鎖の夢 ~または何故、僕は愛してもいない女性に600万円を貢ぎ続けたか~

俊也

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枷を振り払って

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次の休み、弥生から呼び出しがかかった。トレーニング以外の余暇は休養に専念したい僕は体調が悪いからと断ろうとしたが、弥生は、駄目だよ私も夜勤明けで疲れている中来たんだからと承知しなかった。
例のカフェで向かい合って座る。
「ほら笑顔を浮かべなよ。約束したでしょ。」
弥生の言葉に、僕は顔をひきつらせた。
目の前に、いくつかの企業の会社案内が差し出される。
「約束の三カ月、もう過ぎてるじゃん!今日はどの企業を受けるか決めて帰ってもらうよ!」
弥生の言葉に、僕は顔の引きつりを増して答える。
「ちょ、ちょっとイレギュラーが続いて、球速測定自体がまだできていないんだ。それの結果が出たら、ちゃんと対応するからさー。」
「なにそれ!やっても成功するわけない挑戦にこだわってもしょうがないじゃん!どの企業を受けるか早く決めて!」
冗談じゃない。僕は次回の測定にすべてを賭けるつもりでいるのだ。そんな訳の分からない要求に応じているどころではない。
無論表に出しては、僕は卑屈になって頼み込んだ。
「頼む!お願いします!最後の挑戦なんだ。測定が終わってファースト・ドア社のリアクションがはっきりするまでは就職云々はちょっと待ってください。」
テーブルが無かったら土下座しそうな勢いの僕に、弥生は苛立ち呆れたような表情を浮かべた。
「わかった。来月まで待ってあげる。それ以上は延ばさないからね。」
「ありがとう!ありがとうございます。」
こうしてどうにか、僕は最後の挑戦への切符を死守したのであった。

そして、測定日当日。今度こそは晴れてくれた。
夕方六時過ぎに最強レベルのドリンク剤を飲んで、僕はグラウンドに向かった。十五分程、ゆっくりとウォーミングアップをする。そうこうしているうちに、小笠原君達がやって来た.。人数は四名。
ナイター照明の独特な雰囲気にはしゃぎ出し、さっそくサッカーボールを蹴り始めてしまった手塚君達に対して、まずは僕の球速測定と撮影に三〇分ほどくれと大声で頼まなければならなかった。
中学生時に野球経験のある鈴木君というバイトに、キャッチボールの相手をしてもらう。
なんとかウォーミングアップとセッティングを済ませ、測定開始。
第一球。
「一〇五キロ!」
よっしゃ、いきなりの自己最速をマーク。むろん目標には程遠いが、僕はまだエンジンを全開にはしていない。
八球目。
「一一二キロ!」
大分肩も温まって来た。
十五球目。
「一一九キロ!」
おーし!と僕は叫んだ。まだまだ、ここからがフルスロットルだ。
しかし…。
「一一五キロ!」
「一一三キロ!」
頭打ち…やはり体調を崩した影響が…。
だめだ、諦めるわけにはいかない。何としても今日で一三〇キロを出すんだ!
僕は脚を蹴り上げ、腕を思い切り振り抜く。
「一一八キロ!」
まだやるんすかーと小笠原君が突っ込む。もうすこし、あと十球投げさせてくれと僕は声を張り上げた。
「一一七キロ!」
遂にラスト…。僕はうおおと吠えてぶん投げた。
「一一五キロ!」
終わった…。目標値には十一キロ届かず。最後の挑戦に僕は敗れ…。
いや!
前回の測定より飛躍的に向上しているではないか!
先月末の測定日中止とその後の体調不良というハンデが無ければ、僕は間違いなく目標値を達成していた!
その事を最大限、セカンドピクチャーに、ファースト・ドア社にアピールして行こう!
クールダウンのキャッチボールをしながら、僕は次なる戦略を思い描いていた。
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