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聖女追放編

24マルチタスクこなせる奴はそうそう居ない

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 聖女ユナ並びに、騎士や王子殿下プレゼンツの私の追放劇からの聖女ユナの失踪は、時間が経つごとに忘れ去られて行った。人の噂も七十五日と言うが、3日もすれば忙しい王城ではもうそれほど気にされる事は無くなっていた。3日て薄情だな……。そして騎士達も通常業務をこなし、私も相変わらず聖女パワーで孤児院、教会、病院を周り、病気を治したり慈善活動に精を出している。そう、聖女失踪から早くも10日が経っていた。

「なんだか、無情というか非情というか」
「彼女が居ようといまいとあまり変わりませんからね」
「アーチ……心が無い……」
「あの聖女が居なくなったおかげで、隊長達も戻ってきたわけだしな……」

 ———ザク
 ——ザク

 訓練場の畑を耕すために鍬(くわ)を振り下ろす。良い感じに緩く柔らかくなった土にスイカの種を埋めて行く。この世界、ゲームと言っていただけあって意外と手に入るものは多い。スイカは魔界の食べ物だと農村で捨てられていたのを浄めるとかなんとか言ってもらってきた。もしかしたら開拓要素もあるゲームだったのかもしれない。

 ふう、と溜息をつけばアーチがうんうんと頷き「なんの影響もありませんからね」と、なんとも悲しい事を呟いた。それに同調するランティスもまた辛辣だ。

 しかしその言葉もあながち間違ってはいないのがまた物悲しい所だ。

 ドン、と大きな爆発音が響き、土煙が舞うと、その中から数人の騎士が現れた。爆風によりズレた眼鏡をクイと押し上げ、剣を片手に現れたのは魔道士であるハウだ。その後ろには私が可愛がっていた騎士達が目を輝かせてついていた。

 その奥では、金属がぶつかり合う轟音が響き渡る。斧使いダトーと、聖剣と言われるウレックスによる模擬試合だ。総当たり戦を日々こなす事で、どんな相手にも対応できるというのが私が目指すオールマイティな騎士団なので、それに沿って訓練中というわけだ。

「うんうん、良い感じね! 貴方達は行かなくていいの?」

「あー……俺はパス」
「僕もいいです」

「えー! 今回総当たり戦で勝った者は携帯食や遠征食アイデアの商品化なのよ!? 街でも売り込みかける予定なんだから! これ当たったら貴方達だって儲かるのにー!」

「まぁまぁ、彼らはようやく自分の隊の隊長が戻ってきて嬉しそうなんですから、水を差すのは野暮でしょ」

「だな。それよりその魔の国の食べ物が気になる。早く食いたい」
「実は僕も! トキに会ってから知らない食べ物を逃すのが惜しくて惜しくて」

「ふっふっふ。それでこそ私の騎士ね。美味しい物は力をくれて、国を強くするのよ! まぁ見てなさいよ私の力で3倍早く収穫してみせるわ!」


 キン、と一際高い音が響くと同時に空気が震え、ビュウと風が吹き、髪がぶわりと宙に舞う。
高く舞った斧は重さで速度を上げて地面に突き刺さる。その衝撃で大きな音と共にまた風が吹いた。

「わ、凄い風っ」

 グッと足に力を入れなければよろけてしまう程の風に少しよろけるも、肩にアーチの手が添えられて倒れずに済んだ。砂も舞ったが、ランティスの大きな体が風を避けてくれたために幸い顔にぶつかる事もなかった。

「おいトキ、大丈夫か?」
「うん、平気」
「ふわ~、気合い入ってますね~」

「長い間怠けてたから、ちょうどいいでしょう!
それでこそ私の騎士達よ!」

 そう、何を隠そう、ハウ、ウレックス、ダトーの彼らもまた私の騎士に加わったのである。





 あの慌しかった騒動はなりを顰め、今では穏やかな日々がこの国にやってきている。
 驚くことに、困窮していた孤児院の子供は、足繁く通った私やアーチ、ランティス、そして聖女ユナとダトー、ウレックス、ハウの訪問によって騎士団に憧れた子達が見事に試験に受かりたくさん入ってきてくれた。基礎体力をつけ、お金を自分の力で稼ぎ、それを育った孤児院に寄付しているようだ。そのおかげで、孤児院の経営はうまく回っているらしい。
 これは計算にはなかったが、ユナが点数稼ぎとしか思っていなかった孤児院の訪問は思ってもいなかった形で国に貢献していた。
 彼女がこれに気がつく事はもう二度とない。しかし事実彼女の行動によって何人もの子どもたちが未来に希望を持って行動している。
 これは、彼女の志とは関係なく起こった化学反応の様なものだ。

 過程ももちろん大事だ。しかし結果も同様に大事なのだ。

 そして子供たちの未来を考えるとユナのことは伏せるべき話であり、もちろん騎士たちの間にはキツく閉口の命が出された。
 もちろん私も未来明るい子供達、そしてこれからの国を守り発展させていく若者の希望を打ち砕く気はさらさらない。真実は時に語らない方が正解なこともある。彼女たちが繋いだ縁を無駄無駄断ち切ることはしなくても良いのだ。


 このことにしばらくの間、ダトー、ウレックス、ハウは苦しんで、良い顔はしなかった。
 当たり前だろう。
 自分たちも被害者だったとはいえ、女の尻を追いかけて点数稼ぎに使っていた、なんて口が裂けても言えない話だ。聖女ユナに対して恋情があったのは言うまでもないだろう。それが計算され、操られていたのだとしても。


 駄菓子菓子。


「私たちは騎士を辞めなければならない」なんて言い出したときは、皆びっくりしたもんね。
 なんと言っても騎士団は万年人手不足。正直女関係でやめてもらっては困る。
 やるべきことは恐ろしくたくさんあるのだ。

「逃げ出すの?」
「……っ」

 三人は悔しそうに俯くと、顔を真っ赤にさせて唇を噛んだ。

 正直に言おう。

 逃げ出すのはずるいぞ!お前らが聖女になれよ。私とかわれ。誰が後始末すると思ってんだ。  
 また脳死かよおつおつ。

「許しません。逃げずに、向き合いなさい。そしてしっかり後継者を育ててから、その子達に倒してもらいなさい。話はそれからだわ」

 引き継ぎも満足にやらずに退職は許しませんからね。

 逃げずに苦しみつつも、国のために、自分たちを尊敬してくれる後継者たちのために全てを飲み込んで騎士団に残る事を選んだ様だった。

「聖女トキ……騎士ウレックスは貴女様に従い、貴女の騎士となり、国をより良い未来に運ぶ事を、お約束いたします」
「騎士ダトー、貴女のご意志のままに」
「騎士ハウ、貴女のお力になる事を、御約束致します」

「いいわ。私のものになったからには、しっかりと働いて貰うからね」

「「「御意」」」

 こうして、私流騎士団の稽古が開始。
 彼らは立派に私の騎士達となってくれたのである。うんうん。死にそうだった表情も、美味しいご飯に目の前に常にある目標。身近な達成感で得た満足感。健全そのもの。強い国の基盤はこれよね。






「フロルド殿下、どういたしましたか?」
「いや」

 城の大きな窓から外を見れば馬車に荷物を運ぶフロルド殿下と目があった。
 チラリと見ただけでサッと顔を逸らした彼は、そのまま振り返ることせずに馬車に乗り込んでしまった。
 
 馬車が走り出し、馬のひずめが床を蹴る音と車輪の回る音が鳴り、その場には轍だけが残されていった。

 フロルド殿下は国外の文化や政治、物流を学び、貿易先を増やす事にしたらしく、留学する事にしたらしい。まだまだ国王様も王子殿下も年若いので、きっと行動すればするほど国は発展していくだろう。

 国外追放島流しなんて物は国の王子としての責任の取り方としては満点なのだろう。私の世界で一時流行った異世界恋愛小説なんかでは国外追放や奴隷落ちなんてものが大量にあったが、王子がそれをするというのはなかなか現実的にはハードな問題がたくさんだ。
 王に10人くらい子供がいれば、見せしめとしてありえるだろうが。


 国王も、活気のある国の気配に、ようやく瞳に光が宿ったようだ。

「……私は流れるままに、決められたままに事をこなす事ばかりを考えていた。それが当たり前だと思っていたが、どうにもこれほど変わった国が、とても愛おしく感じるよ」

「それを国王様が勉強して、体験して、フロルド殿下に繋げてくださいね」

「ああ……、私は今まで何をしていたんだと思い知ったよ。腑抜けだった。これからもっと国は逞しくなるだろう……!国民が強くなれば、私達王族も弱い考えではいられんな」

 国王様の瞳が、燃え盛る炎が宿ったようにギラギラと光り、強く前を見据えている。

「それに、すまないな……聖女に全てを任せようなどと、押し付ける真似をして、貴女の人生を奪ってしまった……」
「ああ、過ぎた事は仕方ないですよ。私は私で勝手にやるんで……もう脳死でなんでも頼らないでくださいね」

「……もちろんだとも」

 覚悟を決めたような言葉を残し国王様は身を翻して立ち去っていった。

 その背中は大きく、今までの様子とは全く違う覇気を纏っていた。

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