心したのだ。

  当時、その牢獄の看守であったガルティアーナは彼らの話を心身と受け止め逃げ出してあげるように助力をしていた。当然、他人にはバレないように細心の注意を払いながら

  ショノウは一年、ラミナは半年の期間を経て看守のガルティアーナの助力もあり脱獄することに成功した。

  それから王国の追手をまくため二人は何処かでまた会おうと別れることになり別々で旅をすることに。

  それて一年半ほど前に旅をしていると偶然出会ってから今に至るのである。

  旅の途中、二人はとんでもない力を得ていたがステータスプレートを持っていなかったので合法的に王国へ入ることは出来ずずっと悩んでいたのだったその時にアナがやって来たので上手く利用しようと考えたのである。

  二人はテントへ戻り朝食の準備をする。

  王国へ入れないのでこうして野宿をしているのだ。旅人なので殆どこういう生活をしているので慣れてしまったが。

  朝食の匂いがテントへ漂う頃アナの目覚め物音がテントからする。

  「おはよう~」

  「おはよう」
  「おっす」

  アナはラミナが掻き混ぜている鍋を見てお腹がなった。

  「昨日の晩御飯食べてないの……」

  「勝手についてきて寝てたもんな。はは」

  ジロりと睨まれ恐縮するショノウ。

  頂きますをした後三人は誰一人喋らず朝食を食べ終わった。

  「ご馳走様!  美味しかったよ」

  「それはそれはありがとう」

  「いや、本当に美味しかったからね?」

  「うんうん、分かってるよ」

  アナは見たところお嬢様なので上品でもない粗末な朝食を美味しいと言ったのが皮肉に聞こえたのだ。

  「ところでアナ」

  「なに?」

  「アナは俺たちを王国へ入らせてくれる事ができるか?」

  「何でそんなこと聞くの?  プレート見せたら入れるじゃない」

  「まあ、色々あってプレートないんだよ」

  「じゃあ再発行すればいいじゃない。役所で出来るのよ。知らなかったの?」

  「それも色々あって出来ないから……お願い!」

  「何でなの?」

  「ん~今はまだ教えられないかな」

  「じゃあ入れさせてあげない」

  「そこを何とか頼みますよ~」

  「だーめ」

  「旅に連れていってあげるからお願いします」

  そういえばまだアナにはこちらから旅に連れていく許可をしていなかったと思い出すショノウ。

  「本当に!?」

  「マジマジ。だから頼むよ~」

  「分かったわ。その代わり絶対連れていいきなさいよ!」

  「ありがとうアナ様」

  そんな頼み事には関与したくないラミナは小川で食器を洗いに逃げていた。

  「じゃ早速荷物纏めて行こっか」

  「行きましょ行きましょ」

  荷物を纏めて王国、ザーパド王国というのだがそこに向かっていった。

  数十分してザーパド王国の門についた。

  「止まれ!  プレートを出せ」

  門を守っている全身鉄装備の衛兵が問う。

  「私のお友達よ。通させて」

  アナが顔を出す。

  「おぉ……アナ様でしたか。どうぞお通り下さい」

  アナの顔パスのお陰で難なく入れたショノウとラミナは衛兵から見えなくなったところでガッツポーズを小さくする。

  「アナの知名度って凄いんだな」

  「これでも一応時期王子の婚約者にならされたのだから仕方ないよ」

  「そうなのか……大変だな」

  慰める言葉が思いつかず片言で心配の声をかけるショノウ。

  気まずい空気が流れたがアナはすぐに切り替え質問する。

  「で、どこに行きたいの?」

  「あっ、そうだった。言ってなかったな」
  「ここのギルドマスターに会いに来たんだ」

  人族と呼ばれる人間が住む国、王国、帝国、皇国と大きく三つに分けられ住んでいる人も国によって信仰する神などが異なり仲があまり良くないのだがギルドは別なのだ。

  ギルドは国と国を隔てず冒険者になりたい人たち支援する組合組織だ。

  二人はそこのトップ、ギルドマスターから手紙を貰い会いに来たのだ。

  各国に支部が幾つもあるが本部はここザーパド王国にある。

  「ギルドは王城に続いて二番目に大きい建物よ」

  アナが指を指した先に白水晶の目立つ外壁が佇んでいた。

  目標が割と近くにあることに驚き早足でギルドの扉に近づく。

  扉を開けると多くの冒険者が屯していた。

  新人かと軽蔑した目で睨まれるが無視して受付嬢の所まで歩く。

  その時、冒険者の一人がアナがいることに気づいた。

  「アナ様!」

  一人が声を上げると皆一斉に振り向きアナの存在を視認する。

  そしてその前を歩く二人とを見比べ更に軽蔑した目で見る。

  「おいおいおい、お前みたいな餓鬼が何故アナ様と歩いてるんだ?  ああん?」
  
 ショノウの小柄な体を見て明らかに自分の力が上だと確信した冒険者が近づいてきた。

  アナの美貌は民衆にも大人気なのだ。

  「邪魔です」

  「あああん!?  今なんて言った?」

  餓鬼に邪魔と言われ胸が煮えたぎるくらいの憤りがわく。

  一発殴り飛ばそうと拳をショノウの顔面へ振るう。

  ショノウは半身になって避け体重の乗った馬鹿な冒険者の足をかけて転ばさせた。

  そして何事も無かったかのように受付嬢のところまで歩いていった。

  実はAランクの冒険者が子供に軽くあしらわれたのだから皆彼らに畏怖の感情を抱いた。

  当然、受付嬢も怖がり目を背ける。

  「あの~」

  「は、はいぃ!  何でしょうか!」

  物凄い声で返事をする受付嬢。全身が震えている。

  「ここのギルドマスターとお話がしたいのですが~」

  「め、面会の予約はありますか?」

  「あっ、ないですがショノウという言葉を伝えてくれませんか?」

  「は、はい!  承知しました」

  足音をパタパタといわせて後ろの扉へと消える受付嬢。

  数分後ーー

 「お待ちしました。こちらへどうぞ」

  先ほど受付嬢が消えた扉へ案内される三人。

  ちょっとした応接間に長髪の髭を生やした言わばオジサンが座っていた。

  この男の名前はガルティアーナ。

  ショノウとラミナが牢獄に囚われていた時の看守だった人だ。

  「久しぶりだな二人とも」

  小さく手を挙げて挨拶をする。

  「久しぶり、ガルティアーナ」
  
  「やあやあ」

  「大きくなったな」

  感傷に浸るガルティアーナ。それもそう、最後にあったのは脱出した時なのだから

  「アナさん、申し訳ないのだが席を外してもらえないだろうか。内密な話なので」

  渋々頷き部屋を出る。

  「怒られちゃったかな」

  緊張した様子で呟くガルティアーナ。

  この部屋には今ショノウ、ラミナ、ガルティアーナの三人しかいない。

  パン!  と手を叩き話を始めるガルティアーナ。

  「早速本題に入ろう。まず君たちのプレートを作ってあげることが出来るが作ろうか?」

  いきなりどぎつい事を言われ驚く二人。

  「私は今、ギルドマスターという立場にいる。だから君たちの偽造プレートなんて簡単に作れるんだよ」

  「なるほど……」

  「そんなの決まってるじゃねえか。作ってくれ」

  ショノウも同調して頷く。

  「分かった。では明日またここに来てくれ。それまでに作っておく」

  「ありがとうガルティアーナ」

  「ありがとう」

  感謝の念をおす二人。

  「そしてここからが重要なのだが」

  声のトーンが低くなるガルティアーナ。

  「どうやら異世界から勇者、賢者、僧侶の三人が転移してきたらしいのだ」

  「異世界から転移……そんな事があるのか」

  「ここ以外にも世界があるんだな」

  「あぁそうだ。そして国王は彼らを利用して魔族、亜人族を滅ぼそうとしているという噂だ」

  「なんだと?」

  「それは本当か?」

  魔族と亜人族、そして人族はいつも睨み合っている関係にありよく小規模ながら戦争をしている。

  目的は征服。

  そんな中、人族に強職業といわれるうちの三人がやってきたのだ。これは大きな戦力となるだろう。

  「あぁ、本当だ近いうちに大規模な戦争が起こり民間人にも被害を被ることになるだろう」

  「だろうな。で、どうして欲しいんだ」

  「それが俺にもわからないんだ。ただ戦争は起こさせたくない一心なだけだ」

  「戦争を止めればいいんだな?」

  「今の俺の気持ちはそうなんだが複雑だ……とにかくこの事を君たちの耳に入れておいた方がいいと思ってな」
  
 「なるほどな。考えておくよ」

  「ああ、よろしく頼む」

  椅子を引いて立ち上がりドアノブを握る。

  「では明日の正午またここを訪ねてきてくれ」

  「分かった。プレートの件ありがとう」

  「本当にありがとうガルティアーナ」

  「はは、なんてことないって気にするな」

  そしてギルドから二人はでる。扉の横のベンチにアナは拗ねたように座っていた。

  「終わったぞ~」
  
  「遅すぎるよ!  全く私抜きにして何話してたのよ」

  「まあ色々と」

  「色々って何よ!」

  そんな会話が続き手頃な宿屋に入った。

 「らっしゃい!  一人一泊で十銅貨食事付きだがどうする?」

  「三人部屋のそれで頼む」

  「わかった。  二階の一番奥の部屋が空いてるから適当に使ってくれ」

  チャリンと十枚の銅貨を店主に放った。

  「毎度あり!」

  言われた通りの部屋に入り荷物を起き寛ぐ。

  「あぁ~宿屋なんて何年ぶりだろ」

  「確かに久しぶりだな」

  「君たちいつもテントで寝泊まりしてるの?」

  「まあ旅人だしな」

  ラミナ答える。

  「ちょっと昼寝するから晩御飯の時間になったら起こして~」

  ショノウが黒いローブを畳みいつの間にか敷いた布団の上で横になる。

  「んじゃ俺はブラブラしてきますかな!」

  ラミナはそう言うと宿屋を出ていった。

  放ったらかしにされたアナは何をしようか戸惑う。

  (そういえば勝手に家を抜け出して旅についてきちゃったけど大丈夫なのかな)

  今更ながら急に心配になるアナ。

  アナの周りの人達はアナが失踪した!  と言って大探しになっているのだが……



 日も暮れてラミナが宿屋に戻るとショノウが起きていて何故かアナが布団で寝ていた。

  「この人よく寝るなぁ」

  「お嬢様は普段睡眠不足なんだろきっと」

  ラミナが一階に降りて三人分の食事を部屋まで持ってきた。

  「おーい、アナ。晩飯だぞ~」

  アナを揺さぶるラミナ。

  ビクッと身体を震わせ急に体を起こす。

  「私が寝てる間に何したの!」

  大声で騒ぎ立てるアナ。

  「寝ぼけてるのか?」

  なんだこいつと思いラミナが返事をする。

 何もされていないのかと気づき赤面するアナ。

  「ほら、ラミナがご飯とってきてくれたから食べよう」

  「いただきます……」

小声言いでスープを啜るアナ。

  食べ終わると食器を一階に持っていきラミナは眠った。

  小さなベランダにショノウとアナは星を見ながら立っていた。

  アナが突然話し出した。

  「ねぇ、ショノウとラミナの事を聞かせて」

  「え?」

  「言ってないでしょ?  昔のこと」

  「そうだったね」

  「誰にも言わないから聞きたい」

  澄んだ水色の目をショノウに向ける。

  「分かった。くれぐれもラミナには言わないでくれよ?」

  「約束する」

  そしてショノウは十年ほど前に起こった事件を語り出したーー

  それからアナはずっと泣いていた。

  「ショノウとラミナはそんなことになるはずじゃなかったのに……」

  「いいじゃないか、今こうして生きてラミナともアナとも出会えたのだから」

  「そうだね、そうだね。それに比べて私なんか……グスン」

  「比べる必要なんかないさ。アナも充分辛い経験をしたこともたさあったはずさ。これからももっと辛いことが起きるかも知れない。それが僕達は少し早く起こっただけさ」

  「でも、でも……まだ十歳にもならない子供の頃だったんだよね?  きっと辛かったよ」

  アナが泣きながらショノウの頭を撫でる。

  「ありがとう……」

  ショノウも涙が出そうになりながら堪えていた。

  そしてアナはベランダから部屋に戻り布団で横になった。


  一人になったショノウは昔のことを思い出しながら一人で泣いていたーー
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