上 下
46 / 65

空手を信じよ

しおりを挟む
異変を察知する絶対王者。
神崎高志は今、明らかに急激に失速した。
念の為、前蹴りを叩き込み消し飛ばす。
何の手ごたえもなく、あっさり大の字になる神崎。
確かなのは、野獣と化したあの暴走状態が解けた事。ならば確実に勝てる。
現に奇跡的に立ち上がった今、呼吸は乱れまくり、酷使に酷使を重ねた筋肉は痙攣に近い状態。
そうだろう。「俺の時」もそうだった。
だが…待て。
あの時の俺は、鍛え抜いた機動隊員10名以上が殺到しようやく抑え込んだ。
その後も拘束具が3日ほど解けなかったと、後から担当弁護士に聞かされた。
そう、その間の記憶や自我は無かったのだ。
俺は。
まさか…奴は、「自分で解いた、外した。」のか!?
あの時の俺と大して変わらない年の、この神崎高志が!
「チャンスっすよハルさん!畳みかけて!」
言われなくても!
ジャブに近い形の独特の刻み突きから入り、全力の最高精度の右フック!
反射的にガードされる。
なんだ、廻し受けのつもりか?
もはやこいつの手足に何の力も残っていない。
「ハルさん!もう一撃クリーンヒットすれば沈みます。」
「決めちゃって!」
当然そのつもりだ。
よく頑張った方だぜ。
俺なりのリスペクトを…。
!?
向こうの前蹴りが入る。が、それもまた力がない。
だが、「なぜか」もらってしまった事も事実。
ここで決める!
右ローから、満を持しての本日最速最強の左マッハ蹴り!!
決まっ…
『なんだ!?HALが突然スリップ!?何があった!?
神崎の方は、既に先程の攻勢は完全に息切れ、満身創痍のハズですが…』
くっ!
雅治は即座にスタンディングに戻す。
こいつ…。
先程まで以上に俺の蹴りを見切って、そのままこちらが蹴る勢いを右腕で流しやがった!
もうとっくに例の暴走状態は解けている。
だが、それ以前の瀕死の状態に戻ってるって訳でもない!
いずれにしろ手は抜かん!

最速のフットワークで側面に回り込み、左ローキック!
しかし神崎高志は無駄の無い動きで右脚の脛でガードする。
左腕は死んでる!
もう一度、更に速度を増した右フック!
が、神崎が繰り出した右正拳が、モロに左胸に!
「ガハッ!」
俺がアバラを…折れたか!?
繰り返すが神崎…高志は、ただの人なのだ。今現在は。
そしてその目は、あの先刻までの血に飢えた獣とは程遠く、穏やかさすら感じる理性的なものだった。
が…。
弱点の左サイドを狙ったミドルキックが、バックステップでかわされ、切り返しの高速踏み込み…
桜花突からの紫電が、回避も間に合わず顔面に入る。ほぼ読めていたのに!
なぜことごとく見切られる!?
なぜことごとくもらう!?
「空手だよ。
空手を信じ切れるかだよ。」
神崎高志はそう言い放った。
空手…あのジジイ…いや、東郷のジイさんの迫真空手…。
それの本質を絶対王者HALたる自分が見失っていたということか!?

高志は攻勢の手を緩めない。
鍾馗三連!
左膝蹴り!
右孤拳!
左鉤突き!!
『あーッ!どうしたどうした、何が起こっているゥー!?
もう謎の暴走ブーストは解け、瀕死の筈の少年A神崎高志!!再度の大攻勢!!
HALが、あのHALが対応できて無いーッ!』
「おいやめろって、マジ何やってんだよー!」
「もう演出とかいいから!」
「さっさとそんなガキ殺せー!!」
「HALーっ!!」
しかし高志の攻勢は止まない。
右下段廻し×3
そして…
正拳7連撃!!!
「凄い!凄えけど、何があったんだ!あの訳の分からん暴走は解けてるのに!」
「また進化したんだ…あくまで東郷先生の、空手を信じて、貫くことで。」
芦屋の言葉にさくらはそう返した。
「そうだな、更に言えば…察するに、高志の正中線の質と規模が、HAL…有明雅治のそれを上回っている。」
ウィリーはそう付け加える。
「ぐおっっ!!」
たたらを踏む雅治。
背中に、異質な脂汗。
なんだ…まさか…俺は…この神崎高志というガキに恐怖している!?
理由は、そうか、こいつは…
人を殺している!
俺のように自我を失った暴走でなく、正気と理性を保ったまま、その行為が何を意味するか十分わかった上で、殺しているのだ。
いくら鉄火場を過去に潜って来たとはいえ、なんやかや最終的にはギリギリルールに守られた格闘技世界に数年染まってしまった俺では…

それが、
どうした!

『ああっ、追い込まれた絶対王者HAL!
これは空手の…天地上下の構え!
この窮地で原点に還るかッッ!!
一方の神崎高志!
あくまで無構えでゆっくり歩み寄る!
両者!互いの空手…己が迫真空手をぶつけ合う!!』
観客は息を呑み、黙り込む。
いよいよ、最終局面。
皆がその事を理解していた。
そして…互いが右正拳逆突きを繰り出す!
それが中間位置で激突する!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

DEVIL FANGS

緒方宗谷
ファンタジー
下ネタ変態ファンタジー(こども向け)です。 主人公以外変態しか出てきません。 変態まみれのちん道中。 ㊗️いつの間にか、キャラ文芸からファンタジーにジャンル変更されてたみたい。ーーてことは、キャラの濃さより内容が勝ったってこと? ローゼ万歳、エミリアがっくし。 でも、自信をもって下ネタ変態小説を名乗ります。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...