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詰問
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その後のジムでのトレーニングにも、僕はテンション高く臨むことが出来た。
ある妄想に駆られながら…。
『今日は今をときめくプロ野球の速球王、橋本俊選手と、グラビアアイドルの和泉明日香さんとの婚約会見を執り行わせて頂きます。』
僕の隣には、本来グラビアやテレビ画面でしか見られない筈の、十分すぎるほどの色香を持った女性が座っていて…。
このまま僕が常時時速一五〇キロ超の剛速球を投げられるようになれば、それは決して妄想ではなくなるのである…。
いや…。
待て…。
その場合、弥生はどうなる?
『本誌だけに語った、結婚目前橋本俊の元交際相手の証言!』
『数百万の借金を踏み倒す!』
『中絶を強要される』
…そんな記事が、週刊誌を賑わすかも知れないのだ。
夢を阻害している鎖は、夢を叶えたとしても外れるわけではないのかもしれない。
八月上旬。給料日直後。
この日は午後から勤務が有った為、午前中だけという約束で弥生に会っていた。
本来は肉体の成長の為には、こういう時間も寝ていたいんだがな…。
駅前ビルのカフェでお茶した後、例によってATMの方に向かう。
「え⁉これだけ⁉」
五万円…。
後ろに列が出来ていたので、ATMを一旦出る。
人気のない非常階段の踊り場に、僕は連れていかれた。
「ちょっとこれ、どういうこと⁉ふざけてるの⁉」
腕組みをして、僕を詰問する弥生。
蛇に睨まれたカエル以上に怯えた表情に、僕はなっていたであろう。
「ご、ごめん。せ、先月はトレーニングの為にバイトを減らしちゃったんだ。あと、プ、プロテインとかも余分に買ったから…。」
「なにそれ…。無駄なことに時間とお金を使うなって言ってたじゃん。バイトが減ったなら日雇いでもして稼ぎなよ!」
「ちょ、ちょっとそれは…。」
「だいたい夢って言うけど今からトレーニングして野球選手になろうってのが間違ってるのよ。聞いたことないよ。大人になってからトレーニングしてプロになったなんて…。サークルの元仲間の人たちにも馬鹿にされてるって気付かない?」
そういう前例のない、誰もが馬鹿にするような夢を叶えるからこそ意義があるのだ…などと言える空気ではない。少なくとも僕には言えない。
「で、どうするの⁉」
弥生は僕をキッと睨む。
「む、無理だよ…。」
「無理じゃない!親から何か理由つけてあと四!借りてくればいいじゃない!」
「だ、駄目だよそんな…。」
押し問答しているうちに、出勤の時間が迫っている。
(いい加減にしろ!僕は君の財布じゃないんだ。そういう考えならもう二度と金は出さないし、会うこともしない。)
毅然としてそうやって言え、言うんだ!
内心の声がそう僕を叱咤するが、僕の声帯は従わなかった。従えなかった。
代わりにこう言った。
「ぼ、僕そろそろ行かなきゃ、バイトに間に合わない…。」
踵を返して、その場を離れようとする。
ある妄想に駆られながら…。
『今日は今をときめくプロ野球の速球王、橋本俊選手と、グラビアアイドルの和泉明日香さんとの婚約会見を執り行わせて頂きます。』
僕の隣には、本来グラビアやテレビ画面でしか見られない筈の、十分すぎるほどの色香を持った女性が座っていて…。
このまま僕が常時時速一五〇キロ超の剛速球を投げられるようになれば、それは決して妄想ではなくなるのである…。
いや…。
待て…。
その場合、弥生はどうなる?
『本誌だけに語った、結婚目前橋本俊の元交際相手の証言!』
『数百万の借金を踏み倒す!』
『中絶を強要される』
…そんな記事が、週刊誌を賑わすかも知れないのだ。
夢を阻害している鎖は、夢を叶えたとしても外れるわけではないのかもしれない。
八月上旬。給料日直後。
この日は午後から勤務が有った為、午前中だけという約束で弥生に会っていた。
本来は肉体の成長の為には、こういう時間も寝ていたいんだがな…。
駅前ビルのカフェでお茶した後、例によってATMの方に向かう。
「え⁉これだけ⁉」
五万円…。
後ろに列が出来ていたので、ATMを一旦出る。
人気のない非常階段の踊り場に、僕は連れていかれた。
「ちょっとこれ、どういうこと⁉ふざけてるの⁉」
腕組みをして、僕を詰問する弥生。
蛇に睨まれたカエル以上に怯えた表情に、僕はなっていたであろう。
「ご、ごめん。せ、先月はトレーニングの為にバイトを減らしちゃったんだ。あと、プ、プロテインとかも余分に買ったから…。」
「なにそれ…。無駄なことに時間とお金を使うなって言ってたじゃん。バイトが減ったなら日雇いでもして稼ぎなよ!」
「ちょ、ちょっとそれは…。」
「だいたい夢って言うけど今からトレーニングして野球選手になろうってのが間違ってるのよ。聞いたことないよ。大人になってからトレーニングしてプロになったなんて…。サークルの元仲間の人たちにも馬鹿にされてるって気付かない?」
そういう前例のない、誰もが馬鹿にするような夢を叶えるからこそ意義があるのだ…などと言える空気ではない。少なくとも僕には言えない。
「で、どうするの⁉」
弥生は僕をキッと睨む。
「む、無理だよ…。」
「無理じゃない!親から何か理由つけてあと四!借りてくればいいじゃない!」
「だ、駄目だよそんな…。」
押し問答しているうちに、出勤の時間が迫っている。
(いい加減にしろ!僕は君の財布じゃないんだ。そういう考えならもう二度と金は出さないし、会うこともしない。)
毅然としてそうやって言え、言うんだ!
内心の声がそう僕を叱咤するが、僕の声帯は従わなかった。従えなかった。
代わりにこう言った。
「ぼ、僕そろそろ行かなきゃ、バイトに間に合わない…。」
踵を返して、その場を離れようとする。
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