鎖の夢 ~または何故、僕は愛してもいない女性に600万円を貢ぎ続けたか~

俊也

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交際宣言!?

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それよりも…。だ。
これでますます、僕は成功させるしかなくなった。
もちろん、球速向上プロジェクトを、だ。
球速が飛躍的に向上して、ファースト・ドア社からの支援が得られれば、そして奇跡のプロ野球入りが実現すれば、ケチな借金など消し飛んでしまうのだ。
やるしかない、きっとやれる、やってやる。
僕は走る!グラウンドをひたすら駆けずり回る!
ボールにひたすら魂をぶち込み遠投を繰り返す!
一球入魂を念じつつ…。
壊れてもいい。と僕は考えていた。
どの道僕の肉体がトレーニングに耐えられず限界を迎え悲鳴を上げるようなら、それまでの才能、それまでの男であったという事だ。
これは大いなる賭けなのだ。
肉体が崩壊するか、当面の目標である球速一三〇キロを実現するか。
賭けに敗れ、マジィ社で働くことになった際には、どうせ中途半端な身体能力は不要だしな。
しかし僕は必ず勝つ!
勝って…奪われてばかりの自分の人生を、運命を変える。
僕はそういう思いを情熱(狂熱と言ってもよかった)に変え、ひたすら自分の肉体を苛め続けた。
杉野弥生に、マジィ社に毅然とした態度を取れない惨めさが、歪んだ形となって化学変化を起こし、この尋常ならざる情熱を加速させているのかもしれなかった。

翌日、マイケルバーガーでの勤務中。
小笠原君が、にやつきながら近づいてきた。
「橋本さん、こないだ女と一緒に歩いていたでしょ?」
しまった…。弥生とのツーショットを見られてしまった。職場の人間に…。
「えっ、マジ⁉可愛かった⁉」
手塚君まで話題に食いついてきた。
「まあまあ普通に可愛かったよ。橋本さーん。あれ彼女ですか?」
「あ、ああ。そうだよ。」
…!
なんでそう答えてしまったのか、僕にもわからなかった。職場の仲間たちへの、せめてもの見栄だろうか。
あるいは恋人に昇格を許されないまま精神的、金銭的に束縛されている弥生への、一種の意趣返しであろうか。
これだけ僕を縛っているんだ。せめて見えないところでは彼氏面させてくれてもいいだろうという思いか…。
とにかく学生バイト達のリアクションは予想以上であった。
「おおーっ。」
「やるじゃないっすか橋本さん。」
冴えない外見の僕が、それなりのレベルの女性と付き合っているという事が、よほど意外で、話題性のある事だったらしい。
「どんな子なんですか?」
「写メありますか?」
「出会いは?」
「どうやって口説いたんすか?」
根掘り葉掘り、それこそワイドショーのレポーターのように、いろんな事を聞かれた。
僕は「機密保持」に差支えの無い範囲で、時に適当な創作を交えつつアルバイト達の質問に答えた。写メに関しては、彼女が極端な写真嫌いなので…といってどうにか誤魔化せた。
この日を境に、若干ではあるが学生アルバイト達の僕を見る目が変わった気がする。杉野弥生との関係性をプラスに利用できた、数少ない事例の一つと言ってよかった。
やはり、彼女がいるというだけで変わるものなんだな…。
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