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追い込み

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追い込み…まさに追い込みであった。ひたすら下半身を追い込み、ボールをぶん投げる。
ジムに移ってからも、スクワットの重量を一五〇キロに増やし、腰と臀部の筋肉が悲鳴を上げるまで動作を反復する。予定にはない重量増であったが、仕方がない。何としても出さねばならないのだ球速一三〇キロを。さらにはその上の数値を。
ファースト・ドア社にスポンサードを担ってもらい、さらに質量ともに充実したトレーニングをして、プロ野球入りを果たし、多額の契約金を手にする。
まるで地に足のついていない夢物語に縋る事。
それが僕に、唯一残された、絶対的な逆転の方策であった。
トレーニング後、シャワーの蛇口を片手ではひねれないほどに、僕は消耗しきっていた…。
翌日。マイケルバーガー豊橋店。
「週末の発注が全般に多すぎるんだけど⁉ちゃんと予測計算したの⁉」
西原店長が発注表を僕の目の前に突き出してくる。
「え、えっと…先週もそのぐらい売れたからいるかな…と思って…すみません。
気を付けます。」
「先週と今週じゃ状況が違うでしょ⁉野菜バーガーキャンペーンも終わりに近づいてるんだし…なんかちょっと最近仕事が一層雑になってない?社員になりたいんでしょ⁉もっと自覚をもってきっちり仕事をして!川上君はこんないい加減な発注はしないよ。」
「はい…すみません。」
本当はここの社員になんかなりたくないのだ。僕は自分の夢を追って、高みを目指して跳躍したいのだ…。
しかし現実は、僕がここマジィ社の社員になりたがっているという前提で、全ての話が進められてしまっている。その流れを止めるには…。
やはり月末の撮影で、ファースト・ドア社が満足する結果を出して見せるしかない。マジィ社入社という名の現実に対する敗北は絶対に避けねばならない。
決戦はもうすぐだ。勝たねばならない。

九月最終週。いよいよ撮影日前夜である。
カメラ、スピードガン、グラブ、ボール。それと後は…。
ふと肝心なことが気になって、僕はニュース番組にテレビのチャンネルを合わせた。
「東海地方は、全般に、天気が崩れ…。」
マジかよ…。
野村さんと連絡を取った。明日の朝の天候を見て決めようという結論に達する。
そして、翌朝…。
無情にも、土砂降りの雨…。畜生…。
「まあええやろ、まだ予備日があるって。」
野村さんはそう言ってフォローしてくれた。
そうだ。来週の月曜がある。それまでにきっちりコンディションを整えておくことが肝心だ。
俺はなるべくトレーニングの量は減らし、プロテインなど人工のサプリメントも控え気味にし、なるべく天然のものを食べるようにした。(実家暮らしのありがたさが、こういう時身に染みる)睡眠もなるべく長くとるようにした。相変わらず弥生は無遠慮に深夜に着信を入れてきてはいたが。

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