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失格聖女編
12ホウ・レン・ソウは基本装備でよろしく
しおりを挟む「って事が前にあったんですけど」
「……それもう少し早く言えなかったのか聖女殿」
「私は忙しいじゃないですか。この通り、討伐に行ってお金を稼いで、討伐に行って保存食考えて、料理の大会やって社会貢献して、病院やら孤児院やら色々な場所を聖なるなんとやらで助けに行ってるじゃないですか?時間がなくて」
「それに関しては感謝している聖女殿……日々の食事が潤い、観光業まで栄えてきて外貨を得られているのは間違いなく聖女殿の功績だ」
重ねて「感謝している」と言う国王様は、やはり今日も死んだ魚の目なのは変わりない。光を宿していないのは仕様なのかな。
私の中の娯楽といえば、美味い食事とどのタイミングで国王様の瞳に光が宿るかくらいのもんだよ。ごめん言いすぎた。そこまで興味ない。
「その様な事になっているとは……まさか我が息子も含めて三人もの騎士が熱を上げて騎士道のかけらもなく何の根拠もなく、疑ってかかるとは。恥ずかしい限りだ」
「それもこれも全員が全員、万能な聖女ってやつに、脳死で頼ってるのが悪いんじゃないです?そろそろ私による私のための大改革が実を結んで国民達も自分で自分たちの事をやり始めています。聖女なんて必要なくなる日も近いでしょう」
「ぐ、正論ではあるが、精神的ダメージが……定期的に私を責めるのをやめていただきたい……」
もとより、人間は自らの力で文明を築き、病気に打ち勝つ方法を常に努力と進化と考える力で乗り越えてきている。それはどんな世界でもきっと共通なはずだ。他所から連れてきたぽっと出の異世界人に頼り切りだなんて、そりゃ地盤が弱くて仕方がない。よく今まで暴動も戦争もなく平和に過ごしてきたよね。あ、聖女パワーか。
「責めてはないですって、ただ」
「む」
「引き算しなさいとは思ってますけどね」
この国の考え方は基本的に足し算だ。
足りなかったら足す。これは当たり前の様な気がするが、非常にまずい考え方だ。物の大切の基準が質より量に落ち着いてしまう。「聖女が使えない、じゃあもう一人呼ぼう」この考え方がそもそもおかしい。国を救って欲しいと初めに言われたが、何処の何をどの様に?と言うほかない。前の聖女が死んでしまったからそろそろもう一人に居てもらった方が安心だ!という保険心が透けて見える。その代金を払うのは無責任に呼び出された聖女役なんだから救いようがない。
それを伝えれば、目から鱗と言わんばかりに驚いていた様だったが、納得するものがあったらしい。
脳死の原因は、改革と常識を縛り付ける、手入れのされてこなかった固定概念のせいだったようだ。
「して、私に聞きたいこととはなんだろうか」
「私の聞きたいことはですね、国王様が貿易交渉に行かれる日のことです」
「それならもうすぐだ。それが?」
「それ、誰に言いましたか?」
「まだ誰にも。正確な日取りは誰にもまだ伝えていない」
「じゃあ……——」
◇◇
「え? 嘘でしょ……聖女様ってそんな事を?」
「やだ、ビッチじゃない」
「相当に男好きだと聞きましたわ」
「じゃあ、まさかアーチ様もランティス様も……!?」
「ユナ様に対抗なされているらしいぞ」
「なんて図々しい」
「えっ階段から?」
「ひどいっ」
「孤児院の訪問も押し付けているそうですよ」
「そんな」
こそこそ、至る所からチラチラとこちらを盗み見る使用人がひい、ふう、み。
聞こえないふりをして、足を動かす。
シェリルは最近は部屋付きから突然シーツの係に移動させられて、泣く泣く昼間はその仕事をやっている。しかし根性で朝と夕方には顔を出してくれている。早く終わらせて夕方には私の部屋をきれいにしてくれているので頭が上がらない。しかし今日はまだ会っていない。
声がどんどん騒がしくなり、ついにはチラリと盗み見ていた視線は堂々と舐め回すような視線に変わっていった。嫌悪感のこもった視線は敵意が込められた物に変わっていく。
やがて、広いダンスホールのような場所にたどり着いた。
今日はアーチとランティスは居ない。やったぜ、今日はフリーじゃん、と喜んだのも束の間。部屋を出て右を見たらその人と目が合った。
代わりに来たのは、信じられないことにウレックスだった。じろりと目線だけで殺せるのではという様な視線が飛んできて、元気に振り上げた拳はそっと仕舞い込んだ。
「こい」
おおよそ護衛とは思えない乱暴さで背中を押されて渋々いう事を聞く事にした。
そして連れてこられたのがこの大きな部屋だった。
そこには、しくしくと大粒の涙を惜しげもなく溢し、ボロボロになった布を持った聖女ユナ、そしてその愉快な仲間たちが勢揃いしてましたとさ。
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