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空手を信じよ
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異変を察知する絶対王者。
神崎高志は今、明らかに急激に失速した。
念の為、前蹴りを叩き込み消し飛ばす。
何の手ごたえもなく、あっさり大の字になる神崎。
確かなのは、野獣と化したあの暴走状態が解けた事。ならば確実に勝てる。
現に奇跡的に立ち上がった今、呼吸は乱れまくり、酷使に酷使を重ねた筋肉は痙攣に近い状態。
そうだろう。「俺の時」もそうだった。
だが…待て。
あの時の俺は、鍛え抜いた機動隊員10名以上が殺到しようやく抑え込んだ。
その後も拘束具が3日ほど解けなかったと、後から担当弁護士に聞かされた。
そう、その間の記憶や自我は無かったのだ。
俺は。
まさか…奴は、「自分で解いた、外した。」のか!?
あの時の俺と大して変わらない年の、この神崎高志が!
「チャンスっすよハルさん!畳みかけて!」
言われなくても!
ジャブに近い形の独特の刻み突きから入り、全力の最高精度の右フック!
反射的にガードされる。
なんだ、廻し受けのつもりか?
もはやこいつの手足に何の力も残っていない。
「ハルさん!もう一撃クリーンヒットすれば沈みます。」
「決めちゃって!」
当然そのつもりだ。
よく頑張った方だぜ。
俺なりのリスペクトを…。
!?
向こうの前蹴りが入る。が、それもまた力がない。
だが、「なぜか」もらってしまった事も事実。
ここで決める!
右ローから、満を持しての本日最速最強の左マッハ蹴り!!
決まっ…
『なんだ!?HALが突然スリップ!?何があった!?
神崎の方は、既に先程の攻勢は完全に息切れ、満身創痍のハズですが…』
くっ!
雅治は即座にスタンディングに戻す。
こいつ…。
先程まで以上に俺の蹴りを見切って、そのままこちらが蹴る勢いを右腕で流しやがった!
もうとっくに例の暴走状態は解けている。
だが、それ以前の瀕死の状態に戻ってるって訳でもない!
いずれにしろ手は抜かん!
最速のフットワークで側面に回り込み、左ローキック!
しかし神崎高志は無駄の無い動きで右脚の脛でガードする。
左腕は死んでる!
もう一度、更に速度を増した右フック!
が、神崎が繰り出した右正拳が、モロに左胸に!
「ガハッ!」
俺がアバラを…折れたか!?
繰り返すが神崎…高志は、ただの人なのだ。今現在は。
そしてその目は、あの先刻までの血に飢えた獣とは程遠く、穏やかさすら感じる理性的なものだった。
が…。
弱点の左サイドを狙ったミドルキックが、バックステップでかわされ、切り返しの高速踏み込み…
桜花突からの紫電が、回避も間に合わず顔面に入る。ほぼ読めていたのに!
なぜことごとく見切られる!?
なぜことごとくもらう!?
「空手だよ。
空手を信じ切れるかだよ。」
神崎高志はそう言い放った。
空手…あのジジイ…いや、東郷のジイさんの迫真空手…。
それの本質を絶対王者HALたる自分が見失っていたということか!?
高志は攻勢の手を緩めない。
鍾馗三連!
左膝蹴り!
右孤拳!
左鉤突き!!
『あーッ!どうしたどうした、何が起こっているゥー!?
もう謎の暴走ブーストは解け、瀕死の筈の少年A神崎高志!!再度の大攻勢!!
HALが、あのHALが対応できて無いーッ!』
「おいやめろって、マジ何やってんだよー!」
「もう演出とかいいから!」
「さっさとそんなガキ殺せー!!」
「HALーっ!!」
しかし高志の攻勢は止まない。
右下段廻し×3
そして…
正拳7連撃!!!
「凄い!凄えけど、何があったんだ!あの訳の分からん暴走は解けてるのに!」
「また進化したんだ…あくまで東郷先生の、空手を信じて、貫くことで。」
芦屋の言葉にさくらはそう返した。
「そうだな、更に言えば…察するに、高志の正中線の質と規模が、HAL…有明雅治のそれを上回っている。」
ウィリーはそう付け加える。
「ぐおっっ!!」
たたらを踏む雅治。
背中に、異質な脂汗。
なんだ…まさか…俺は…この神崎高志というガキに恐怖している!?
理由は、そうか、こいつは…
人を殺している!
俺のように自我を失った暴走でなく、正気と理性を保ったまま、その行為が何を意味するか十分わかった上で、殺しているのだ。
いくら鉄火場を過去に潜って来たとはいえ、なんやかや最終的にはギリギリルールに守られた格闘技世界に数年染まってしまった俺では…
それが、
どうした!
『ああっ、追い込まれた絶対王者HAL!
これは空手の…天地上下の構え!
この窮地で原点に還るかッッ!!
一方の神崎高志!
あくまで無構えでゆっくり歩み寄る!
両者!互いの空手…己が迫真空手をぶつけ合う!!』
観客は息を呑み、黙り込む。
いよいよ、最終局面。
皆がその事を理解していた。
そして…互いが右正拳逆突きを繰り出す!
それが中間位置で激突する!!
神崎高志は今、明らかに急激に失速した。
念の為、前蹴りを叩き込み消し飛ばす。
何の手ごたえもなく、あっさり大の字になる神崎。
確かなのは、野獣と化したあの暴走状態が解けた事。ならば確実に勝てる。
現に奇跡的に立ち上がった今、呼吸は乱れまくり、酷使に酷使を重ねた筋肉は痙攣に近い状態。
そうだろう。「俺の時」もそうだった。
だが…待て。
あの時の俺は、鍛え抜いた機動隊員10名以上が殺到しようやく抑え込んだ。
その後も拘束具が3日ほど解けなかったと、後から担当弁護士に聞かされた。
そう、その間の記憶や自我は無かったのだ。
俺は。
まさか…奴は、「自分で解いた、外した。」のか!?
あの時の俺と大して変わらない年の、この神崎高志が!
「チャンスっすよハルさん!畳みかけて!」
言われなくても!
ジャブに近い形の独特の刻み突きから入り、全力の最高精度の右フック!
反射的にガードされる。
なんだ、廻し受けのつもりか?
もはやこいつの手足に何の力も残っていない。
「ハルさん!もう一撃クリーンヒットすれば沈みます。」
「決めちゃって!」
当然そのつもりだ。
よく頑張った方だぜ。
俺なりのリスペクトを…。
!?
向こうの前蹴りが入る。が、それもまた力がない。
だが、「なぜか」もらってしまった事も事実。
ここで決める!
右ローから、満を持しての本日最速最強の左マッハ蹴り!!
決まっ…
『なんだ!?HALが突然スリップ!?何があった!?
神崎の方は、既に先程の攻勢は完全に息切れ、満身創痍のハズですが…』
くっ!
雅治は即座にスタンディングに戻す。
こいつ…。
先程まで以上に俺の蹴りを見切って、そのままこちらが蹴る勢いを右腕で流しやがった!
もうとっくに例の暴走状態は解けている。
だが、それ以前の瀕死の状態に戻ってるって訳でもない!
いずれにしろ手は抜かん!
最速のフットワークで側面に回り込み、左ローキック!
しかし神崎高志は無駄の無い動きで右脚の脛でガードする。
左腕は死んでる!
もう一度、更に速度を増した右フック!
が、神崎が繰り出した右正拳が、モロに左胸に!
「ガハッ!」
俺がアバラを…折れたか!?
繰り返すが神崎…高志は、ただの人なのだ。今現在は。
そしてその目は、あの先刻までの血に飢えた獣とは程遠く、穏やかさすら感じる理性的なものだった。
が…。
弱点の左サイドを狙ったミドルキックが、バックステップでかわされ、切り返しの高速踏み込み…
桜花突からの紫電が、回避も間に合わず顔面に入る。ほぼ読めていたのに!
なぜことごとく見切られる!?
なぜことごとくもらう!?
「空手だよ。
空手を信じ切れるかだよ。」
神崎高志はそう言い放った。
空手…あのジジイ…いや、東郷のジイさんの迫真空手…。
それの本質を絶対王者HALたる自分が見失っていたということか!?
高志は攻勢の手を緩めない。
鍾馗三連!
左膝蹴り!
右孤拳!
左鉤突き!!
『あーッ!どうしたどうした、何が起こっているゥー!?
もう謎の暴走ブーストは解け、瀕死の筈の少年A神崎高志!!再度の大攻勢!!
HALが、あのHALが対応できて無いーッ!』
「おいやめろって、マジ何やってんだよー!」
「もう演出とかいいから!」
「さっさとそんなガキ殺せー!!」
「HALーっ!!」
しかし高志の攻勢は止まない。
右下段廻し×3
そして…
正拳7連撃!!!
「凄い!凄えけど、何があったんだ!あの訳の分からん暴走は解けてるのに!」
「また進化したんだ…あくまで東郷先生の、空手を信じて、貫くことで。」
芦屋の言葉にさくらはそう返した。
「そうだな、更に言えば…察するに、高志の正中線の質と規模が、HAL…有明雅治のそれを上回っている。」
ウィリーはそう付け加える。
「ぐおっっ!!」
たたらを踏む雅治。
背中に、異質な脂汗。
なんだ…まさか…俺は…この神崎高志というガキに恐怖している!?
理由は、そうか、こいつは…
人を殺している!
俺のように自我を失った暴走でなく、正気と理性を保ったまま、その行為が何を意味するか十分わかった上で、殺しているのだ。
いくら鉄火場を過去に潜って来たとはいえ、なんやかや最終的にはギリギリルールに守られた格闘技世界に数年染まってしまった俺では…
それが、
どうした!
『ああっ、追い込まれた絶対王者HAL!
これは空手の…天地上下の構え!
この窮地で原点に還るかッッ!!
一方の神崎高志!
あくまで無構えでゆっくり歩み寄る!
両者!互いの空手…己が迫真空手をぶつけ合う!!』
観客は息を呑み、黙り込む。
いよいよ、最終局面。
皆がその事を理解していた。
そして…互いが右正拳逆突きを繰り出す!
それが中間位置で激突する!!
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