上 下
8 / 42

羽ばたく夢 牢獄の深さ

しおりを挟む
ネットニュースを見ると、ファースト・ドア社の某テレビ局敵対的買収の動きが報じられていた。
「堀根氏の野望。とどまることを知らず。」
「プロ野球団に飽き足らず、今度はテレビ局に食指。」
「拝金主義者の化けの皮、剥がれる。」
「古き良き日本の慣習を破壊する男、堀根浩二」
マスメディアではそんな声が溢れているようであった。

だが。
僕は信じる。堀根氏が革命を起こしてくれると。
そしてその波に乗って、僕自身も自分の人生に革命を起こすのだ。堀根氏が財界なら、僕はスポーツ界で。いつか並び称される存在になって見せる。
思い描いた理想のカリスマに、僕はなれると信じていた。信じたかった。

三日経ったが、セカンドピクチャーからの返信は来ない。
ちょうど休日だったので、正午に弥生に駅前に呼び出された。
給料日ではないのでお金を無心される心配はないが、あまり長時間付き合わされるとトレーニングの時間が確保できなくなってしまう。
程々にとどめておきたいんだがな…。
駅前改札で待ち合わせし、互いが視界に入りかけた際、弥生が友人らしき女性とばったり出くわした。
僕は常々きつく言い含められている通りに、踵を返して弥生と距離を取り、女性の視界に入らないようにした。
…お互いの友人や、親兄弟に、二人の関係が露見することを極端に弥生は嫌がっていた。
(二人で歩いているとき、離れて歩いてと指示されることも一度や二度では無かった。)
「ああ良かった会えて。橋ちゃんが唯一の癒しだよ…。」
正式に恋人にする気はないくせに、弥生は事あるごとにそんなことを言う。
例によって駅前のマックで、彼女は仕事の愚痴を延々とこぼし、それに飽きるとなぜか芸能界のゴシップに話題を転じた。
「あの女優、二十五歳年上の俳優と結婚したんだよね。私もどうせするならそのくらい年上がいいな。」
一瞬僕は目を丸くした。
弥生が結婚を意識した発言をするとは。
だが。
「だってそれくらい男の方がオジサンなら、体の関係もそれほどなくてもいいでしょ。結婚しても絶対そういう関係は嫌だから。」
ああ、やっぱり弥生は弥生か。
男女間のスキンシップ、セックスにまつわるアレコレを頑なに拒絶する。
歪な恋愛観。
まあそういう考え方もありだろう。個人の自由だ。
だがこの僕はどうなる?
君一人が自分で作った牢獄の中に安住し続けるのは自由だが、現実には僕もそこに延々と投獄されているのだ。精神的、金銭的に縛られて。
かといって彼氏、恋人としての尊厳も与えられるわけでもなく…。
君にとって僕は何なんだ?
もっと言えば、君が考える二人のゴールってどこにあるんだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R15】メイド・イン・ヘブン

あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」 ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。 年の差カップルには、大きな秘密があった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

四年目の裏切り~夫が選んだのは見知らぬ女性~

杉本凪咲
恋愛
結婚四年。 仲睦まじい夫婦だと思っていたのは私だけだった。 夫は私を裏切り、他の女性を選んだ。

★【完結】小さな家(作品240305)

菊池昭仁
現代文学
建築家の宮永新一は、海が見える小高い丘の上に、「小さな家」の建築を依頼される。 その依頼主の女はその家にひとりで暮らすのだという。 人間にとって「家」とは、しあわせとは何かを考える物語です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...